第3話 醤油を並べる
僕は醤油のビンを綺麗に陳列する使命を与えられている。それが僕の唯一の仕事。
早い時は朝8時から。日が暮れる夕方6時まで。退屈だが規則正しい毎日。
でも醤油を並べるための命ってなんだ。
僕はそんなことのためだけに生まれてきたのか?
何とかしてこの作業に楽しさを見つけたい。生きる意味を見つけたい。
並べ方は一通り試した。
あいうえお順
色分け
産地ごと
ある特定の規則に従って。
いろいろと試しているうちに、少しずつやりがいを感じてきた。
そしてついに、
寝ている間も醤油を並べる夢を見るようになった。
真っ白な背景の中、透明な棚に醤油を並べる。
これは夢だ。どうせ夢だ。自分の直感で、一番美しいと感じる並べ方を追求しよう。これは一種の芸術なんだ。やりたいように、美しく並べよう。
夢の中での作業を何度か繰り返していると、嬉しいことに、現実の世界でも、夢の中で並べたとおりに醤油が並ぶようになった。
これは奇跡だ。いつのまにか僕は醤油を並べ続ける行為を、楽しいと感じるようになっていた。僕は芸術を手に入れた。
さて、僕は今日も部屋の本棚に、醤油を並べ続ける。楽しい。
僕の人生はこれでいいのだと思える。
僕の人生はこの狭い部屋の中で完結する。美しく並んだ醤油たちが微笑み、祝福してくれる。
幸せだ。
果たして彼ら以外に、いったい誰が僕を肯定してくれるだろう。
終
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