一緒にいたい
お腹は大丈夫なの?!」
取り乱した俺は先生を刺したことを思い出した。とんでもないことをやってしまったと、子供ながら、と言うより刺したことがあるからわかっていた。
「大丈夫だ。ほら」
そう言ってくれて先生は服をめくって腹を見せる。刺し傷どころか傷1つない綺麗な体だった。俺は不思議そうに先生のお腹をペタペタと触る。
「こらこら、あまり触るものではない」
先生はめくるのをやめた。綺麗な体とはうらはらに服はいつもボロボロだった。所々に穴が空いている。擦れているところもある。
それはいつも戦っているから。それはわかっていた。だからこそ、傷1つないのが不思議に思えた。
「先生はどうして戦っているのに傷がないの?」
「それは傷付いても治る体質だからだ」
「たいしつ? それって何?」
先生は困った顔をする。
「説明しずらいな、簡単に言うと、お前の傷付いても治るのも体質の1つで、それは生まれたときからだったり、生きている場所だったりで違うんだ」
「先生の体質はどんなの?」
「私か、私の体質は『超人』だ!」
そう言ってくれて先生はガッツポーズをする。
「傷付いてもすぐに治る! 力持ちで体も頑丈! 勇者のような強さ! まさにスーパーヒーロー!」
「凄い凄い!」
「どうだ? かっこいいだろう?」
「かっこいい!」
子供の俺ははしゃいで憧れと尊敬の目で先生をみる。まさに皆が憧れるヒーロー見たいな強さを持っている先生。
けれどこれがただの嘘で先生自身は何の変哲もない、特別な力も持っていないただの人間だということは知るよしもなかった。
「……やな予感がする。そこでまってろ!」
先生はそう言ってくれてどっかへ行く。いつも通り、魔物を倒しに行った。先生は探知能力は一切ない。にも関わらず魔物の居場所がわかるのはその異常なまでの勘。すぐに戻ってくる。
「もうやっつけちゃったの?」
「……ああ、私は強いからな」
笑顔で先生は言う。
一ヶ月ぐらい、さらに旅を続ける。
「しかし、ここまで生存者と出会わない何てな、困ったものだ」
魔物が人間を滅ぼそうとしていた時代、数も少なく隠れながら移動する生活をしている人間に会うことはなかなかない。けれど半年も出会わないのは珍しい。
「……」
俺は突然、先生と手を繋ぎたくなった。何も持っていない先生の右手に、自分の左手で握る。
「ど、どうした? いきなり手なんか握って」
「……」
先生はちょっと動揺した様子で聞く。俺自身もわかんなかった。ただ手を繋ぎたくなったから繋いだだけで、でもなんか落ち着いた。先生の手は温かかった。
「少し照れるな」
言った通り先生は少し照れている。先生の手が自分の手から離れると思ってさらにギュッと力を入れる。
「……」
先生は微笑みながら俺の手を握る。とても嬉しかった。半歩横にずれて先生に近づく。
「歩きずらいだろ」
そう言うも拒まない。俺はもっと先生と居たい。そう思った。魔物を倒しに行くときはいつも置いていかれる。どうすればいいか考えた。とは言っても子供が考えることはとても単純だった。
「先生、僕に戦いかたを教えて」
「いきなりどうしたんだ?」
「僕も先生と一緒に戦う」
先生の顔は険しくなる。
「ダメだ」
「やだ」
「ダメだ!」
「やだ!」
「ダメだ!!」
「やだ!!!」
「ダメだ!!!!」
「…………ぷい!」
俺はそっぽを向いた。先生はやっと諦めてくれたとほっとしている。結局のところ俺が13を越える頃までは一切戦い方を教えてはくれなかった。
「えい! やあ!」
戦いかたを教えてもらえない俺は自分で強くなろうとした。先生がいない間に先生の動きを真似する。勘は必ず働く訳でもないのでたまに遭遇する形で戦う。その時は魔物にもよるが目の前で戦うことがあるのでその時の動きを鮮明に目に焼き付ける。
「せんせい! 見てみて! これで僕も戦えるよ!」
暫くたって成果を先生に見せる。
「全然だ。片手だけで手を抜いても私は余裕でお前を倒せるよ」
「やってみなくちゃわからない!」
先生にパンチするもあっさりと手で受け止められ握られ動けなくなる。
「これじゃあ魔物には勝てないな」
「うう、じゃあどうしたら教えてくれるの!」
「お前が私と共に戦うんじゃなく守る為に戦うのであれば教えるさ」
「それじゃあ意味がない! 先生と戦いたいの!」
先生にそう訴える。先生は自分の手をみる。悲しそうに、すぐに呆れた顔になり俺を見る。
「そう言っている間はダメだ。護身術程度なら教えるが」
「護身術?!」
俺はやっと教えてくれると思って教わった。
「……」
護身術と言うよりかは魔物に襲われたときの対処法だった。攻撃の受け流しかた、捕まらないための対処、ナイフをどう扱えばいいか、その程度だった。
不満に感じた俺は文句を言ったが「それで充分だ」と言ってそれ以上のことは教えてくれなかった。
けれど、嬉しかった。先生と一緒にいられるから。その分だけ嬉しくなった。親も身寄りもいない俺には知っている人は先生だけ、その先生の温もりが好きだった。一緒にいられることが好きだった。一緒に寝て、一緒に手を繋いで歩いて、話をして、どれも好きだった。
だから先生がいなくなる魔物との戦いの時は嫌いだった。早く強くなって、先生と一緒にいたくて、強くなりたかった。
「先生!」
先生は強いから、ずっといなくならないと思ってた。だからいなくなるという不安に襲われることは無かった。4年後の14歳になるまでは。
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