人間と化け物

「ここが奴らの拠点か」


村を襲った魔物達の逃げた方向へ行くとそこに木造建築の大きな建物が何軒も並んでいた。近くにあった森の木々が伐採されている。


「声が聞こえる……」


俺はその場でジャンプし、屋根を突き破って奇襲を仕掛けた。魔物は何体もいたがどいつもあまり強くない。すぐに家内が真っ赤に染まる。


「ひぃ!」

「くるな!」

「殺さないで!」

「いやだぁぁぁぁぁ!!」


魔物達の悲鳴が聞こえる。気にしない。殆どが逃げ惑う。立ち向かってくる奴もいた。


「この! くらえ! 水陣! 「宴刃えんやいば 」!」


水が俺を取り囲む。その水に触れると高速に流れているのか浅く切れる。


「ぐ! 俺の実力じゃ浅い切り傷しかつかない! だが、効かない訳じゃない!」


身体中が傷だらけになる。暫くして、水が無くなる。


「はあ、はあ、どうだ。これ……え?」


俺の切り傷は無くなっていく。血は出ている。のに傷がない。そんな光景に魔物は思考を止める他なかった。


「死ね」

「まっ?!」


魔物は一歩も動けず絶命した。僅かだが動けたはずだが魔力切れだろう。


「あ、ああ」


まだいたのか。聞こえる音からしてこいつが最後だな。本気で怯えている。強い俺はマモノカラモ恐れられるようになったのか、体だけでなく黙視でも強くなったと実感できる。


「おね、がい……みのがして、助けて」

「は? 魔物お前らに命乞いする権利なんてあるわけないだろ」

「やめて! おねが…………」


俺は魔物の頭を掴んで首から引きちぎる。ふと鏡が目に入った。


床は真っ赤に染まっていた。魔物も原型を留めてなく内蔵が引っ張り出され、頭は砕かれている。手に持っている生首からは血が溢れる。そして、服がボロボロで返り血で染まった俺だった。


「服がボロボロだな」


俺は辺りを見渡す。クローゼットがあったので開く。サイズぴったりの服があったので着替えた。


「…………」


それにしても何軒も並んでいた割には数が少ないし強い奴も対していない。村が襲われたといっていたがこの程度ならあんな被害が大きくなるとは思えない……いやな予感がする。


俺は家を出て村へ大急ぎに向かう。もしこのやな予感が当たっていたら間に合ってくれ。








「うおおおおおお!」

「くそ! このままだと!」

「早く避難しろ!」

「だめ! 村が包囲されているの!」

「ちくしょう! 急いで作ったバリケードも壊されちまった!」


くそ! やっぱりだ! 村がまた襲われている! しかも逃げられないように囲んでいやがる! やつら、確実に滅ぼしに来ているな!


「あああ、」


シリカは家の隅で怯えている。一体の魔物が迫っていた。


「女のガキは上手いんだ。殺すか? くっちまうか? どっちにしろかわんねえか!」

「いや、来ないで」


シリカは恐怖で足が動かない。魔物は既に目前まで迫っていた。


「助けて……」

「いたたぎま〜す♪」


魔物の巨大な口が開く。


「助けて!」


その瞬間、大きな衝撃が走る。


「間に合った。大丈夫か?」


シリカはその場で座り込んだ。涙目で怯えていた。けれど、ただ1人の人間が視界に入っただけで怯えきった顔は笑顔へと変わる。


「××!」

「もう安心しろ」


そう言って俺は魔物に向かって構える。


「俺が一人で片付ける」


俺は一番数の多いところから攻撃する。


「加勢しに来たぞ!」

「お前はさっきの?! 向こうに行ったんじゃなかったのか?!」

「全部倒した! だが数が少なかったからやな予感がして戻ってきたんだ。行く途中で出くわさなかったのが悔しいね!」


そう言って俺は魔物を一体蹴り飛ばし連鎖的に他の魔物もぶっ飛ばす。


「すごい力だ、あの魔物を一蹴りで」

「早く負傷者を建物の中へ! 全部倒すには時間がかかる! 動けるものは出来る限り防衛に回ってくれ!」

「一人で倒せるのか?!」

「ああ! 俺は『強い』んでな!」

「すまない! 恩に着る!」


俺は次々に倒していく。その声に村中から歓喜の声が上がる。見るどんなかおをしているか見る余裕がないがきっと笑顔と希望ある表情になっただろう…………さて


「覚悟しとけよ。お前ら全員殺してやる」


数が多い。一体一体倒すには時間がかかりすぎる!


俺は武器を奪い投げ頭を砕く。皮膚が固く鋭いやつは頭から蹴りおとして衝撃で破裂させる。飛び散らせて周りの魔物の動きを少しでも止める。少しでも止まってくれれば一撃で仕留められるからだ。首を引きちぎって生首をぶん投げて頭同士を砕いたり、マジに固いやつは他の魔物の腹を引き裂いて骨を取り出し目から脳へと深く突き刺す。


「くらえ!」

「厄介な魔法だな!」


多少の魔法はくらっても治癒するからくらってもいいとして拘束する魔法など厄介な魔法は死体や他の魔物を盾にする。『仲間の生首』を見たときの恐怖による硬直を利用するために生首を蹴り飛ばしたりマジに動きが早いやつは魔物の内蔵を撒き散らして足場を滑りやすくする。


そしていつしか動く魔物はいなくなった。数が多かった。全力で走ったこともあって今回は久し振りに疲れた。でもこれで村は助かった。あんなに沢山の魔物がたったの一日、いや一時間ぐらいで全滅したんだ。他の魔物も近づくことはしないだろう。

村の被害も少ないとは言わないが死者もそれほど出てないだろう。魔物たちの家にあるものを使えばきっと立て直せる。


「もう大丈夫だ。魔物はもう…………」


村の皆が怯えてる? どうしてだ? もう魔物は全部倒した。いや、まさか! まだ生きている奴が!


俺は辺りを見渡す。耳をすませる。しかし、生きている魔物はいない。再度村人たちを見る。やっぱり怯えている。


「大丈夫だって、もう魔物は皆死んだ。襲われることはない」


安心させようと大きな声で言う。すると何故かその声に反応して体をビクッと震わせた。なんだ? 何かおかしいぞ?


「一体何を恐れているんだ? もう恐れるものは……」


俺が一歩近づくと


「ひっ!」


皆が一歩俺から遠ざかった。


「え?」


何で一歩下がるんだ? これじゃあまるで人間を俺を恐れているみたいじゃないか。


あれ? 過去に同じようなことがあった気がする。


そうだ。先生が村を助けたときにも同じことがあったんだ。皆先生を化け物でも見ているかのように怯えて、


「いや、まてよ、」


俺が数歩歩くと皆下がる。子供は大人の後ろに隠れてた。

おかしいだろ、俺は助けたんだぞ? 『恩に着る』って言われたんだぞ? その相手を恐れるのか?


そう言ってくれた男のを見ると同じく怯えていた。


「ば、化け物! これ以上近づかないで!」

「え」


なんで? 化け物って、俺が? 俺は人間だ。化け物じゃない。


「な、何を言っているんだ? 俺は人間だぞ。正真正銘、人間なんだよ」

「人間がすぐに傷が無くなって首を力ずくで千切れる筈がないんだよ!」


「お前、殺しを楽しんでただろ。魔物を殺してたとき、笑っていたぞ。お前は、心から殺戮を楽しむやつだ! きっと俺たちも殺される!」


誰かがそう言うと皆武器を俺に向けた。

なんで? 殺戮を楽しんでる? 違う。俺は魔物を殺しただけだ。皆から守っただけだ。必要だから殺したんだ。だから、楽しんでいる訳がない!


シリカと目があった。


「?!」


シリカは怯えて大人の後ろに隠れた。その行動が引き金となったのか誰かが石を俺に投げつける。


「出てけ! 化け物はあっち行け!」

「そ、そうだ! どっか行け! 化け物!」


なんで? どうして? 俺は化け物なんかじゃない……俺は、化け物なんかじゃない!


「俺は化け物じゃない! 化け物はこいつら魔物だ! 俺はただその化け物より『強い』人間なんだよ! 」


「化け物!」

「ででけ!」

「村からでてけ!」


ちがう! 俺はちがう! 化け物じゃない! 俺は強いんだ! それだけなんだ!


「違う違う違う違う違う違う!!!!!! 俺は人間だ!! 人間なんだ!! 化け物って言うお前らこそ化け物だ! 化け物の仲間だお前らは!」


俺は! おれは!


『化け物!』


突如として小さい頃の記憶が全てを鮮明に思い出す。


「……そうだ。こいつらは悪いやつらだ。『人を化け物と言う』悪いやつなんだ。悪いやつは殺さなきゃ」


俺は村人たちに向かって歩く。


「そうだ、お前らは殺さなきゃいけないんだ。殺すべき人間なんだ!!」


思いっきり踏み込んで殺そうとした瞬間、誰かに腕を捕まれて止められた。


「?!」


『強い』俺を一瞬で? 誰か?


俺はその人の顔を見る。


「……うそ、だろ?」


その人は俺がよく知っている人物だった。ずっと一緒にいたい、好きな人だった。


そこにいたのは俺を睨んでいる先生だった。

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