最悪に近づく

上下する乗り物、いやエレベーターがオーバーを巻き添えに落下した。耳にはあまりにも大きな金属同士を擦り付ける摩擦の音と衝撃音がなり響く。


「マジかよ」


奴等は1.5トンと言っていた。そんなものに潰されたら大型の熊どころかゾウでさえ潰し殺せるぞ。人間なんて、助かる訳がない。


「オ、オーバー!!」


モミジが空洞の下を除くとエレベーターが結構下まである。俺も見るが暗くてどうなっているかがわからない。


「くそ、暗い何とか逃げてくれればいいんだが」


俺は糸を垂らして魔法で明るくしようとした瞬間


「あ、ああ」


モミジほ信じられなと言った表情で僅かに首をふる。


「おい、まさか」


吸血鬼は夜行性だから暗闇でも見えるんだ。この表情、まさか?!


「おい、下はどうなっているんだ」


恐る恐る聞く。しかしモミジは震えてちがうと否定するだけ。


「下は!」

「オーバーならこれぐらい、そうよオーバーならきっと平気」「くそ!」


俺は垂らした糸を光らせる。明るくなった空洞は下にあるエレベーターを照らす。


「?!」


その瞬間、エレベーターが急速に上へ上がってきた。俺は咄嗟にモミジの後ろ襟を掴んで後ろへ飛ぶ。大きな摩擦音を出して上がるエレベーターを避けるもそれと同時にどうしようもない光景を見た。


「…………」


おれ自身信じられないと言いたかった。まだ知り合ってそう時間も経っていないとは言え、今回共にいる仲間だったから。


上がったエレベーターから大量の血が落ちてくる。それはエレベーターの下についているものだと見なくてもわかる。


「待て、今覗いたらお前まで潰されるぞ」


フラフラと空洞に近づくモミジを止める。


「でも、」

「今はそんなことをしている場合じゃない」


ちくしょうが、こんなタイミングで来るなんてよ、3人も。


「そこまでだ」

「本当にふざけんなよ」


緑の服を着た3人が近づいてくる。一人が魔方陣を展開する。入り口で見たやつだ。


「扉は開かないようにした筈なのにな」

「あれぐらい壊すことは造作もない。それよりもどうやってゲートを開けた」


相手は3人、こっちは2人。しかもモミジは今戦えそうにない。


「くそ!」


俺は空洞に糸を張って飛び降りる。予想通りエレベーターは急速で落下してくる。糸はそれを押さえ込もうとするも勢いは落ちない。


「糸だけで止まらないか、けれどこれならどうだ!」


糸は光だし、勢い良く爆発する。その衝撃でエスカレーターの勢いは落ち、俺達の落下する勢いは上がる。それと同時に煙で視界が遮られる。

下にある扉の位置はさっき覚えた! ここだ!

俺は糸で斜めのトランポリンを作り落下の勢いを横にする。そして扉に触れる瞬間に手の表面を爆発させて扉をぶち破る。落ちる際他の扉に糸を張り付けて全て爆破してぶち破る。


「……」


俺は空洞を見る。あの下にオーバーが、いや今は逃げるのが先決だ。

俺は廊下を走る。上の階とほぼ一緒だ。奴等は直ぐに追ってくる筈だ。少しでも離れて安全な所へ、敵の本拠地ど真ん中であるかどうかはわからないが。

廊下の扉の横に文字が書いてある。どんな部屋か書かれているんだろうが読めない。ニッポン語に似たような字ではある。

その下に溝がある何かが出っ張っている。そう言えば入り口にもあった。扉に鍵穴が無いところを見ると恐らく溝に何かをはめるタイプの鍵なんだろう。


「てことは開かないか」


どこか開いている部屋はないかと探していると数ヶ所無いところがある。そこを何ヵ所か手をかけると開いた。そこは長机や椅子が何個もある。食べ物の絵があるところを見ると食堂だ。


「ここでやり過ごすか。おい、大丈夫か」


抱えていたモミジを壁に寄りかからせる。声をかけるもモミジは俯いている。


「こんなことを言うのもなんだが、切り替えてくれないか。今は敵の本拠地なんだ。少なくとも今は、そうしてくれ」


こんなことを言うのは酷だとわかってる。けれどそうじゃないといけないんだ。


「オーバーは、腕を潰されても斬られても、再生できる。まるで何事も無かったように。だからきっと今回も大丈夫」


弱々しい声で言う。潰されても斬られても、か。人間なのかと疑いたくなる。


「奴等は言っていた。1.5トンだって。いくら自己再生能力が高くても人間なんだ。あんな勢いで潰されたら助からない」


モミジの表情が絶望に変わる。言うべきじゃなかったかもしれない。


「でもまだ、死体を見たわけじゃない」


飛び降りる時も爆煙で見えなかった。確かにまだ死体を見ていない。けれどあれで助かるなんて言えるわけがないのも事実。落ちてきた大量の血は……なんて言葉をかけて慰めればいいかがわからない。


「みーつけた」


突如として上から声がする。上をみると緑の服の女が天井に張り付いていた。


「なっ?!」


直ぐに見つかった?! 扉は出来るだけ壊した! それなのにこの階のこの場所に直ぐに来るなんて!


魔方陣が展開させるとそこからレーザーみたいなものが発射させる。モミジを掴んで咄嗟に避けるも僅かに肩をかすめる。


「何故ここがわかった!」


扉を見るがしまっている。僅かにでも開けたのか?いや、扉の隣に隠れたから開けたときに死角になるんだ。そんな近くなら少しでも開けば気付く。


「さあ、どうしてでしょうね」


怪しく笑う女。

俺は女に向かって糸を伸ばすも女はまるで何もないかのように壁に入り込む。直ぐに顔だけが壁からでる。


「あら、今のは惜しかったわ」

「余裕で避けていたのにか!」


壁をすり抜けられるのか。厄介な魔法だ!俺はモミジを掴んで食堂からでて逃げようとする。


「逃がさないわ」


壁をすり抜けて俺達の落下する退路を塞ぐ。けれど一人しかいなかったので防いでない方へモミジを投げる。


「そうやっていつまでくよくよしてやがる! ここは悲しんでいられる場所じゃないんだぞ! そうやって死者を増やすつもりか! お前の辞書には『皆で死にましょう』なんてくだらないことでも書いてあるのか?!」


俺の言葉が刺さったのかモミジは泣きそうな顔で俺を見る。そして自身の顔を殴り立ち上がる。


「ごめんなさい!」


モミジはそう言って走りだしここから離れる。

今ので立ち直ってはいないだろうけど留まることは止められた筈だ。

さて、今はこいつの相手をしなくちゃな。


「3人いた筈だが、他はどうした?」

「別の階にいるわ。ここの階だけ扉の壊れかたが僅かに違ったからこの階の手ぶらでも入れる場所を探したら食堂にいたって訳」

「ありがたいな、自ら一人しかいませんて言うなんてな」

「ええ、私一人で十分ですもの、あのヴァンパイアも一人では何もできないわ。一人一人相手してあ・げ・る」


女はウインクする。


「出来ればデートの時にしてくれないか。顔が俺好みなんでね」

「あら、嬉しいわ。でも上手ではないわね」

「悪かったな、女を口説いたことなんてないんだよ!」


俺は糸を壁、床、天井にそって張る。女は壁に潜る。

どこからくる。一体どこから、後ろか前か、右か左か、上か下か、この糸が反応した瞬間に即、爆破してやる。


俺は集中する。糸のほんの僅かな反応も見逃さない。


「?!」

「あら、糸ごとすり抜ければ良いだけの話じゃない?」


くそ! すり抜けられるなら糸ごといけるか! 盲点だった。しかも背中にあるこの暖かい何かが流れる感覚、最悪だ。何かで刺された!

俺は後ろに糸を伸ばすが女はまた床に潜り込む。俺はその場で膝をつく。


「くそやろうめ!」


俺は糸を使って背中に刺さっているものを抜く。ナイフだった。血が流れているのがわかる。糸でシャツをきつくして止血する。


「目視だけでやるしかねえのかよ」


ともかくこのまま止まっててもまずい。何か倒せる算段のつくものを探さないと!

俺は立ち上がって走り出す。


「逃がさないわよ」


女は笑いながら床から、壁から出てきて魔方陣を展開して俺に攻撃する。何とか交わすも反撃が一向に出来ない。


「あれは」


廊下に一際目立つ大きな扉。何かあるなと思いそこに入ると何故か森があった。


「なんで室内に森が?!」


俺が驚いているときも猛攻は続く。俺はどんどん森の中へと入っていく。


「ふふふ、自らフォレストエリアに入ってしまうのね、可愛い」


入ってしまう?


「しまった!」


ここじゃ死角が多すぎる!しかもすり抜けられるなら場所が多い!奴にとって格好の場所じゃないか!

俺は戻ろうとするもレーザーみたいな攻撃で奥へ奥へと誘導される。


「シット! 最悪だ!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る