化け物の産みの親

「…………繋がらないか」


ゲートをくぐった先の滅びた世界では通信は役にたたない。だが今すぐにでも通信をしなければいけないほどにこの世界には興味を注がれる。


「車、ビル、コンビニ、スーパー、私のいた世界と同じものが並んでいる」


この世界は私のいた世界とそっくりだ。建物の作りもだ。高層ビルはやたらとガラスを使うところも、ガソリンスタンドと思われるたてものの頑丈な作り。どれもこれも錆びてはいるがこの世界の技術は我々と同じぐらいだ。


「だとしたら重要な建物に使われている技術は相当なもの。異なるのなら我が物にしたい」


空から見る限りでもそう思える程に。魔力、魔法が存在しないからこそここまで発展したのだろう。なら何故この世界に魔力が存在するようになった。魔王みたいに誰かが異世界から魔力を取り込んだか。


「……あそこか」


見えてきたのは他の建物とは明らかに違っていた。塀が高くスポットライトが辺りを照らし回っている。それだけじゃない。『廃墟の街』にある建物としては明らかに場違いだ。


ドラコンアイ龍の眼


建物にヒビ1つ無い。換気扇も回っている。そしてなりより、化け物がその建物の門から次々と出ている。


「化け物どもの住みかか」


私は地上に降りる。襲いかかっている化け物どもを薙ぎ倒し正面から建物に入っていく。

中はエントランスホールだった。受け付けにも誰もいない。ホテルのような内装だ。化け物は中に入ってこない。出てくるのを待っているかのようにずっと見つめている。


奥にある部屋に行くと鍵は掛かっていない。


冷蔵庫には沢山の水と食料があった。


「コード4820。コール:ベビードラゴン」


私の横に立体的に0と1の数字が並び、小さな龍の姿になる


「きゅい?」

「これをこの匂いの場所に置いていけ。一度めは違う」


鉄骨の破片の匂いを嗅がせる。ベビードラゴンは食料と水を持って飛び去っていく。



全ての階の全ての部屋を探索するもいたって普通のホテルだ。


「…………」




化け物がこの建物から出てきたのは事実。しかし中で一体も遭遇していない。


「ならば下か」


私はエレベーターにのり最下階のボタンを押す。エレベーターが止まると扉が開く。床を蹴り落とす。


「エレベーターには安全のために下には多少の空間を要するが、底が見えないほどに作ることはない」


下に続く暗闇。私は降りる。百メートル以上も落下して床に着地する。途中まで扉はなかった。あるのはこの扉だけだ。


「……私が欲するものがここにあるとはな」


扉を開くと1面化け物が入ったカプセルだらけ。ベルトコンベアーで上に運ばれていく。


「まさかここまで来るとはね」

「……貴様がここの管理者か」

「そうだね」


ディスプレイの前に立つ男、キーボードから手を離して私の方を向く。


「この化け物は貴様が作り出しているのか」

「ばけもの、とは心外だな。これはBバイオMマジックWウエポン。君たちで言う『代償魔法』で動く兵器さ!」


男は高らかに嗤う。


「そのBMWとやらを貴様はコントロール出来るのか」

「する必要なんて無い。敵の地に放り込むだけでいいのだから。終わったら遠くから撃ち殺せばいい。建物内には基本入らないように習性を持たしているからね」


知性のない、コントロールできない兵器など出来損ないに過ぎない。だが知性を持たせてコントロールすることが出来るのならばあのパワーだ。これ以上にない兵器が作れる。


「この世界でそんなモノを作っていてもつまらん。どうだ、私の世界でお前を雇おう」


男は睨む。机に置いていたコーヒーを飲み干す。


「お前の世界ってあれか? ゲートが開いた先の世界か? あんな世界に僕の技術がわかる筈がない」

「ゲートの先の世界とは別の世界だ。ここと似ているのでな、貴様も馴染みやすいだろう」

「笑わせるな」


男はディスプレイの方に向き直し、キーボードを叩く。


「これがお前の世界だ。どうだ? 何も無いだろ? ちんけな技術だ。対したテクノロジーもない。自販機? 魔法を使ってやっとこれか」


ディスプレイに映し出されるのは私の今住んでいる世界の光景だった。一目瞭然でここより技術が劣っている。


「こんな中世ヨーロッパより少し技術が進んだ世界と手を組むなど、この私をバカにするにも程がある。お前も見栄を張ってここと似ているとかほざいていたが、俺にはわかる」


どうやら俺がここと似たような世界にいたことを信じていないようだな。だが、あの世界を知っていると言うことは急遽現れた化け物、なるほど。


「侵略行為か」


その4文字の言葉を聞いた瞬間、男は笑い出す。


「アハハハハハハハハハハハ! 侵略? 違う、これは復讐だ!」

「復讐だと」

「そうさ! この世界に何故魔力が現れたか、知っているか? 知らないだろうな! そう、この世界にはびこる魔力はお前たちの世界の人間の魔力を奪ったものだからだ!」

「奪っただと?!」


そんなことが可能なのか?! いや、300年前、魔王は『魔族だけ』に魔力を与えようとした。結果は『人間だけ』に魔力を与える結果になったが、『与える』のならば『奪う』ことも可能だろうな。


「だか奪った結果がその様なら逆怨みも良いところだな」

「違う! 貴様らの世界の人間が魔力を持っていたからこの世界は滅びたんだ! そのせいでこの世界は滅んだ! 私は生まれた時から今日を生き抜くのに必死な生活を強いられた! それは貴様らのせいだ! 貴様らの先祖が魔力を持っていたからだ!」


この男、逆怨みにも程があるな。その憎悪をぶつける相手がこの世界にはいないのだ。魔力を奪った先祖は既にいない。子孫がいたとしても同じく今日を生き抜くのに必死の同士。その行き場のない憎悪が魔力を奪われた奴らに向けられたわけか。


だがこれで1つの疑問が晴れた。あの世界は知性ある生物は魔力を持って魔法を扱えた。人間を除いてだ。何故魔力ある世界で人間だけが魔力を持たなかったのにはこれが理由だったか。魔王は奪う魔力を奪い返したと言うことか。本人の意思を除けば。


「そうか、それは都合が良い」

「都合がよいだと?」

「そうだ。侵略行為をされているのであればこちらも手を出せる。ここを堂々と奪うことが出来る。この施設の技術を我が物にすることが出来ると言うことだ」


すると男はまた笑い出す。


「アハハハハハハハ! 奪う? 何を言っているんだ? この施設にはどれ程のBMWがいると思っている! たかが人間1人がどうこうできる話じゃないんだよ!」


滑稽だな。たかが人間1人で笑うとはな。哀れにも思えてくる。


「その人間1人がどれ程の力を持っているか貴様は知らないらしい」

「なんだと?」


エレベーターの扉が壊されオーバーが入ってくる。


「なに?!」

「空を飛べない貴様は化け物を無視できない筈だ」

「ああ、だから殲滅した」

「な、なんだと?!」


男は急いでディスプレイで外の様子を確認するとそこは血の海で化け物は一匹たりとも動いていなかった。


「あり得ない! 人間ごときに私の兵器が負けるだと?! 素手で?!」


取り乱す男。信じられないと言った表情で映像を更新していく。しかし、同じく殲滅された後しか映らない。


「300年前、異世界から魔力を取り込むことが出来るほどの力の持ち主がいた。『魔王』と呼ばれていた」

「いきなり何を!」

「しかし、魔王は魔力を取り込むことを失敗した。それを阻止したのはたった1人の人間だ」

「そんな話が!」

「信じられるか、そう貴様は言いたいだろうが、真実だ。人間には未知なる力が存在する。人間は侮れない」


男はうろたえる。自信が信じられない状況になっていることに。


「無論、私も人間だ。そして、これが人間の為す技だ」


私はからだ全体を龍の姿にかえる。施設はとても広く、小龍程度だったら全体が壁や天井に当たらずに済む。


鋼刃のフルメタルブレード小龍リトルドラゴン


鋼鉄の刃に身を包む龍、私の姿を見て男はその場で崩れるように膝をつく。恐怖を感じた表情だ。


「随分と早かったようだが行方不明者はどうした」

「全員見つけた。新たにこっちに来た者はいない」

「何故わかる」

「勘だ」


こいつ、自分の勘を過信しているのか。そんな不確定なものを信じるのか。まあいい、私には関係無いことだ。


「オーバー、こいつが化け物の産みの親だ。お前たちの世界を支配しようと考えている。どうする、俺は殺す気でいる」

「こいつが化け物を、そうか。同感だ」


私たちは一歩前へ出る。









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