イシュバーラ

「ドワーフが沢山いるよ!」


 モミジは目を輝かせながら早く早くと俺の腕を引っ張る。好きな事をしているときは楽しそうだな。


「活気があるな」

「暑苦しい」


 加工以外にも仕入れた鉱石の運搬等で筋肉質の人が多い。全体的に背の低い人が多い。その人がドワーフなのだろう。初めて見るが、なかなか見分けがつかないな。


「モミジはよく見分けがつくな」

「ドワーフは背が低くて人間と比べて鼻が少し大きいの。後等身が低い」


 言われてみればそうだな。見分けがついた。


「こんな熱い中良くハイテンションになれるな。武器も持っている訳でも無さそうだし」


 ボイトムは透明な容器に入った水を飲む。ブリュンヒルドについたときから道端に所々にあった『自動販売機』と言うものらしい。透明な容器も『ペットボトル』と言う。

 まだこの時代の当たり前には慣れないな。


「やりたいことをしてるときは楽しいものさ」


 人間とドワーフの共存する町。モミジに取っては楽しみの場所の1つ。熱い時期に鍛冶屋の焚く火でさらに熱いのにそれも気にしないぐらいに。

 俺は駅の自販機で水を買う。それをモミジの渡す


「熱いのだからちゃんと飲まないとな」

「あ、ごめんごめん。ありがとう」


 一人だけ盛り上がっていた事を反省しペットボトルをを受け取り飲む。


「ぷは、刀を扱っている鍛冶屋はどこだろうね」

「聞いてみるか」


 俺は近くの手の空いていそうな人に声をかける。場所を教えてくれたのでその鍛冶屋に向かう。


「これはまた凄いな」


 鍛冶屋が三軒連続で並んでいる。『剣』『刀』『鎧』。多いとは聞いたがここまでとはな。周りを見渡しても見える限りは七軒あるぞ。これは町全体で100軒はゆうに越えているんじゃないか。


「ボイトムはどうするんだ?俺達は午後から調査をするが」

「下手に町の外に出るよりまずは聞き込みだな。資料にはない情報を得られるかも知れないしな。午後1時に駅前でいいか?」

「確かに、聞き込みなら用事と平行して出来るな。駅前か、わかった」


 一旦ボイトムと別れ、鍛冶屋に入る。中はより暑かった。35度は越えていると思う。この熱さにモミジは先程のハイテンションも無くなり、むしろだるそうにする。アイスは涼しい顔をして鍛治師に声をかける。


「何のようだ」


 いかつい男性がアイスの方を見る。アイスの腰にある刀を見て何かを察する。


「その刀、手入れをしてないな。嬢ちゃんの背丈には長い長さだ。打ち直しかそこらか?」

「ううん、貰った大切な刀、でも手入れの仕方がわからないの」

「形見かそこらか。ちょいと見せてくれ」


 アイスが刀を渡すと鍛治師は鞘から引き抜く。


「…………?! なんだこの業物は?!」


 鍛治師は驚いて刀を鞘に納めてアイスに返す。すると急いで奥の部屋へ行くと少しして戻ってきた。


「この業物は俺の手には負えねぇ! 嬢ちゃん! これはあの伝説の『氷冬雪刀』じゃねえか! これほどのものをどこで!」


 氷冬雪刀と言われてアイスは少しムッとする。


「『雪村』」

「?」

「『氷冬雪刀』じゃない。『雪村』この刀の名前」

「雪村と言うのか、確かに、まるで冷たい単語をかき集めたのが名前とは少し疑問に思っていたが、名前が一人歩きしていただけだったかもな。『雪村』か。いい名前だ」


 アイスの表情は明るくなる。


「だがそんな業物はさっきも言ったがうちでは扱えない。これは紹介状だ。町の中心ほど良い腕の鍛治師がいるからこれがあれば飛び入りの客を無視して行ける」


 場所も教えてもらい俺達は店を出た。


「これは長くなりそうだな。モミジ、アイスと一緒に行ってくれ。俺は聞き込みをするから。12時に駅集合、無理そうなら各自ご飯を食って1時に駅だ」

「わかった」


 さて、独りか。聞き込みを始めるか。



『町から出てない人は行方不明になっていない』


『集団で町から出たときも同様に行方不明になっていない』


『行方不明になった人は一人か二人で町を出た人』


『腕の立つ人は行方不明になっていない』


 目撃情報が無いとなると確実に捕らえられる人に絞っているな。少人数の時を狙った犯行、村の人達もいなくなっているがいつの間にかいなくなった訳ではない。『人の多いところ』から離れたときだ。


 次は周りでおかしいところ、変わったところだ。


『ここから北へ離れた山へ行くと変な音が聞こえる』


『その山だけ生えているキノコとかが周りの山と少し違う』



 他にもあったが、全て同じ山を指していた。関係ないと思う人もいれば怪しむ人もいる。俺は後者だ。根拠はないが可能性はある。

 

「だとするなら山に行くか。その前にそろそろ12時だ。駅に行くとしよう」


 駅に行くとモミジだけがこちらに走ってくる。


「アイスは?」

「あれはとうぶんこれないと思う」

「何があった」


 モミジは少し困った表情で何があったかを話す。


「紹介状を持って鍛冶屋に行ったら、刀を見て貰ったんだけどそしたら『雪村』は相当な業物らしくて、鍛治師がに夢中になって、なんか色々あって今アイスちゃんに手入れの仕方とか保存の仕方とか色々と教え込んでる。時間がかかりそうだったからアイスちゃんが先に行ってっと言われちゃって」


 確かに時間がかかりそうだな。今日は俺達だけで調査するか。


「なら今日は俺達だけで調査をするか。だがその前にご飯を食おう。聞き込みついでに旨い店を教えてもらったしな」

「ドワーフのご飯!」


 俺とモミジは近くの飲食店に入る。人間とドワーフが入り交じって色んな食べ物を食べている。お品書きにも『ドワーフ風〜〜』と書かれている。


「ドワーフ風カツ丼ください」

「同じものを頼む」

「ドワーフカツ丼2丁!」


 モミジがワクワクして待つと出てきたのは普通のカツ丼だった。


「あれ?普通」


 モミジは近くの少し残念そうにして一口食べる。


「濃い?!」


 俺も一口食べると確かに濃い。だがトロっとした玉子、ザクっといくカツ、汁も絡み合って米が熱々で旨い。


「俺達ドワーフは人間と比べて濃いのが好きなのさ! どうだ? 旨いか?」

「はい!」


 モミジはかきこんで食べる。随分幸せそうに食べるな。


「ご馳走さまでした」


 モミジは手を合わせてそう言った。


 店を出て飲み物を買い1時に駅にいく。


「ボイトムさん」

「お、時間通りだ」


 ボイトムと合流し、町を出る。北へ向かい山へ行く。


「話によるとここが怪しいとのことだ」

「なるほど、こっちが得た情報では不思議な模様の緑の服を着た謎の人影を見たと言う目撃情報、調べてみたらどこも失踪事件の範囲内。短時間で離れたところに目撃あり。複数いる」


 互いの情報を交換する。俺達は念のために3人一緒で調査をすることにした。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る