強さ

力が沸いてくる。今までにない力が。これが、『代償魔法』


俺は部屋全体を見渡す。そう言えば、ここは何処だろう。


「……試してみるか」


俺は力を込める。なにかが身体中を駆け巡り、腕に集まるのを感じる。


「はぁ!」


俺は壁に向かって殴る。その瞬間、壁はまるで障子を破るようにあっけなく壊れた。隣は食料庫だったようだ。


「すげえ」


俺は、魔物から力を手に入れたのか? 俺は強くなったのか、これなら、先生に大きく近づける!


ぐ〜


「腹へったな」


ご飯を食べてこの建物から出るとき、ナイフの事を思い出した。


「……この力があればナイフなんて必要ないんじゃないか?」


そう思って俺はナイフを見つめる。

そうだ、俺はもう強い。ナイフなんていらないんだ。父さんの形見が無くても、強いからもう生きていける。魔物に勝てる。これはもういらない。


俺は建物を出た。魔物が何体か近くにいた。俺はさっそく新たな力を振る舞った。今までより簡単に魔物を殺すことが出来た。


「こいよ! もっと! もっとだ! 俺が全員殺してやる!」


先生がいなくなってから俺は気分が良くなかった。けれど、今はとても気分がいい!強いってことが、ここまで清々しいなんて! 『代償魔法』すごい、また『感覚リンク』を使うやついないかなぁ。


「なんだこいつ?! 本当に人間か?! がぁ!」

「ああ、『強い』人間だよ。なあ、『感覚リンク』を使える魔物ってどこにいるんだ? いたら教えてくれよ」

「し、知るかよ! そんな魔法、使えるやつなんて少ないんだ! なあ、見逃してく…………」

「知らないならいいや」


魔物の頭を潰す。もう動かない。


「あ」


嘘をついている可能性もあったんだ。でもまあ、少ないのは確かだろうな。あいつ一体しか会ってないし。


でも、気分がいい。もしここに先生が現れたらもうそれは最高だろう。母さんが内緒でお小遣いをくれたと思ったら今度は父さんからも内緒でお小遣いを貰ったかのようだ。



けれど気分がいいのは少しの間だけだった。慣れたらまた気分が悪くなった。けれど、『強い』俺は前よりも気分は良い。傷ついても治るから多少の魔法は無視できるし力が沸くから危ない魔法はよけれる。これなら先生も俺を認めてくれる。


「でも狩りをした時捌けないからナイフを置いていったのは失敗だったか。まあいっか」


仕留めたウサギやカモを焼いて食べる。どうせ1人で食べるんだ。適当に引き裂いても問題ない。


ある日、泉についた。


湖がある。丁度水筒が空だったから助かった。

水をくもうとすると丁度女の子が1人、水一杯入った大きなバケツを一生懸命に持って歩いていた。するとその女の子は転びバケツをひっくり返し頭から水をかぶりずぶ濡れになる。泣きそうになりながら立ち上がって湖から水をくむ。するとまた足を滑らして湖に落ちそうになる。


「おっと」


俺は女の子を支え、バケツも手に持つ。


「大丈夫か?」


女の子は湖に落ちたと思ったら落ちてないので理解できずに固まっていると俺の声ではっ?! とする。


「は、離して! いや!」

「はいはい」


俺は離れる。女の子は怯えて俺から距離をとろうとする。が、足を滑らして転ぶ。


「……」


よく転ぶなぁ


「お願い殺さないで! いやぁ!」


俺を魔物か何かと勘違いしているな。


「…………あれ? もしかして、人間?」


俺がなにもしないから恐る恐る見るとやっと人間だと認識してくれたようだ。やれやれ、あんな化け物と一緒にしないでくれ。


「そうだよ。それより大丈夫か、ずぶ濡れだし足から血が出ているし」


自分の足を見ると血が出ていることに気づいた女の子は「大丈夫」と言って立ち上がろうとすると痛くてふらついてしまった。


「大丈夫ならふらつくなよ」


そう言ってリュックから何かないか見る。先生も俺も傷ついても平気なので包帯がない。ので、布を裂いて包帯のようにする。


「座れ、足を出せ」


女の子は素直に従った。


「すまないが治療道具は何一つ持っていないからこれで我慢してくれ」

「うん」


俺は足に布を巻き付ける。力加減を間違えないようにしなきゃ。


「ありがとう。その、ごめんなさい。助けてくれたのにあんな態度をとってしまって」

「いいよ別に。それにしても大きなバケツだな。大人がくみにいくような大きさだぞ」

「それは……」


女の子は一度黙ってしまう。さっきの怯えよう、言葉。だいたいはわかる。


「魔物に襲われて、なんとか村の皆で追い払ったんだけど、怪我しちゃって、治療とかで忙しくて私がくみにいくしかないの。井戸の水だけじゃたりないから」


納得したいところだが魔物に襲われた後に女の子1人にくみにいかせるのか。それほどまでに大変な状況なのか。


「歩けるか」

「うん」

「良し。その足じゃバケツは俺がもつよ」

「ありがとう」


女の子と一緒に村へ向かう。途中で魔物に出くわした。


「ま、魔物?!」

「下がってろ」


女の子は近くの木に身を隠そうする。しかし、俺が逃げないのに驚いていた。


「お兄ちゃん! 今すぐに隠れないと、まだ魔物は気づいてないから!」

「大丈夫だ」


俺はバケツをその場に置く。すると魔物はこっちに気づいた。女の子は震えながら隠れる。


「旨そうな人間だぁ! いただぎまあす!」


魔物は嬉しそうにこっちへ向かってくる。そっちから来てくれるなんてな。命がいらないらしい。魔物は俺を掴もうと巨大な手を伸ばす。


「お兄ちゃん?!」


女の子は叫ぶも俺はかわして腕に乗っていた。そして、大きく跳んで魔物の脳天めがけてかかとおとし。魔物は倒れた。


俺よりも圧倒的に大きい魔物が傷つくように倒れたのを見た女の子はまた固まった。俺は女の子の方を向いた。


「大丈夫だって言っただろう? 俺は『強い』から」

「す、凄い!お兄ちゃんはとっても強いのね!」


女の子はヒーローでも見ているかのように興奮する。


「ヒーローか、いいなそれ」


俺はバケツを持って歩く。


「私はシリカ! お兄ちゃんはなんて言うの?」

「俺か? 俺はな、××だ」

「××? かっこいい名前!」

「そうか? 普通だぞ?」


暫くして、村につく。思った通り酷い有り様だな。女の子一人にいかせる訳だ。腐敗した臭い、慌ただしい様子。軽傷者は軽い手当てで働いている。


「シリカ! 戻ってきたか! 水はあるか? ……誰だ」


村人の1人が俺を見て警戒する。すると何人かは手を止めて俺を見る。歓迎はされてないみたいだな。


「今は余所者を受け入れる余裕は無いんだ。すまないが他をあたってくれ」

「見ればわかるよ。構わないさ」

「おじさん! この人凄いんだよ! 魔物を一人でやっつけたの!」

「?!」


興奮ぎみに言うものだからいろんな人に聞こえて信じられないと言った表情で俺を見る。


「道中にいたからな。それよりも村には入らさせてもらうぞ。シリカは足を怪我して重いバケツを持てないからな」


そう言って俺は村に入る。シリカにどこおけばいいか聞くと家に案内された。そこには重傷が何人もいた。


「……魔物にやられたのか」

「貴方は?」

「××、偶然やって来た。バケツ」

「あ、ありがとう」


治療を手伝いたいところだが重傷相手に知識がない奴がてあてしても邪魔になりそうだから家を出る。


「シリカを助けてくれてありがとう」


1人の男が頭を下げて言う。


「気にするな。どうせすぐに移動するんだから。ところで魔物に襲われたんだろ、追い返したとも聞いた。どの方角に逃げたんだ?」

「どの方角って、向こうだが」

「ありがとうな」


俺はその方角に向かってあるく


「ま、まて! 何をしに行くきだ!」

「何って、その魔物を殺しにいく。一体残らずな」

「そんなことは無理だ!」

「お前はな、俺はできる。何せ俺は強いからな」


そう言って村人の静止を聞かずにその方角へ行った。






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