第12話 えのき茸博士の見解

「空前のえのき茸ブームが到来して早1ヶ月が経とうとしておりますが、この番組でもそのブームの要因と、色褪せない魅力を保ち続けるえのき茸の秘密について迫りたいと思います。本日スタジオには、公益財団法人日本えのき茸協会名誉会長であり、えのき茸大学えのき茸学部えのき茸学科の教授に着任していらっしゃいます榎田白キノコ雄さんが来てくださっています。榎田さんよろしくお願いします。」


「よろしくお願いします。」


「さて、さっそくですが、このブームについて榎田さんはいかがお考えでしょうか?」


「はい。まず注目すべきは、タピオカブームの次に、このえのき茸ブームが到来したという点でしょう。タピオカの場合は、みなさんご存知のとおり、ミルクティーなどとのコラボレーションにより成り立っていました。タピオカ単品で食べる人はあまり見かけませんでしたよね?それに対して、えのき茸に関しては、手軽に靴から収穫できますし、その場で齧り付くことができます。つまり、えのき茸は単体で成立する食べ物であるということです。昨今は『コラボレーションシンドローム』という言葉に代表されるように、何かと何かを組み合わせて初めて成立するという使い古された構図に、現代人は疲れ切っているのです。」


「自立していることが魅力ということでしょうか?」


「そうですね、それが一番の要因であると考えられます。現代人の心理的な世相を反映する上で、えのき茸は格好のシンボルであるというわけです。また、生産技術の向上で、人間の足の皮脂から菌を吸い上げ、専用の靴から生やすという自給自足的な生産構造となった点も、サスティナビリティを好む現代人の嗜好とも合っていると考えられます。」


「分かりました。タピオカブームはSNSの力も火付け役となり、爆発力となりましたが、えのき茸についてはどうでしょうか?」


「はい。どちらかというと、派手さや、かわいさ、華やかさを追う、いわゆる「映え」の時代は終わりつつあります。もっと落ち着いた、安らぎや心地よさなどを表現して発信したいと考えているユーザーが増えつつありますから、その点に関しても、えのき茸のクリーミーな白さは時代の波にも乗り、これからさらなる拡散の可能性を秘めています。」


「分かりました。しっかりとした根拠のあるブームなのですね。ありがとうございました。それでは最後になりますが、先生に是非えのき茸の魅力について一言いただきたいと思います。よろしくお願いします。」


「はい。私はえのき茸嫌いです。マズいし臭いし歯に詰まるんで。」



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