変わった宝石店

「もっと重いダンベル買おうかな」


 研究所での出来事から一ヶ月がたち、地道にクエストをこなす日々、モミジは毎日筋トレをしている。腕の太さも変わらない。筋肉質にもなっていないが確実に筋力をつけている。


「合金のダンベルは高いが大丈夫なのか?」

「ちょっと貯金確認してみる」


 クエストの報酬は生活費を大きく上回っているとはいえ冒険者である以上その他の費用も大きい。吸血鬼となれば専用の商品、出費も必然に多くなる。


「へー、世界一巨大なダイヤモンドの原石発見。世界一腕の良い宝石研磨師求む」


 新聞を広げて読む。宝石と言えば見せつければ気をそらせるから見つけたりぶっ壊したりすれば気をそらして即殺したから役にたってたな。今考えるととんでもない使い方だか。ちなみに文字は完全に覚えた。まさか一ヶ月と数日で覚えるとは思わなかった。歳自体は30後半を越えてても感覚は常に20歳行くかどうか、覚えることも衰えないのは嬉しいな。


「世界一、じゃないかも知れないけど凄く腕の良い人知ってる」


 横から見ていたアイスが宝石の記事を見て心当たりのある事を言う。


「知り合いなのか?」

「村長が知り合い。『雪村』を見つけたお店の人なの。宝石店を営んでる」

「宝石店か、あまり興味ないな」


 ただ利用するための道具だったからな。本来はじっくり見るためのものらしいが、じっくりか。この世の中になっているんだ。1度見てみるか。


「いや、まともにゆっくりと見たことがないから一回見てみたいな」

「そのお店の場所、知ってる」


 思い出した。300年前に宝石を集めてた魔物がいたな。俺を宝石強盗か何かと思って殺しに来たっけな。返り討ちにしたけど、その宝石達は隠されていたし、今でもあるのかな。


「知ってるとはいっても別に宝石を買いたい訳じゃないしな。その腕のいい宝石研磨師求むって、言っても、俺たちが頼みに行くものじゃない」

「でも見たみたい」

「見るだけって言っても展覧会じゃないなら迷惑にしかならないぞ?」


 アイスがしゅんとする。宝石は綺麗だし、見たい、欲しい人が多いのもわかる。宝石を差し出して命を助けてもらう方法もあったからな。約束を守るのは少なくても0じゃないから300年前でも持っていく人は持っていたし。


「ちょっと出掛けてくる」

「どこ行くの?」

「昔宝石を見つけたのを思い出してね、今でもあるか確認しに」

「宝石?!」


 アイスが目を輝かせてこっちを見る。


「宝石?!」


 金の確認が終わったモミジも目を輝かせてこっちを見る。


「……あるかどうかはわからないぞ。既に別のやつが見つけて取ってる可能性の方が高いんだから」


 300年もあれば誰かが見つけてる。それにここから距離がある。あるかどうかわからないものの為に3人分の交通費を使うのも無駄な気がする。


「ついてきても良いが、そうだな。二人とも強くなりたいとか言ってたな」

「「?」」

「交通機関使わずに走っていくからな」


 そういって俺は準備ができ次第宿を出て走る。二人は慌てて準備して走り出す。

 ブリュンヒルドを出て過去に宝石を見つけたところへ向かう。300年前と今の場所の照らし合わせは魔王城跡地である研究所のお陰でわかるようになった。


「オーバー! 早いよ! 」

「うん!」

「これでも随分と遅めにしているつもりなんだが」


 汗をかいている二人、モミジは元々体力はあるがずっと洞窟にいたアイスはそうはいかない。途中でダウンしてしまう


「もう、無料」


 膝に手をついて体が少しでも早く酸素を取り込もうとしている。


「アイスちゃん、私に捕まって」

「うん、ありがとう」


 アイスはモミジにおんぶしてもらう。


「そろそろつくぞ」


 人間よりも体力が多い吸血鬼をバテさせた所でどこかの岩場についた。


「はあ、はあ、こんなに疲れたの、久し振り。オーバー、はあ、ノンストップで、いかないでよ」


 息が荒いモミジとアイス。


「ならついてこなければ良かったのに」


 そう言って俺は宝石が隠されているであろう岩をどかす。立地も悪く魔物も人も好んではこない。けれど宝石が残っている可能性は低い……筈だがどんなに低くても0%ではないから起こり得ることなんだな。


「す、凄い! 」

「綺麗」


 岩をどかした先にある穴。そこを降りたら一定感覚に並べられた宝石達。二人は疲れが吹き飛んで目を輝かせてみる。


「沢山あるよ! エメラルド! サファイア! ルビー!」


 この国の法律で驚いたのは宝石に関する法律だ。ここにある宝石は持ち主がいたとしても取って犯罪にはならない。


『誰の土地でもない場所に保管している、または落ちている場合はどんなものであろうと取った人のものになる。』


『持ち主が自分で所持しているとき、または持ち主自身が近くにいるときに取ってはならない』


 ここは誰の土地でもない。持ち主はいない。つまり俺達が取れば俺たちのものになる。


「見たことない宝石もあるよ!」


 俺もまともに見なかったので見覚えのない宝石があった。


「でもこっから先はないね、いきなりポツンと」


 前あった場所にない。つまりだれかが取った事になる。最も、誰が取ったかはわかっているが。俺は入ってきた穴、上を見る。


「!」


 目があったのは少女だった。黒いローブを来ていた人と同じ顔。笑顔で俺に手を振る。そして口に指をやって静かにと言わんばかりのポーズ。すると一枚の紙を落とした。それを手に取ると文字が書いてあった。


「『藤原宝石店』 地図まである」


 何故俺にこんなものを……もういない。藤原か。昔の知り合いにいたな、同じ名字の奴が。いたな。唯一先生の友人が。


「その宝石全部売っ払うか」


 二人は驚いた顔をする。売るのにビックリしたのかここから持ち出すことにビックリしたのか


「持ち帰って保管しておこうよ!」


 前者だったか。


「はあ、数個とっておきたい奴持ってけ。後は売る」


 すると二人は10個ぐらい取ってった。


「…………」


 残りを全部バッグにしまう。そして宝石店へ向かう。


「オーバー、藤原宝石店の場所知ってるの?」

「一応な」


 あの紙に嫌な予感はしなかった。なら嘘ではないだろう。


 こうしてついた先は森の深く奥だった。『宝石店』としては場所が悪すぎないか?


「おや? お客が来るとは珍しいね。いらっしゃい。少し待ってくれないか」


 入店して聞いた第一声がそれ。来ること自体が珍しいのか。建物自体は木造で骨董品屋と疑うほどだった。なかも木造だがライトがあって、宝石が目立つようになっている。店内か狭いように感じる程に宝石のケースでいっぱいだ。奥にはカウンタースペースでひらけている。


「宝石がいっぱいだ」

「綺麗。見たことない、大きいのばかり!」


 確かに、どれも大きいのばかりだ。店員はおそらく店の名前通り藤原と言う人なんだろう。場所や客足から考えて一人で営んでるいるのだろう。

 奥の暖簾から出てきたのは銀髪で整った顔の眼鏡をかけた青年、和服を着ている。

 先生の友人である『藤原暁ふじわらのあかつき』だった。いや、違う。300も人間が生きている筈がない。子孫だ。


「……」


 藤原は俺を見ては驚いた顔をするがすぐに否定するように首を僅かに振って何事もなかったようにカウンターにある椅子に座る。


「今日はどんな用件だい? 」

「……宝石を売りに来たんだ」


 俺も何事もなかったように俺もカウンターへ行く。


「わざわざ売りに来たのか、店もあっただろうに」


 その通りだ。道中の街にある宝石店へいけばいい。けれど黒いローブの少女がくれた紙はここを表していたし、行くべきだと勘がいっていた。


「そうにもいかないさ。少なくとも、店ではなくあんたに用がある客がいるんだからな」

「そうなのかい?」

「アイスさ」


 藤原は驚く。


「君が、そうか。あの刀は役に立ったのか。その腰につがえているのが」

「うん。この刀を村長に譲っていただきありがとうございます」


 アイスは頭を下げる。藤原は微笑んでそうかと一言いう。


「どんな名刀も僕にとってはガラクタに過ぎない。役に立ったのなら何よりだ……わざわざ来てくれたんだ。お茶でも飲んで行くかい」


 俺達にそう言う。宝石店でお茶か。格好といい、内装といい、骨董品屋が似合う人だ。


 俺達は奥でお茶をもてなされた。あのときの事を語る。藤原も、刀を手にした経緯とか、村長がどんな藁にもすがるような、唯一の希望のような目で何度も頼み込んだことなどを話してくれた。

 話が弾んで時間が経っていた。

 ついでに宝石を売った。結構な額になった。


「私たちはそろそろおいとまします」

「そうか、今度は買い物客として来るのを待っているよ」

「よし二人とも、その宝石はお前らのだから自身で持てよ。そうだな、目立っても困るから交通機関は使わずに」


 二人とも嫌な顔をする。知らんな。


「どうやら厳しいようだね」

「そうなんですよ藤原さん。行きも交通機関なしだったんですから」

「さっさといけ」

「わかりましたぁ!」


 二人は急いで店を出た。出る直前に「「また来ます!」」と言い残して。


「急ぐ必要はないんだけどな、すまないな。騒がしくしてしまって」

「…………」


 藤原は黙っていた。なんだろう、


「その喋り方、彼女に似ている」

「?!」


 彼女、誰のことだ。いや、俺の喋り方が似ている?! 似ている奴なんて、俺が知る限りだと先生しかいない!


「なあ、もしかして、あんたは、暁なのか」


 藤原は驚いた表情をしていた。


「もしかして、オーバーなのかい?」

「……そうだ」


 紛れもない、この人は300年前に生きていた暁だ。


「何故生きている? 人間は100年も生きてはられない」

「彼女は話さなかったのかい? 私は不老不死だ。ちょっとした理由があってね」

「不老不死、か。俺は、ある理由で300年間眠っていた」

「それはもしかして魔王との戦いかい?」

「何故それを!」

「人間一人でそんなことが出来るのは彼女と君ぐらいだ。でもあの人は死んでしまった」


 この人は、俺以外に唯一先生を知っている人。まさか不老不死だったなんてな。


「……またお茶でも飲むかい」

「頂こう」


 また奥にいきお茶が入る。暫く沈黙が続いた。


「……複雑な気分さ。あの人にさんざん言われたのに、君は聞かず後を継いで戦い続けるなんて、きっと怒るだろう。でもそれのおかげで平和な世界に近づいた」

「まだ起こられる気はないさ」

「でもまさか冒険者になっているとはね」


 俺達は今の状況を話した。互いに前より平和に生きている。けれど俺はずっと疑問に思っていたことがあった。それをいま聞き出す。


「暁はどうやって先生と知り合ったんだ。俺の場合は執着してたからだが」

「大したことないさ、幼馴染ってだけさ。それよりも今執着って聞こえたが」

「今考えてみるとストーカーに近かったかもな」

「僕は君がどうやって知り合ったか知りたいよ。一緒にいたことも」

「……」


 どうやって、か。あれは忘れる筈がない。


「話、長くなるぞ」

「茶葉は沢山あるさ」


 俺は鮮明に思い出す。あのときの事を、泣き叫ぶ声、誰かが殺される音。刺した音、感触。


「俺が初めて先生とあったときは」


 あのときの光景が今でも脳裏に浮かぶ。




「丁度、母を刺し殺した時だ」










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