思わぬ方向へ

「早く答えろ!」


怒りに任せて威圧的に言う。マリーは震えていた。けれどこっちを睨み付ける。


「敵に言う必要があるの」

「あるに決まっている!」


マリーの首に本の少し剣が刺さり、血がたれる。


「答えなければ私は貴方を殺してしまう! たとえそれが間違っていたとしてもだ!」

「…………少なくとも、ここには行方不明者はいない。いるとしたら、多分もうこの世界にはいない」

「この世界に? どう言うことだ! この世界にいないって!」


この世界にいないって、もう死んでいるとでも言うのか!


「こことは違う世界、滅びた世界。そして、私達のいた世界」

「こことはって、異世界が存在するって言うの?」

「ええ、証明出来るわ」

「できるって言うの」


正直いって信じられない。異世界が存在するなんて、デタラメか、でもこのタイミングで言うにはあまりにも不自然すぎる嘘。


「私が拳銃で撃ったとき、貴方は防御しても防げなかった。けれど魔法陣は見えない。そうでしょう」

「ええ、弾に魔法陣が書かれているのかと思ったら何も書かれていなかった」

「魔法ではないもの」

「魔法じゃない?! 魔法でなければあんなことはできないはず!」

「ヴァンパイアが血を操れるように、妖精が自然と会話できるように、私たちにも特殊な力を持っている。『超能力』と呼んでいるわ。そして私の超能力の名前は『シルバー弾丸のエクステンション軌跡の先』銃で撃った弾が着弾したとき、1度だけその物質を『こじあける』ことができる。人間でも世界が違うのであればできることも違う」


『超能力』魔法とはまた別の力。そんなものが存在するのだろうか、けれど実際この目で見た。何かカラクリがあれば話は別だけど、信じられるかと言ったら無理だ。


「本当に超能力だとしても、それで本当に異世界から来たなんて信じられない」

「けれど、それが真実。ここに行方不明者がいないのも事実」

「じゃあ、行方不明者はどうして異世界にいると思うの」

「ここ周辺の亜空は歪んでいて、異世界に繋がることがあるの。それに巻き込まれて、向こうへいってしまうことだってある」


「亜空とか巻き込まれるとか、私には理解できない。けれど、嘘だとは思えない。だけど信じられない」


いくら考えたってわからない。わからないことが多すぎる。


「信じなくてもいいし理解できなくてもいい、異世界なんて、私でもわからないことが多いのだから。でも信じてくれる人はいた。いや、人じゃなかった。貴方たちはこう呼ぶんでしたよね、『吸血鬼』て」

「?!」


後ろから何かがすぐそばまで来ていることがわかった。咄嗟に横へ飛んで避けるとその人は避けた私を追撃せずマリーの首に触れている剣を折る。いや、ひとじゃない。私と同じ吸血鬼だった。


「オルフェル?!」

「お嬢、ウィリアムから離れるなって」

「だって、ここで眠っている皆が心配で」

「はあ、護衛の1人ぐらい付けておけ、危なかっただろ」

「ごめんなさい」


オルフェルは私の方を向くとマリーを守るように前に立つ


「さっきのは時間稼ぎだったの?! 」

「いえ、違うわ。本当の事をいっただけ」


よりにもよって来た吸血鬼はヴァンパイアシード。ヴァンパイアの1つ上のランク。私より強い


「二人とも落ち着け。お嬢、こいつらは敵じゃない。あんたもだ、俺達は敵じゃない」

「敵じゃないならどうして私たちを攻撃したの!」

「不法侵入」

「言い返せない!」


オルフェルは直ぐに口を開く


「お前らは行方不明者を探しているんだろ。俺達はその手がかりを知っている。と言うか、細かいことはウィリアムの話を聞いてくれ。今オーバーとか言うやつと話しているから」

「オーバーが?!」


生きていたんだ! やっぱり! あれぐらいじゃ死なないって信じてた! よかった!


「それにしてもあのオーバーとか言うやつ何者なんだ?あれ普通死んでるぞ?」

「オーバーは異常な回復力ができる体質だから! あれぐらいどおってことないよ!」

「そう言う割には本気で怒ってたり、そこまでの安堵を見せるのね」

「そ、それは、流石にあんなもので潰されたら死んじゃってるんじゃないかって思ちゃって、もし死んじゃってたらどうしようって考えたくなくて、ずっと生きてるって言い聞かせてた」


オーバーが生きていた、それだけでも気持ちが和らいだ。どこか胸が締め付けられる感覚が消えた。て、なんでオルフェルはこっちを見て笑っているの?


「いやぁ、そこまで思うってことは好きなのかなって」


す、好き?!


「ちちち、違うわよ! す、好きとかそんなんじゃない! 確かに見た目は格好いいとか強いとかあるけどちがうから!」

「なんだ、つまんねえの」

「つまんないとかじゃなくて言うのやめてください!」

「ベラベラ喋ってるのお前じゃん」

「また言い返せない!」


友人とか、そういう意味では好きだけど決して恋愛感情はない! うん! ない!


『胸触って良い?』


………………


「ああああああああ! 何でこんな時におもいだすのぉ! 」


あの言葉から始まった私の背中を押してくれた言葉。今思い出すともっと別の言葉で背中を押して欲しかったよおおおお!!何で胸なの?! セクハラだよ! でもあれのおかげでこうして冒険者になることを決意できた訳だし!


「えっと、名前わかんないけど吸血鬼?」

「なに!」

「赤くなっているが、もしかして」

「違う! オーバーの事が好きな訳じゃない! ちょっと恥ずかしいこと思い出しただけ!」


恥ずかしいよぉ、壺があったら入りたい。暫く熟睡したい。


「オルフェルってわかってないよね」

「え?、と赤くなっているから血が出ているんじゃないかと思って、もしかしたら怪我してるんじゃないかと言おうとしたんだが」

「…………」


数分後


「うう、敵にこんな醜態さらすなんて」

「いや敵じゃないってさっきいったよね」

「そっとしといてあげて」


別に好きって訳じゃ…………胸、か。ちょっとぐらいなら、て何考えてるの?!


「さて、本題に戻るために1度ウィリアムと合流するか。お嬢は1人で行動して危険な目にあってるから後で説教な」

「え?!」

「ほら、いつまで蹲っている。いくぞ」


その直後、大きな音が鳴り響く。その音は少し気味が悪くてまるで危険だ! と騒ぎ立てているみたいだった。


「警報?! ブレインルームからよ!」

「ウィリアムがいる所じゃないか! いったい何が起きているんだ!」


『聞こえるか! マリー! オルフェル! マーネリア! ボイトムくん! モミジくん!』


「ウィリアム!」


とても大きな声はどこからかわからなく聞こえてくる。とても慌ただしい様子で、何か爆発した音やぶつかった音がきこえる。


『大変今すぐここから逃げてぐああああああああ!!』

『ウィリアム?! 今聞こえただろ! 今すぐ逃げろ! 今この研究所をデr』


さらに大きな爆発音と共に音は途切れた。


「……いったい何が起きているんだ」

「オーバーの声も聞こえた。何かと戦っている様子だった」

「ウィリアムが今大変な状況に聞こえた! 助けに行かないと!」

「逃げろって言っていたが」

「ウィリアムを置いては逃げられないわ!」

「……はあ、しょうがない。いくぞ」

「私も行くわ!」


ここにいる3人、逃げることを拒否した。私たちはオルフェルの先導の元直ぐにブレインルームへ向かう。


「おい! 今のはいったいなんだ!」

「ボイトム?!」


途中でボイトムと遭遇した。ボイトムもウィリアムの声を聞いていたようだった。 何か繭みたいなものを引きずりながら


「ところでその引きずっているのは」

「女だ。何ヵ所か刺されたよ畜生目が」

「女ってことはマーネリアか。サナギになってしまうなんてな」

「ところでモミジは吸血鬼だろ? 針を作ってはくれないか」

「いいけど?」


血で針を作るとボイトムは針を通して服を脱ぎ始める


「何でいきなり脱ぐの?!」

「刺されたんだからしょうがないだろ」


ナイフで刺されたであろう傷に針を刺す、するとものすごいスピードで縫合していく。


「す、凄い」

「よし完了だ。傷口は塞がった。モミジも怪我をしてるじゃないか」

「あ、うん」

「縫合してやろうか……いや女の子か。流石にまずいか」


そう言ってボイトムは服を着る。確かに、縫合するためには服を脱がないといけない。流石にやだな。


「まあ吸血鬼だし」

「吸血鬼でも痛いのは痛いですよ」

「そうなのか? まあいい。いくぞ!」


私たち四人はブレインルームへ走り出す。



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