代償魔法

「……フフフ、ハハハハ、アハハハハハハハハハハハ!!!」

「あまりの恐怖に気が狂ったか」


男は尻餅をつきながらあらぬ方法を見て笑い出す。暫く笑い続けるとゆっくりと立ち、俺達を見る。


「まさかたった二人に私の復讐が止められようとは」


男は拳銃を取りだし、銃口を自身の首に当てる。自決を選んだか。


「だがそれはあくまで計画通りならの話だ」


自決する直前で言う言葉か? いや違う!


「あの拳銃! 自決ようじゃない! 」

「なに?!」

「もう遅い!」


男が引き金を引いた。その瞬間、奥が見えないほどに広い部屋にこれでもかと敷き詰められたカプセルの中に入っている化け物から管のようなものが中から突き破るように出て来てその全てが男の体に突き刺さる。


「何が起きているんだ」


化け物が奴に取り込まれていく。ここの化け物は何体いるんだ? 部屋の広さで1000はくだらない。


「この姿になってしまえば、この研究所は放棄しなければならない。だからしたくなかったのさ。だが、ここでお前たちに殺されるのなら、俺は喜んで自分を化け物に変えてやる!」


皮膚は膨れあがり、体は大きくなる。喋っている声が次第に根太くなり聞き取りずらくなるほどに。爪は鋭利に、腕は巨大で剛腕に、足は丸太のごとく、それは人の形をしたモノだった。


「化け物どもを取り込んだか。ここではこの大きさはむしろ不利だな」


デルタはそういって龍の姿から元に戻る。


「化け物どもを集束したこの力は究極のパワーをえる。『ティランノ』と名付けた。貴様らは、ここで無様に死ね!!」

「いいや、死ぬのはお前だ……?!」


ティランノのパンチは予想を遥かに上回ったスピードだった。咄嗟にガードするも壁を砕くほどの威力だった。壁と人の体並に大きい拳に挟まれる。


「ぐう!」

「これで死なないなんて、あの化け物を殲滅しただけの事はある」

「慣れっこでな!」


拳を蹴り飛ばす。ティランノは踏ん張り十メートルぐらい後ろに下がって止まる。踏ん張った床は少し削れていた。


「こいつ?! このパワーを蹴り返すだと?!」

「おい! ここで戦っていては崩れて生き埋めになるぞ!」


デルタはそう言うとエレベーターの空洞を通って上に行く。

確かに、ここで生き埋めになったら100メートル以上の深さだ。脱出するために地上まで地面をぶっ飛ばしたら地震が起きる。ただでさえ外は廃墟なんだ。崩れてもおかしくはない。


「仕方ない」


俺も空洞を通って上に行く。ティランノは妨害しようとは思わなかった。あの巨体だ。むしろ外の方が力を振りやすいと思ったんだろう。


外へ出るとティランノも来る。


「わざわざ私が力を発揮できる要にするとはね、感謝しなくちゃな!」


ティランノはそこらのビルを破壊し、瓦礫を投げる。かわして前に進む。


「これは避けられまい!」


大量に投げられてくる瓦礫を全てかわし腹にひじうちをする。


「?!」


ティランノは両手を組んでハンマーのように振り下ろす。


「がは?!」


今ので背骨が逝ったか、直ぐに治るがこいつ、ひじうちで出来た傷が治った!


「まさか再生能力があるとはな」

「それはこっちの台詞だよ。まさか人間の身でそんなことが出来るなんてね」


互いに傷が治ると言うことは互いが治らなくなるほどに傷を負うまで終わらないと言うこと。強制的に長期戦になる。


「ティランノ、私がいることも忘れるな」

「なに?!」


横からデルタが巨大なエネルギーを放射していた。ティランノは受け止めるもその衝撃で辺りのものが吹き飛んでいる。

だがなんだ、この違和感は、この程度の実力ならさっき殺す宣言をする意味がない。龍の力を使えるデルタは特に強さがわかる筈だ。それと比較しての発言だ。


「後ろに下がっているぞ。貴様の力はその程度だ。だがその力を称賛して龍の一撃で貴様を葬ってやろう。深炎のディープフレア赤龍レッドドラコン!」


デルタは燃え盛る龍に姿を変える。その炎は赤く、離れているのに触れているかのように熱い。


古代の炎獄ロストフレアブラスト!」


口に集まるエネルギーは高温で太陽を直視しているかのように眩しい。

あれを食らったら何も残らない。それほどまでに高出力だ。だがなんだ、何故ティランノは余裕の表情をしている。何故だ。嫌な予感がする。


「 」


今何を言った?! 一体何を呟いたんだ! 拳を握りしめた?!


「デルタ! 今すぐそこから離れろおおおお!!!」


デルタのロストフレアブラストはティランノに向かって放出される。直接当たっていない俺の肌が焼け、燃え始める。そんな状況で目を開けると、ティランノの握りしめた拳は光だした。


「あの光は?!」


あの自分で輝こうとする光は、強い光は?! 何度も見た! 忘れる筈が、間違える筈がない! あの足掻くような光は!


「代償魔法!」


その瞬間、ティランノの拳から放たれたエネルギー弾はデルタのロストフレアブラストを打ち破り、そのままデルタへと直撃する。


「なにぃ?!」


放射状に爆発するエネルギー弾は、その衝撃で辺りの建物を全て吹き飛ばし、放射状にあった全てのものが無くなっていた。


「なん、だと」


デルタの攻撃も、放射状にあったものは全て消滅していた筈だ。だが代償魔法のエネルギー弾はそれを打ち破ったうえでこの廃墟の街を一部消滅させた。


「代償魔法、君たちの世界の術だ。『生きるモノ』を失う代わりに絶大な力を得る。これ程までの力とは、恐れ入ったよ。これなら君達を殺してあの世界に復讐できる」

「……そんなことは俺が許さない」


デルタが見当たらない。あの攻撃で……くそ!


「そんなに睨んでなんになる、安心して、すぐにお前も彼と同じ場所へ連れていってあげるから。代償魔法」


そういってティランノの腕が光だす。


「代償魔法」

「お前も代償魔法を使うのか、だが良いのか?体の一部を失うぞ? いや、お前も再生するから平気か。けれどもね、君は最高でも人1人分しか失うことが出来ない。けれど私はあの研究所にいた化け物2268体分を使うことが出来る。再生する分や生きるための分も差し引いても2000以上、万が一にもお前が勝つ事はない」

「やってみなきゃわからないだろ」


代償魔法同士のぶつかり合いは、衝撃波だけで先程とは比べ物にならないぐらいにさらに広い範囲の建物を吹き飛ばし、鋪装されていた地面が浮き彫りになる。


「はあ!!!」

「しねええええええ!!」





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