空が暗く見えた日

「先……生……」


俺の腕を掴んでいるのは間違いなく先生だ! でも何故邪魔をするんだ。そいつらは、人間を化け物扱いする奴らだ。なのに、


「何故邪魔をする!」

「頭を冷やせこの大馬鹿者!」

「?!」


先生は俺を睨んでいた。怒っていた。けれど、どこか悲しそうだった。けれど、その時の俺には恐怖と不安が募っていた。どうして先生が怒っているのかと。


「お前は今何をやろうとした」

「何って、悪いやつらを殺そうとしただけだ!」

「悪いやつらってこの村の人達の事か」

「そうだ! そいつらは俺の事を化け物って言ったんだ! 人間である俺をだ! 同族を同族と見ずに化け物なんて言うやつは死んだ方がいい! 殺すべきだ!」


パァン。


思考が一瞬停止した。何故か横を向いていた。頬が熱くなるのを感じる。じんわりと、内側から。頬に手を触れる。恐る恐る先生の方に向きなおす。先生の手が見えた。先生の顔も見えた。悲しげな表情だった。


先生は俺を叩いたんだ。初めてだ。そんなことは。


「なんで、どうして」

「お前は人間だ。誰が何と言おうと人間なんだ。だがおまえは化け物だと言われた。それは××がそう『言わせたんだ』」

「?!」


先生は魔物の死体の山を見る。どれもこれとまともな死に方をしていない。


「私は前に言ったが、今もう一聞く。『魔物を殺してどう思った?』」

「………………」


俺は答えることが出来なかった。何も思わなかったからじゃない。理想的な『答え』もある。けれど言えなかった。思った事が『俺のわがまま』だからだ。だから答えることが出来なかった。

俺は俯いてしまった。


「……ナイフはどうした」


俺の腰にナイフがないことに気づいた。


「…………」

「ナイフはどうした!」


体がビクッとなる。先生が怖くて上手く喋れない。


「おい……てきた」

「どうしてだ」

「俺にはもう、必要ないから」

「必要ない?」


俺は死体の山を指差す。


「俺は強くなった。もういらない。あんなものに頼らないぐらい強くなったんだ」

「!」


「かは?!」


先生は俺を殴る。俺は数メートルぶっ飛んで腹を押さえる。


「何が強くなっただ! 強くなったからナイフいらなくなったのか! じゃああれは何だ! 目に骨が刺さっている魔物は! 強くなったのなら、ナイフが必要ないのなら骨を刺す必要もないだろ! それに!」


先生は握りしめたてをさらに強く握りしめる


「あのナイフはお前の父親の形見だろ! 強くなったからいる要らないの物じゃなかっただろ! たった1人の父親の、大切な人の物だろう! 」

「うるさい!」


俺は先生の言葉も否定したかった。自分は悪くない。そう思いたかった。


「そんなものはただの『考え』だろ! 殺した魔物にも家族がいる大切なものがいる! だからその魔物の命を奪ったことを忘れてはならない! そんなものは先生の『わがまま』だ! 俺には関係ない! 俺は先生が目指してるから俺も目指しているだけだ! 殺したやつを忘れてはならないとか! そんなのは人の勝手だ! ナイフがなんだ! 必要ないから置いてって何が悪い! 父さんが大切な人って言う気持ちは心だ! 心にあるんだ! それをいつか無くなるものにその思いを乗せてどうする!」


言った。言ってしまった。自分のわがままを通したいが為に。言ってはいけないことを行ってしまった。


「……そうか」


先生は俺の方を向いていなかった。俺に背中を見せていた。表情は見えなかった。けれど声は震えていた。


「××、私はお前を…………」


何かを言おうとしていた。けれど言う前に深呼吸をしていた。


「お前を、拾わなければ良かった」


「……………………?」


今、なんて言ったんだ?


「私を探していたみたいだが、もう2度と。そんなことはするな」


もう二度と? それって、どういう


「もう二度と私の前に現れるな」


その瞬間、俺は自身が崩れるのを感じた。肉体的ではなく、精神的な意味で、家族も、知り合いも、親も、殺したあの日から俺の心は黒く染まっていた。光がない、絶望だった。けれど、そんな俺を救ってくれたのは先生だった。俺があのとき失ったものを取り戻してくれたのは先生だった。




俺は先生に救われた。




そして今、俺の心はまた真っ黒に染まった。先生に見捨てられた。俺は、何を間違ったのだろうか。考えれば直ぐにわかるのに、考えたくない。自身を通すために、間違ってないと否定したいがために。


気づけば、どこか知らない場所にいた。いや、一度通った道を戻っていた。どうしてかはわからない。なんで俺はここにいるんだろう。


「……疲れた」


…………今はもう、何も考えたくない。


眠りたい。























「×× ××」


誰かの声が聞こえる。聞き覚えのある声だ。誰だろう。最近聞いた声だ。


「××! ××!」


俺の名前を呼んでいる。でも今は眠りたいんだ。黙っててくれ。


「起きて! そこて寝ちゃったら死んじゃうよ!」


死なないよ。だからほっといてくれ。


「お願いだから! 起きて!」


黙ってくれないし放ってくれない。一度起きて言おう。


俺は目を覚ますとそこにいたのはシリカだった。雨が降っていて、傘をさしていた。

俺が目を覚すと笑顔になるがそれは一瞬で泣いてしまった。


「よかった! 体が冷えちゃうからどこかで雨宿りしよう! 傘1つじゃこの雨無理だよ!」


そう言うと俺を無理矢理起き上がらせて近くの大きな木の下に腕を引っ張られて連れていかれる。


「……何しに来たんだよ」


そうだ、シリカは、こいつは俺を恐れていた。化け物といった奴らと同じように。


「ごめんなさい!」

「?」


いきなり謝られた。


「魔物から守ってくれたのに、怯えたり、化け物って言ったり、本当にごめんなさい!」


また謝られた。


「別にいいよ。もうどうだっていい」


もう全てがどうでも良かった。正直、あのまま死んでも良かった。


「……どうして、さっきはあんなにも」

「もういい。もうどうだっていいから。俺は寝たいんだ。今すぐに。だから寝かせてくれ。そして起こさないでくれ。死にそうになっても放っておいてくれ」


そう言って俺はその場で寝ようとする。けれどシリカは止める。


「ダメです! 本当に死んたらどうするの!」

「死んだって構わない」

「……もしかして、さっきのお姉さんに怒られて」


聞きたくない言葉を口にしやがった!


「うるさいな! お前には関係ないだろ!! 」


怒鳴ったからなシリカはビクッとする。けれどそのまま萎縮せず強気で言ってきた。


「私たちがあんなことを言ったから! それが原因で××が怒られたのなら私たちのせい! 関係なくない!」


「!!」


すぐにわかった。こいつは何言っても返してくる。なら経たに言うより流れるようにしてさっさと終わらせよう


「怒られたのなら、謝る! 」

「……」

「私も一緒に謝るから行こ!」

「……はあ、俺はもう2度と会いに来るなって言われたんだけど」

「許してくれるまで謝る! 私もママに叱られたときはいつもそうしてるの!」

「……」


どこにいるかわからない人にどうやって謝りにいけばいいんだよ。


「へっくしょん!」


よく見ると全体的に僅かに濡れている。足は結構濡れている。傘をさしながらだが走ったからだ。


「……ちょっと我慢しろ」

「へ?」


俺は傘を持ってシリカを抱える。そして走り出す。

あそこが近い。あの感覚リンクを使える奴が使っていた家が。

つくと暖炉に薪をくべて火をつける。タオルとう持って暖まりながら服。


「ごめんなさい」

「待ってろ。今スープを作るから」


食料庫に食材が余っている筈だ。

その部屋に向かうと壁が壊れていた。壊したんだっけな。


その壊れた壁から隣の部屋が見える。その部屋の机の上に、ナイフが1つ置いてあった。


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