殺意の対象

奴を殺した後、俺の殺意は暫く残った。ただ歩き続けたいると次第に消えた。


「やっと殺意が消えたか」


デルタが完全な人の姿で現れる。


「生きてたのか」

「不意を疲れて遠くへと飛ばされただけだ。龍の力を持つ私があの程度で死ぬと思われるとは心外だな」

「そうか」


俺はゲートに向かって走り出す。近くに行方不明者がいる。さっきの戦いの衝撃で何かあったら大変だ。何もなければいいのだが。


「戻るぞ。もうここには用はない」

「待て、いや待たなくていい。走りながらでいい。聞きたいことがある」

「なんだ」

「何故あの吸血鬼と一緒にいる」

「あの吸血鬼、モミジの事か」


何故そんな質問を? ああ、そうか。俺はSランク、モミジはCランク、他から見れば一緒にいるのは不思議に思うか。サンに頼まれたから、一歩踏み出せるようになるまで。その一歩がどれくらいかはわからないがな。


「別に、ただの気まぐれみたいなものさ」

「それは本心で言っているのか?」

「そうだが?」


なんでそんな事を聞くんだ?


「ならば何故あんな殺意を飛ばした」

「殺意?」

「そうだ。ティランノとの戦いでお前が出していた殺意だ」

「あれはティランノに向けた殺意だ。モミジと関係は無いだろう」

「やはり待て」


そういってデルタは止まる。さっきは待たなくていいと言っていたのに、何を考えているんだ?


「貴様、無自覚とはな。自覚をしていればすぐに終わるの筈だった。だが貴様は自身で気づいていない」


気づいていない? 何をだ。デルタは一体何を気づいたんだ。


「もう一度聞こう、あの殺意は『何に』向けたものだ」


『誰に』ではなく『何に』。デルタの質問の意味がわからない。


「わからないようだな。なら教えてやろう。貴様はあの状態でそのモミジとやらに会えば、確実に殺していた」

「なに?!」


俺はモミジを殺そうなんて思っていない! 何を言っているんだ! こいつは!


「殺すだと! 殺す訳がない!」

「ここまで言われてわからないとはな。なら教えてやろう。貴様の殺意は、ティランノに向けたの出はない。『魔物』と言う存在に向けたものだ」

「?!」

「やっとわかったか」


魔物に向けた殺意。そうか、俺の殺意はずっとそれに向けてきた。けれど、それでモミジを殺すことはしない。


「殺意を向けているからと言って、殺すかどうかは」

「殺意が無くなるまで私は貴様に姿を現さなかった。人間である私にはその殺意は強い圧力にしかならない。しかし、龍化した羽と腕には恐怖が伝わり、震えていた。そして貴様は思考を染めていた筈だ」


言われてみれば、俺はただ殺すことしか考えてなかった。じゃあ俺は誰かに殺意を持ったら、その時にモミジが、いや共存している殺してはいけない魔族がいたら……


「俺は、殺すのか。『魔物』を」

「そこまでの殺意を持つには、貴様は強大な『恨み』そして『使命』この2つがあってこその殺意だ……もう一度ど聞く。お前は何故『モミジ魔物』と行動を共にしている」


殺意が持てなかった。何故かはわからない。モミジに対して、なんの負の感情を持たなかった。なのに、何故今は、憎く思っているんだ。俺は、モミジ達魔物達の事を思うほどに、憎い


「俺は…………」


頼まれたから、それが口からでない。


「……もういい、貴様はそこで頭を冷やしていろ。行方不明者は私が保護する」


そう言ってデルタは先にいった。

300年の眠りから目覚めて、初めて殺意を持った。その瞬間から、魔物が憎くて仕方がない。でもこの世界は魔物と手を取り合っている世界なんだ! そんな平和に近づいてきてる世界なんだ!


「もうこの思いは必要ない!」


先生、俺はどうすれば……そうだ。魔物がいたから先生は死んだんだ。魔物がいたから。でも、もうあのときとは違う。俺のこの矛盾した気持ちはどうすればいい。


「そうだよ。前にもあったじゃないか」


いらない感情は置いていくんだ。もう『魔物を憎む』思いは置いていこう。今までだってそうじゃないか。苦しみも、眠気も、いらないものは置いていったじゃないか。


「これでいいんだ」


……落ち着いた。もうモミジを憎んでない。憎むべきではない相手を憎んでない。よし、もどろう


行方不明者が隠れているところを見たら既に誰もいなかった。デルタが保護したのか。ゲートを通って戻ると黒いローブを纏った少女が待っていた。


「ありがとう」

「……あんたは何者なんだ?」

「それは言えない。まだ、ね」

「まだ、か」

「それじゃあ、私は行くね。近いうちに会いにいくから」


そう言って少女は姿を消した。何者なんだ。敵って訳ではなさそうだ。タイミングよく現れたが、いや今は考えるのはやめよう。近いうちに会いに行くか。


「モミジ達は大丈夫か?」


やな予感がしないってことは無事だとは思うが。

エレベーターが壊れているのでジャンプして上に行く。隠し通路を通って歩く。誰もいない。全員地上へ出たか。地上へ行くための出口手前にモミジ達は集まっていた。温度が低い気がする。


「派手に怪我したな。マリーを除いては」


救急箱を近くに壁にもたれかかってたり、寝込んでたり、擦り傷切り傷、沢山の傷を作っていた。マリーが手当てをしている


「あんなのもう、2度と戦いたくない」

「「「同感だ(です)」」」


モミジが言うと全員が満場一致で同意する。化け物があそこ以外からも現れていたのか。この様子だと全部対象できたみたいだな。


「オルフェル、もうあんな無理はしないで、私だって戦えるんですから」

「お嬢を守るのが俺の役目だ。お嬢こそ戦いなれしていないのにあの化け物に立ち向かうなんて何を考えてるんだ」

「はあ、何かを考えているのよ。ウィリアムも無事で良かった」

「これが無事に見えるのか」


包帯グルグル巻きのウィリアム、確かに無事には見えないな。


「それにしても化け物が地上に出たときは本当に焦ったよ」


ボイトムがそう言うと皆頷く。


「でもそこにアイスちゃんが来てくれここ一帯を氷で覆ってくれたから良かった」

「あのアイスって奴、どんな魔力量もってんだよ。山1つどころかその周辺の森まで氷で覆ったぞ。それなのにけろっとしてるって」


「終わったよ」

「アイスちゃん!」


アイスが出入口から降りてくる。


「もう化け物はいない。行方不明者も皆無事、帰れる」

「やっと終わった! 帰る前にイシュバーラ観光しよ!」


モミジがそう提案するとアイス以外乗り気じゃなかった。


「イシュバーラの病院か、どんなんだろうな」

「私も肋骨を何本かやられちゃった」

「「何で観光しようと思った?!」」


そんなこんなで全員でイシュバーラへ向かう。ウィリアムは後にデルタに研究所を売ったことを話した。化け物達によって半壊したのでもう研究所としては機能しないにも関わらずデルタが再度持ちかけたからた。ウィリアムはデルタの部下になり、マリーは冒険者になることを決意した。理由までは言わなかったがオルフェルに凄い反対されていたが押しきった。フェニックスソウルに入った。


イシュバーラの病院で入院した3人は退院し、ボイトムは先に帰り、ウィリアム達は迎えに来たデルタの部活についていき、俺達は観光を嗜むことができた。







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