途中での会話
俺は強くなりたかった。先生の隣にいられる強さが。でも先生と俺には絶対的な差があった。それは、今でもわからないことだ。『代償魔法』先生が強くあるために使っていたもの。けれど先生は、俺とは違い『体質』は普通。俺みたいに異様なものではなかった。
先生の服はいつもボロボロになっている。けれど先生の体はいつも綺麗だった。誤ってナイフで先生の指をほんの僅かに切りつけた事がある。けれど先生の傷はすぐに無くなっていた。
『代償魔法』で体を癒していた。『生きているモノ』を大丈夫にするのなら、腕や足等、『体』を失う。なのに、先生は失わずな体を癒していた。何かを代償にしている。けれどそれは今の俺にもわからない。けれど、それは『体』よりも大事なモノであることはわかる。今の俺が代償魔法で出せる最大の火力でさえ、先生には届かない。
まだ代償魔法が使えなかった過去の俺ならなおさらその強さに届くなんてことは間違ってもなかった。けれど、届くと信じて強くなり続けた。
「なのに…………どうして」
先生はある日突然姿を消した。また長い時間いなかったとか、そう言うことじゃなかった。『何も言わずいきなり』いなくなった。俺は数日間留まった。けれど、3日、4日待てど戻ってこない。戻ってこないと悟ったのは一週間が経過したときだった。何故かはわからない。ただ1つ言えることは、先生は俺が戦おうとしているとこを拒んで俺の前からいなくなった。と言う心当たりが残った。同時にその先生が優しいからなにも言わないのはおかしいと言う『否定』もしていた。
「…………」
先生は俺を見捨てたのかな。そう考えることもあった。きっとまた戻ってくる。先生の勘なら俺のところへまた来てくれる。そう思って何日も歩き続けた。寝ては、そこら辺に生えている草や生息している動物達を食いながら、何日も歩き続けた。けれど、会えなかった。
誰とも会わなかった。人間にも、魔物にも。所々に戦った痕跡が残っていた。先生のだとわかった。先生は戦っているんだ。けれど、音が一切聞こえないのは、もう近くにはいないってこと。
「どこに、いったんだよ。どうして、俺の前からいなくなったんだ」
けれど突然に希望が湧いた。先生の匂いがしたからだ。
近くにんるだ! 遠くへ行く前に追い付かなくちゃ!
俺は必死で走った。匂いが強くなっていく方向へ。そこは深い森で、一軒家があった。そこから先生の匂いがする。思いきって開けるとそこには本が山住に置かれていてその奥で本を読んでいる男が一人だった。先生の匂いより、男の匂いの方が強かった。先生はいなかった。
男はこちらに気づいて顔を向ける。
「誰だい君は」
興味なさそうに言う。それは俺も同じだ。この人が誰だかわからない。けれど先生の匂いが残っていたのならここに立ち寄った、いや濃く残っていたのなら立ち寄ったとかそう言うレベルじゃない。数日間はいたはずだ。
「ここに先生が来たはずだ!」
「先生、あいにくとそのような名前の人は存在しないし『先生』と呼べる人ならこの世に何人もいる」
「背が俺より高くて綺麗な顔立ちで胸が大きくてさらしをしていて服は多少ボロボロで女の人で髪が長くて結んではいない!」
「…………彼女のことか。どこかであったのかい」
知っているふうな反応を見せてくれた! やはりこの人は知っている!
「てことは先生はここに来たってことか?!」
「まあね、それよりも、彼女は生徒なんて取る性分なんてあるようには思えないが、君はどうして先生と呼んでいるんだ」
「そう呼べって言われたから」
「……そうか」
男は興味なさそうに本を読み続ける。だが切りが良いのか本を閉じて立ち上がる。
「僕の名前は藤原暁。君が、彼女の言っていた××のようだね」
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お茶が入れ直される。ボタン1つで湯が沸くと言うのは画期的なものだ。
「まあここら辺の話は省いてもいいか、暁と俺の話だしな」
「当時の君の心情を今の君がどう思っているのか知りたいね、勝手に本を漁っては勝手に読み散らかして、言動も異常だ。狂気的なものを感じたよ」
お茶を飲む暁、俺も思い返してみると心当たりがありすぎた。
「だが君がまともではない理由もわかった。村中から侮蔑の目で見られて育って、父親と言う支えがなかったらもっと君は狂気染みていたかもしれないな」
「まあね、今でも父には感謝している。正直いうと母にも感謝している部分もある」
「母親にかい? 確かに、君の体質を知る前は愛情を注いでもらっていたようだけど」
「いや、俺をこの体質で産んでくれたこと、そして、もう1つは同時に憎むことでもあるんだけど、俺を『人殺し』にしてくれたことだな」
暁は驚く、何故なんだ? そう口には出していないがそう聞いてきていることがわかる。
「おかげで誰を殺すのに『抵抗も迷いもなかった』それが魔物であっても、だから俺は強くなれた。良くないことだとはわかっているが、それがあったから『狂気』に染まることができた。『狂った』とは違う、あくまでも『狂気』」
「僕にはその狂気は理解できないな。したくもないとおもえる」
「それは正しいな。俺一人でいい」
「『一人でいい』君はそれを言える立場かい?」
「そうだな」
「君があの世に行った時何回彼女に殴られるか見物だな」
「不老不死が見れるわけないだろ」
「不老不死をやめれば良いだけの話さ」
話が脱線したので戻す。
「彼女が4年以上も一緒にいた理由はその狂気か、確かに、他の者には任せられないな。不老不死の僕にうってつけだ」
「だから先生はいなくなったんだろうな。俺の狂気を少しでもなすくために、ストーカー染みた思考回路は先生には筒抜けだったんだろうな」
だとしたら先生は大きなミスをおかしたな。暁の家にいたのも強くなるためと先生の手懸かりを掴むためだったし、暗号化して書いてあった『代償魔法』の記述を俺が解読してしまうなんて、思わなかったんだろうな。
「けれど君が頭良かったのは予想外だったよ。異国の文字で書いてあった本を解読し、ましてや暗号化してあったほんまで読み尽くしてしまった。今でも『代償魔法』に関する事は覚えた時点で燃やせば良かったとね」
「最近1ヶ月でこの国の文字覚えたぞ」
「はあ、学者の道に引きずり込むべきだったか」
あの本があったから、この体質があったから今の俺がある。魔王を倒すことも、計画も阻止できた。
「けれど君が魔王の計画を阻止したおかげで今があるから、複雑な気持ちさ」
「『魔物絶滅』による平和とは違ったけどな。これはこれで良いと思ってる」
「…………とても良いと思っているような顔をしていないけどね」
「まあね、魔王との戦いで訪れた平和だから、なら先生が戦っていた意味が無くなる。自分のすべてを投げ出してまで戦ったのに、何の意味もないなんて、あまりにも……」
俺が目指していた平和とも違う。だから、正直この世界をあまり良くは思っていない所もある。
「でも、先生なら『平和ならそれでいい』て言いそうだけどな」
「そうか、話を戻すけど君はあのあと彼女に会うことはできのかい?」
「出来たさ、良いとは言えないけどな」
「また『良いとは言えない』、か」
「ああ、そうだな、再会する少し前から話そう」
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