第7話 薔薇の棘を隠し持つ乙女
ボディガード、最終日。かなちゃんと私が手を挙げる。
「まる氏! 誓いの言葉を!」
「我! 女に二言は無し! の! 言葉のルールを守り、必ずしおり先輩を守り抜く事、そして、BLをこよなく愛する事を、ここに誓います!」
「足りない! もっと、心をこめて!」
「こーこーにー! ちかいまぁぁあぁぁあす!!」
かなちゃんと私が腕を下ろす。握手を交わす。
「最終日、頑張るでござる」
「拙者、頑張るでございまする」
かなちゃんが私の手を離す。
「本日、某は係の仕事で忙しい故、放課後の残り時間を頼むでござる。まる氏」
「あいあい!」
「行ってくるでござる!」
「行ってらっしゃいでございまする!」
「「するするするする!」」
「「あひゃひゃひゃひゃひゃ!」」
私とかなちゃんがおしとやかに別れる。私はかなちゃんの代わりに図書室に行く。本を持ったしおり先輩が待っていた。
「ああ、まる」
「こんにちは」
「こんにちは」
しおり先輩が微笑みながら大量の本を持ち、ふらふらと本棚に戻していく。
「しおり先輩、手伝いますよ」
「大丈夫よ」
「先輩って図書局なんですか?」
「いいえ。ただ、人手がいないから頼まれてて」
「頼まれて、引き受けたんですか?」
「ええ。助け合い精神って、大事でしょう?」
(素晴らしい!)
私はこのお嬢様に拍手を送りたい。
「先輩、私持ちますよ」
「あ、じゃあ、こっちを……」
その瞬間、棚から大量の本が一斉に落ちてきた。
「え?」
「ひえ?」
突然の出来事に、悲鳴をあげる。
「ぷぎゃあーーーーー!」
本が散らばる。しおり先輩に本が当たりそうになる。
(私は、最後まで、守り抜く!)
体を無理矢理起こして、しおり先輩の壁になる。本が私の背中に落ちてくる。
(いでで、いでで! いでででで!)
最後の本が、ぽてりと当たる。私がしおり先輩を押し倒した状態で守り抜く。しおり先輩がぽかんとした。私はしおり先輩の盾になったまま、声を出す。
「……だ、大丈夫ですか……?」
「まるが大丈夫?」
「私は大丈夫です」
「私、平気なのに」
しおり先輩が、ふふっと笑った。
「まるってば、本当に無茶ばかりするんだから」
そっと、頭を撫でられる。
「大丈夫なのに」
ぱたぱたぱた。
「……」
しおり先輩が顔を図書室の出入り口に向ける。何も気付いてない私はゆっくりと起き上がる。
「先輩、お怪我はありませんか?」
「まる」
そっと頬を撫でられる。
「もう大丈夫」
「はい?」
「一週間、ありがとう」
しおり先輩が、にこりと微笑んだ。
「お陰で、風紀の乱れを解消出来たわ」
「え?」
「きゃあー!!」
出入り口から、悲鳴が聞こえた。慌てて振り向くと、数人の女子生徒が、二人の女子生徒を取り押さえていた。
「しおり様!」
「押さえました!」
「取り締まります!」
(へ?)
私はぽかんとする。しおり先輩がゆっくりと立ち上がる。
「集計」
低くなった声に、一人がしおり先輩の前に走ってくる。
「一週間で、愛の告白153名、嫉妬による嫌がらせ201名、制服の乱れ30名です!」
「よろしい」
しおり先輩が髪を払った。
「風紀委員として取り締まりなさい」
「はっ!」
「ごめんなさい!」
「すみませんでした!」
「しおり様! しおり様ぁーー!」
女子生徒が連れて行かれる。私はぽかんとする。しおり先輩の手が、私の頭にゆっくりと置かれた。
「ありがとう。まる。私を守ってくれて」
なでなでなでなで。
「風紀の乱れは心の乱れ。この学園の風紀は、委員長である私が取り締まるのが役目なの」
なでなでなでなで。
「せっかく二年生で抜擢されたんだもの。全力でやらないと」
なでなでなでなで。
「でも、かなちゃんってば、いいものを紹介してくれたわね。こんな有能な猫がいてくれたら、私も助かっちゃうなーーーーーあ」
なでなでなでなでなでなでなでなでなで。
「まる」
にっこりと微笑まれる。
「私、まるが気に入っちゃった」
手を掴まれる。
「おいで」
「ひえ」
さっきとまるで違う目の色のしおり先輩に引っ張られる。
「こっち」
「あの」
図書室の倉庫に引っ張られる。
「こっち」
「あの!」
扉が閉められる。がちゃんと、鍵がされる。
「なして鍵をするんですか!」
「まる」
しおり先輩の手が私の横の壁に置かれる。
「えっと」
「逃げないの」
しおり先輩の手が私の横の壁に置かれる。
「あの、あの、あの……」
逃げ道をなくし、うずくまる。
「ふふっ」
しおり先輩がにこりと笑い、私を見下ろす。
「改めて、自己紹介を。私は、風紀委員長の西園寺詩織と申します」
かなちゃんの幼馴染です。
「美しい容姿で生まれ、社長令嬢として育ちました」
人々は私をこう呼びます。美しき薔薇と。
「美しい花には棘がある」
「その通り」
「私は風紀を乱す奴らを許しはしない」
「徹底的に叩き潰す」
「そのためならば、この容姿を利用しない手はない」
ほら、見て。私、見た目はとても可愛いでしょう?
「心が乱れている奴らが、私に近付く」
取り締まります。
「別に、恋心を踏みにじるわけじゃない」
馬鹿にしているわけでもない。
「ただ、この学園にはふさわしくない」
外でやるならどうぞご自由に。
「ここでやるから問題なの」
馬鹿な奴ら。
「まるが私を守ってくれたお陰で、静かに調査が出来ました。ありがとう」
なでなでなでと、撫でてくる手が怖い。私の顔が、必然と引き攣っていく。
「あ、そうだ。この事はかなちゃんには内緒にしてね。私、かなちゃんにはばれたくないの」
昔から、妹みたいに可愛がってるから、色々と厄介でしょう?
私はこくこくと頷く。
「もちろんです! 委員会のお仕事で、仕方なくやってるんですもんね!」
「そうなのー。仕方なくなのー」
「素晴らしいです! あはは! じゃあ、私のボディーガードも必要なかったですね!」
私は足をずらす。しおり先輩の足がその先に壁を作った。
「でも、お陰でまるに会えたわ」
私の頬に、しおり先輩の手がくっつく。
「ねえ、まる」
しおり先輩がにこりと笑う。
「このまま、恋人になっちゃおうか」
私の目が、びきり、と引き攣った。
「ほわっつ?」
「だって、このまま、まるを外に出したら、まるが口を滑らせて、言ってしまうかもしれないでしょう?」
しおり先輩の手が、私の顎を掴んだ。
「だったら、言わないように、関係性を作ってしまえばいい」
いいよ。
「私、まるが気に入ったから、まるならいいよ」
ぐい、と上を向かされる。
「恋人じゃなくても、そうね。私のペットくらいにならしてあげてもいいわ」
ペット。
「そうね。猫がいいわ」
私の猫。
「まるならぴったりよ」
いいよ。
「まるなら、この私の猫にしてあげる」
可愛がってあげる。
「ね? まる」
しおり先輩が微笑む。
「私の猫になる?」
「なりません」
目を逸らしたまま即答すると、ふふっとしおり先輩が笑った。
「照れてるのね。可愛い」
「照れてません」
「風紀委員に入れとは言わないわ。ただ、私の側にいてくれたらいいの」
「ぼ、ボディーガードは、今日までってお約束です……」
「そうね。ボディーガードは今日で終わりで」
猫になれと言ってるの。
「私の可愛いペットになって」
「い、嫌です……」
「どうして? 私のペットになれるのよ?」
「だ、大丈夫です……。間に合ってます……」
怖い!!
(このお嬢様、やべえ!!)
裏表が激しすぎる!!
(怖すぎる!!)
「あの、もう、帰ります……」
「駄目」
「か、かえります……」
「駄目」
「帰ります!」
「駄目よ」
しおり先輩が私の顎をぐっと掴んだ。
「いけない子」
手首を掴まれる。
「ひぇっ」
「言葉が乱れてる」
私の耳に、しおり先輩の口が近付いた。
「風紀委員として、取り締まります」
ぱく。
「ひゃ……!」
耳を咥えられる。
「な、何してるんですか!」
肩を押すが、びくともしない。ぐーっと押した瞬間、しおり先輩の歯が動いた。私の耳を、かぷ、と甘噛みしてくる。
「っ」
体が強張る。
「ん」
「ふふっ」
しおり先輩の吐息が、耳にかかる。
「んっ」
「感じやすいのね」
かぷ。
「……ぁ……」
「我慢しなくていいのよ」
かぷ。かぷ。
「や、やめ……」
「まる、足がくがくじゃない」
変な感覚に足が震え出す。壁が無かったら立てないだろう。ということは、
(歩けない……)
逃げられない。
「し、しおり先輩、私、誰にも言いませんから……!」
「ふふっ。駄目よ。まる。私の猫になるって言うまで、もう絶対離さないんだから」
かぷ。
「ぅうんっ」
「気持ちいい?」
かぷ。
「や、やです……」
「呼吸が乱れてきてる。いけない子」
かぷ。
「あの、あ、あの、あの……」
「まるは、経験ある?」
「な、なんですか?」
「無いのね」
じゃあ、
「お姉さんが教えてあげる」
しおり先輩の指が私の体を撫でる。下になぞられる。私の体がびくっ、と揺れる。しおり先輩の手が私のスカートをつまんだ。
「とっても気持ちいい事」
スカートが上に上がっていく。
「私の猫になったら毎日してあげる」
だから、
「その初心な体に、教え込んであげる」
そして、
「まるは、私のものになる」
私のスカートが太ももまで、上げられた。
――瞬間、
ばーーーーーん! と倉庫の扉が開けられた。
(むはっ!?)
手に鍵を握ったなでしこ先輩が思い切り扉を開けていた。
「あら」
なでしこ先輩がにこりと笑った。
「まるさん、ここにいらしたの?」
なでしこ先輩が、しおり先輩に抱きしめられている私に微笑む。
「どうも、しおりさん」
「これはどうも。なでしこさん」
しおり先輩がふわりと微笑んで、私を隠すように抱きしめる。
「今、この方の風紀を取り締まっている最中なのです。御用事でしたら、後程お伺いしましょう」
「その必要はございませんわ。私、その方に用事があるのです」
なでしこ先輩が私に手を伸ばす。
「ほら、まるさん、こちらにいらっしゃい」
「ふふっ」
しおり先輩が、私をぎゅっと抱きしめる。
「なでしこさん、風紀を取り締まってからでよろしいですか?」
「あら、しおりさん、わざわざ貴女のような方がそのようなことをされなくとも、私がその方を指導させていただきます。何分、問題児なもので」
「でしたらなでしこさんこそ、指導される必要などございません。私が取り締まりますわ」
「いいえ。結構です。私がさせていただきます」
「必要ございません。私がやりますので」
「まあ、しおりさんったら」
「なでしこさんったら」
二人が笑い出す。
「「おほほほほほほほほ」」
「……」
私は体を離そうとしてみる。しおり先輩の手が強くて、離れられない。ぎゅっと抱きしめられ、しおり先輩の胸に顔を押し付けられる。
(潰れちゃう……。私、潰されるんだ……)
天国のお爺ちゃん、今行くよ! ちーん。
「学園一の問題児ですもの。私が責任を持って、指導させていただきます」
なでしこ先輩が倉庫の中に入る。華麗に歩く。モデルのようにつかつか歩いてきて、私の手を握る。
「まるさんいらっしゃい。しおりさんに迷惑かけないの」
なでしこ先輩がにこりと、しおり先輩に微笑む。
「ですよね。しおりさん」
「うふふ」
しおり先輩の手の力がようやく緩んだ。
「……。では、今回はお願い致しますわ」
「ええ」
なでしこ先輩が私をくい、と引っ張る。私はなでしこ先輩の胸の中に戻る。
(ふわっ)
なでしこ先輩の匂いに包まれる。耳には、なでしこ先輩の声が響く。
「行きましょう。まるさん」
「……はい」
俯いて、なでしこ先輩に手を握られて、とぼとぼ歩いていく。後ろから、くすっと笑い声が聞こえた。
「まるさん」
振り向くと、しおり先輩がにっこりと微笑み、手を振っていた。
「またね」
閉める必要のない扉を、なでしこ先輩が強く音を立てて閉めた。
(*'ω'*)
生徒会室に投げ入れられる。
「ひゃっ」
扉が閉められる。鍵を締められる。
「はわ、せ、せんぱ……!」
後ずさると、手首を掴まれる。
「ご、ごめんなさぁー!」
ソファーに投げられる。
「ぴゃい!」
ソファーにダイブした私の上に、なでしこ先輩が乗っかってくる。
(うわあああ! 殺られるぅーー!!)
恐怖で心臓がどきどきどきどき!
「この馬鹿が」
なでしこ先輩に胸倉を掴まれる。
「薔薇の匂いをさせていると思ったら、やはりあいつか」
ぎょろりと睨まれる。
「まる、分かっているんだろうな?」
「も、申し訳ございませんでした!」
「ああ。何について、申し訳なかった?」
「えっと、えっと、えっと!」
――ん?
「なでしこ先輩、しおり先輩のこと、ご存じなんですか?」
「あのひねくれ者か?」
はっ!
なでしこ先輩が鼻で笑った。
「あいつの風紀の取り締まり方は間違ってはいないし、お陰で学園で風紀を乱すものがいなくて助かってはいる。しかし、あの女は気に食わない。嫌いだ」
(似たタイプですもんね……)
「まる、ご主人である私に、よくもぬけぬけと嘘をついたな」
何が勉強したいから今週だけお昼はかなちゃんと過ごします、だ。
「ふざけるな」
なでしこ先輩が私を睨む。
「指導だ」
なでしこ先輩が自分のリボンを、しゅるりと解いた。
「二度と嘘がつけないようにしてやる」
(あ、私の人生、終わった)
短かったなあ。
(かなちゃぁーん! 私、頑張ったよねー!?)
なでしこ先輩が上から覆い被さり、私の首に顔を埋めた。
――ちゅ。
「んっ」
「お前は私のものだ」
なでしこ先輩が私のリボンを解いていく。
「私の猫だ」
ボタンを外される。
「いいか。今からお前に許されるのは、猫語だけだ」
にゃーん。
「反省の言葉を、猫で返せ」
――ちゅ。
「……んっ」
なでしこ先輩が私の首に唇を押し付ける。肌を鼻でなぞり、耳に辿り着く。
「あの女、私の耳に何をしてきた?」
「え……? されたのは、私の耳で……」
なでしこ先輩の手が私の顔を覆った。
「猫が言葉を喋るな!」
「んな無茶な!」
「お前に許されたのは猫語だけだ!」
「んな横暴な!」
にゃーん。
「私に嘘をついたことを反省しろ」
かぷ。
「っっっっ」
耳を甘噛みで咥えられ、私の体がびくんっ、と跳ねた。
かぷ、かぷ。
「や、せんぱ……」
「猫語」
ふう。
「ひゃっ……!」
「猫語で反省の言葉を述べたら、許してやる」
かぷ。
「ん、んんん……!」
「まる、早くしろ」
かぷ、かぷ、かぷ。
「あ……あぁ……」
なでしこ先輩が耳を甘く噛んでくる。噛まれたら、胸がきゅんとして、頭がくらくらしてくる。息が乱れてくる。
「……に、にゃっ……」
言われた通りにする。
「にゃあ……」
なでしこ先輩、嘘ついて、すみませんでした。――かぷ。
「ふうぅ……!」
「足りない」
なでしこ先輩が私のシャツのボタンを外していく。
「もっと反省しろ」
なでしこ先輩の指が、私のお腹に触れた。
(ひゃっ!)
つー、となぞられる。耳は甘噛み継続。かぷ、かぷ。
「にゃー!」
なでしこ先輩、嘘ついてごめんなさい!
「にゃー! にゃあー!」
かぷ、かぷ。
「んん……にゃ、にゃあ……」
「まる」
なでしこ先輩の低い声が、耳にかかる。
「……ふぇっ……」
「反省するまで、終わらないぞ?」
かぷ。
「ふぁっ! にゃ、にゃん!」
なでしこ先輩、嘘ついてすみませんでした!
「その程度か?」
かぷり。
「にゃ、にゃぁ……、にゃ、にゃ、んっ、にゃぁ……」
「ああ、そうか。反省するには指導が足りないのか」
かぷ。かぷ。かぷかぷ。――ぺろり。
「にゃぁあん!」
思った以上に甲高い声が出て、はっと口を手で押さえる。
(恥ずかしいっ)
「っ」
「何を隠す?」
なでしこ先輩に手を握られて、退かされる。
「早く。反省の言葉」
「~~っ」
恥ずかしくて、もう無理です。首を振る。
「駄目だ。続けろ」
ぶんぶんと、首を振る。
「まる、いけない猫だ」
なでしこ先輩の声が更に近くなった気がした。
「だったら、厳しめの指導をしなくては」
――ぬるりと、耳の中に舌が入ってきた。
「っ!」
びく、と肩が揺れる。
「ほら、続けないと終わらないぞ」
「……にゃ」
継続は力なり。
「にゃ、にゃぁ……」
ぬる、ぬる。
「ふみゃ、……にゃ、……にゃ……」
ぬるん、ぬる。かぷ。
「み、みゅ……にゃ……にゃん……」
れろれろれろれろ。
「ふにゃぁああ……!」
れろりれろり。
「ぁ、にゃ、にゃ……にゃ……にゃ……」
息が乱れる。
「にゃ、んん……っ……にゃ……みゃ……」
かぷ。
(そこ、ばっかり……。もう……やだ…。むずむずする……!)
同性の先輩が、耳に悪戯しているだけ。
(それだけ)
なのに、こんなにも呼吸が乱れる。
(もう終わって……)
じわりと涙が出てくる。
(終わってよぉ……!)
れろり。
「にゃああ!」
驚いて、びくっと体が揺れる。なでしこ先輩の指もぴくりと揺れた。なでしこ先輩が――ふいに、私の耳から離れた。目が合った。
涙を堪える情けない顔の私を、見られる。
「……」
なでしこ先輩の手が、私の頬に触れた。
「ん……」
優しく、触れてくる。
「んにゅ……」
むに、とつねられる。
「ん」
むにむに、とつねられる。
「……にゃあ」
「まる」
なでしこ先輩が、私の額に額をつけた。
「反省したか?」
「……にゃー」
「そうか」
なでしこ先輩の手が、また私の頬を撫でる。
「よろしい」
少しだけ口角を上げて、私を胸に押し付ける。そのまま、ぎゅっと抱きしめられる。
「指導終了」
優しく、頭を撫でられる。
(ふぁっ)
「もう嘘をつくなよ」
なでなでなでなで。
「分かったな?」
「……はい」
「ん」
なでなでなでなで。
(なんか)
しおり先輩にも頭を撫でられてたのに、
(……こっちの方が落ち着く)
なでしこ先輩の手が、私の頭を撫でてくる。
(……落ち着く)
私の手が自然と伸びた。なでしこ先輩の背中に手を添える。
「まる、お前は誰の猫だ?」
「……なでしこ先輩の猫です……」
「よろしい」
ちゅ。
額に、キスをされる。
「忘れるなよ」
「……はい」
なでしこ先輩の手が、暖かい。なでしこ先輩の手が、優しい。なでしこ先輩に匂いに、包まれる。
(……落ち着く)
私は静かに、深呼吸をした。
(*'ω'*)
――目を覚ます。
瞼を上げると私を見下ろすなでしこ先輩が目に映った。
「……ん」
「起きたか」
ふわりと、頭を撫でられる。
「そろそろ寮に帰るぞ」
「……今何時ですか?」
「18時くらいか」
「……んん……」
ごろんと、寝返る。
「まだ眠いです……」
「夜眠れなくなるぞ」
「でも眠いです……」
「起きなさい」
なでしこ先輩の手がくすりと笑う。
「また指導されたいか?」
「っ」
私はがばっと起き上がった。
「帰りましょう!」
「ん」
鞄を持つ。立ち上がる。
「今夜は肉じゃがでも作るか」
「おお、いいですね!」
私はなでしこ先輩の横を歩く。
「肉じゃが大好きです!」
「買い物に行くぞ。荷物持ちは任せた」
「はい。持ちます!」
「その代わり、美味しいのを作ってやる」
「はい! お腹空きました!」
「まる」
「はい!」
顔を上げると――なでしこ先輩が私の頭を手を乗せた。私はきょとんと瞬きをする。それを見て、なでしこ先輩が吹き出した。
「……ふふっ……」
「……?」
(なんでこの人急に笑い出したの?)
私が目をぱちぱちさせればさせるほどなでしこ先輩が上機嫌になり、私の頭から手を離す。
「行くぞ、まる」
「え? あ、……はい!」
二人で生徒会室を出て廊下に出る。扉は今日もぱたんと閉められた。
「……」
「しおり様……」
「ああ、お機嫌がお悪いようで……」
「あの、何か、不手際がございましたか……?」
どごんっ!
「「ひいいい!」」
「まる……」
応接室で、しおりが自分の膝を見下ろす。
「お前がいないんじゃ、膝が寒いじゃない……」
なでなでと、自分の膝を撫でた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます