名前
先生と出会ってから4年の月日が経っていた。
「先生、この食料、どうする?」
先生が倒した魔物達が食料にしていたパンや野菜。野菜は新鮮でパンも萎びていない。
「××、力あるだろ? 全部リュックに詰めて持っていけば生存者とあったときに一緒についていけば?」
俺はムッとする。2つの意味でだ。1つは生存者と会ったとき、俺をその生存者と行かせようとしていること。もう1つは俺の名前を呼んだことだ。今となってはもう覚えていないが母が付けたその名前はとても嫌いだったと言うことは覚えている。
「その名前で呼ぶな」
「……」
俺はうっかり自分の名前を言ってしまって以来、先生は俺を名前で呼ぶ。自分の名前が嫌いだと言っても何度も名前で呼ぶ。
「先生はどうして名前で呼ぶんだよ。嫌いだって言っているのに」
「親が愛して止まない子供の名前だぞ。それを嫌うことはないだろ」
「生まれたときはそうだったとしてもその後はなんだよ、自分の子供を化け物扱いする親のつけた名前なんて、好きに慣れない」
でも強く嫌って言えないのは父もその名前で呼んでいたからだ。俺が赤ちゃんで、そうして名前をつけた。最初はよかった。覚えてはいないがちゃんと育てられたと父から聞いた。けれど、俺を化け物として見るようになったのは、俺が大きな怪我をしたときだった。
母はこの時代、いや今の発展した時代でも入手困難なポーションを俺に使った。それほどまでに心配してくれていたからだ。問題は2度目だ。魔物に襲われて大怪我をした時だった。俺の体質は『感覚の再現』ポーションで一度治った感覚を覚えたので怪我が『勝手に』治った。
これが始まりだった。
「赤ちゃんだったから母さん優しかったときの記憶なんてない。あるのは俺を蔑んだ、いや、侮蔑した目だ。そんな母親のつけた名前で呼ばれたくない」
愛されて名前をつけられたことをわかったうえでここまで言っている。流石の先生もこれには折れてそれ以来俺を名前では呼ばなかった。
「じゃあなんて呼べばいいんだ?」
「……だったら」
俺は恥ずかしくなった。この提案は俺の中では大事なことだからより言いずらかった。
「先生が、俺に名前をつけてよ」
「わ、私がか?!」
これには先生も驚いていた。暫く固まった後、考え込み始める。
「わ、わかった。名前だな…………」
ここまで先生がテンパるの始めてみた。
「…………思い付かない」
「え?」
「し、仕方ないだろ。名前をつけるなんて思いもしなかったし、この先ずっとそう言うことはないと思ってたんだから」
俺は残念そうにする。先生は何とか名前を考える。
「じょ、ジョニイとかどうだ?」
「じょにい?」
「いや、金髪だからな、ジョニイは違うか。金髪で男に合う名前、ロイヤル? いや、名前っぽくないな。スティーブンとかは金髪ぽい名前だな」
先生はなんこも案をだすもどれもしっくりこなくてなかなか決められない様子だった。
「……別にいいや、今の名前でも」
「え? 良いのか?」
「だってよく考えれば名前は俺で嫌いなのは母さんだ。誰が名前をつけようが俺の名前は俺であって母さんじゃない」
「それで本当にいいのか?」
「別にいいよ」
先生に呼んでもらえるなら
「何か言ったか?」
「別に」
俺は先生から目をそらす。
「おい目をそらすな 」
「いいだろ、先に進もうよ、地図見たらこの先温泉なんだから。生存者もいると思うよ。通った後も見つかるかも知れないし」
「じゃなくて、目の前が岩」
「ペフシ?! ネク……スう! 」
俺は歩行速度で岩にぶつける。遅い速度でも不注意でぶつければ結構痛いものだ。俺はその場でうずくまり頭を抱えて動かなくなる。
「大丈夫か?」
心配そうに俺を見る。俺は立ち上がる。
「いっつー」
「ちゃんと前向いて歩かないからだ」
「うう、」
「どれ、見せてみろ」
先生は顔を近づけてぶつけた場所を確認する。俺は恥ずかしくて離れようとする。けれど先生の手がそれを阻止する。
「動くな……たんこぶはできてないな。アザもない」
「だ、大丈夫だよ! 俺の体質で治るんだから!」
「だとしても痛みはすぐには引かないだろ。危ないからちゃんと前を見ることだ」
「……わかったよ」
そんなやり取りをして湖へ行く。つくと人が通った気配はない。
「人の形跡はなしか、魔物の形跡もない。温泉の温度は、よさそうだ」
そう言ってくれて先生はボロボロの服を脱ぎ出す。が、俺が見ていることに気がついて途中で手が止まる。
「××、少し向こう向いててくれないか?」
「なんで?」
「私が脱ぐからだ」
「脱ぐのに向こう見る必要ってあるの?」
「……私は女で××は男だからだ」
「???」
先生は驚いた顔をする。当時の俺にとってはなんでかわからなかった。そういう知識に関しては全くないからだ。
「……一緒に入るか?」
「最初からそのつもりだけど?」
先生は少し呆れた顔をする。何でだろうと思った。先生は脱いだが何故か晒しをはずさなかった。下はそこら辺の大きな葉っぱで隠していた。俺は不思議に思ったが真似をして葉っぱで下を隠した。
そうやって温泉に入る……前に
「洗わないと」
俺はリュックから魔物の家から取ってきた石鹸を取り出した。先生はいつの間に持ってきたんだと言った。タオルを取り出した。
「はい。先生」
先生の分も渡す。先生はありがたく使わせてもらうよと言って洗い出す。
「……××」
「?」
「な、なんで私の背中を洗うんだ?」
「二人で入ったときは互いの背中を洗うんだろ? 」
「じ、自分のを洗いなさい」
何でか恥ずかしそうな先生。けれど少しぼーっとしたと思ったらさっきと違うことを言った。
「やっぱ背中を洗ってもらっていいか?」
「?」
なんでだろうと思いつつも先生の背中を洗う。先生は俺より背が高いから俺よりも背中が大きい。
「先生、どうやったら先生みたいに大きくなれるんだ?」
すると何故か先生に殴られた。
「なんで?! どうやったら背が伸びるか聞いただけじゃん!」
「え? あ、そっちか、なんだ。確かに、背中を見て言ってるんだからそうだよな」
「一体なんだと思ったの?!」
「……気にするな」
「気にするよ!」
今でもなんで殴られたのかわからない。いや、本当に。
「……ま、まあいいじゃなか。今度は私が背中を洗うよ」
「殴らない?」
「殴らないよ」
俺は恐る恐る背を向ける。ちら、ちら、と先生の方をみる。言った通り、普通に背中を洗ってくれた。殴られなくて安心したと同時に懐かしいと思った。
父さんも、こうやってあらってくれたな。『少し大きくなったか?』そう言う父さんはいつも嬉しそうだった。何だか、嬉しい。父さんに背中を洗ってもらうのも、一緒に入るのも好きだったから。先生に洗ってもらうのも好きだった。
数分後に全身を洗い終わって温泉につかる。今での旅の疲れがぐっときたのか脱力感に襲われて気持ちが言い。
「極楽極楽」
「ごくらくごくらく?」
「温泉に入って気持ちがいいってことだ」
「ごくらくごくらく」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます