失踪事件

「今日は綺麗さっぱり依頼がないな」

「そうだね、いくら報酬があるとしてもいつかは無くなっちゃうし、この時期はやっぱり早起きかぁ」

「モミジは寝坊助を治す?」

「やっぱり朝は苦手だなぁ、本来なら寝る時間だし」

「吸血鬼だからな」


 俺達は依頼ボードに依頼状が貼ってなくて依頼を受けることが出来ないためギルドの食堂にて雑談している。

 先日アイスの実技試験があり観に行くと受験者は俺達の時より少なく一人一人が対面でSランク冒険者と戦う形となっていた。


「それにしてもアイスちゃん、まさか1度も攻撃せずに勝っちゃうなんてね」


 そう、アイスは実技試験で1度も攻撃しなかった。ただ試験管の周辺を氷で覆っただけ。だがアイスの力ならその氷はとんでもないほどの強度を誇る。試験管は魔法で何とか壊そうとするもアイスがさらに氷を追加して脱出不可能になっていた。試験管は降参しアイスは無事Aランクとして合格した。


「アイスの実力ならSランクかと思ったが、仕方ないか」

「うん、筆記試験の時、『冒険者になる理由、何をするか』で『沢山の人を救いたい』と書いたけど『出来るだけ誰も傷付けない』とも書いちゃったから、そしたらそれじゃあ冒険者としてやっていくには難しいと言われた」


 今のアイスには勇気があるとはいえトラウマを克服した訳じゃない。だからSランクにはしなかったのだろう。と言うか筆記試験にそんな欄があったのか。


「Sランクと言えばオーバーはそうでしょ? Sランクの依頼受けないの?」

「そうだな、Sランクの依頼の掲示板の場所知らないけど」

「2階だよ」


「そこの3人、少し良いでしょうか?」


 俺は2階に向かおうとするとギルドの職員が俺達に声をかける。その人は書類を手にしているがそれよりよ顔にある良くわからないのが気になる。耳にかかっているようにも見えるし目の部分にガラスみたいなのがある。


「はい、大丈夫です」

「俺もだ」

「私も」


 俺は座り直す。


「良かった。これを見てください」


 職員から書類を受けとるとそこには精密に書かれた人の肖像画が書いてあった。いや、写真と言ったっけな。技術の発展は凄いものだ。

 そこには写真以外に出身地や身長等がかかれていた。多分。まだ字を完璧に読める訳じゃないから。


「ゆ、め、めい?」

「行方不明者?」


  行方不明か。


「そうなんです。ここ最近、行方不明になった友人や家族を探してほしいと言う依頼が殺到してまして、最初は個々で請け負っていましたが、あまりにも数が多いので1つの事件として扱うことになりまして、それで手の空いている冒険者に調査を依頼する事になりました」


 1つの事件として手の空いている、か。一人一人ではなく複数必要、そう考えているのだろう。


「勿論報酬が出ます。やってくれますでしょうか?交通費も至急いたします」


 交通費ってなんだろうか?後でいいや。依頼は受けるとするか。暇だし。


「交通費って事はその失踪は一定の場所で起こってるの?」


 モミジが聞く。一定の場所?なるほど、交通費はいわゆる馬車とかで移動するための金って事か。


「はい。失踪事件はここから北にあるイシュバーラの周辺の村を中心に起きています。広範囲で起こってはいますがここを中心と考えると外側程失踪している人数が少ないんです」

「俺は構わない。二人はどうする?」

「私も行く。早速準備してくるね」

「イシュバーラ、行きたい」

「イシュバーラがメインじゃないぞ」


 モミジが心なしか笑顔に見える。もしかしてイシュバーラって二人は行きたい場所なのか?


「ありがとうございます」


 こうして俺達は依頼を受けた。準備をして北へ向かおうとすると何故か二人は東へ向かう。


「オーバー? どこ行くの?」

「どこって、イシュバーラは北なんだろ? だから北に行っているんだが」

「もしかしてオーバー徒歩で行くつもり?」

「いや走り」

「えぇ、まあオーバーなら行けるかもだけど」

「オーバー凄い?!」


 馬車も北の門近くにあるだろう。何故わざわざ東に?


「もしかして馬車以外にも移動手段があるのか?」

「え?!」


 二人が俺に驚いた顔を向ける。もしかして今では常識の移動手段か?


「汽車を知らないの?!」

「『キシャ』?わからないが」


 二人とも信じられないと言った顔だな。て事は今では常識の移動手段だな。確信した。だがどんな移動手段なのだろう。それを使えばあの村からもそれで移動できたと思うのに。

 するとモミジは俺の手首を掴むと走り出す。するとついたのは『フラッグステーション』と言う場所だった。


「汽車ってこれの事だよ?!」


 モミジが指を指した先にはとてつもなく長い乗り物だった。2本の線の上を大きな音を立てて走っていた。

 あんなにもデカいのが走るのか?! しかも馬を使っていなかったぞ!いったいどうやって走っているんだ!


「す、凄いな、汽車と言うのは。あんなにもデカいのをいったいどうやって、もしかして1つだけ違った、先頭のあの黒いのが動力源なのか?」


 信じられないと言った顔が続く。相当に驚かれているなこりゃ。


「オーバーがここまで知らないのが多きずるって、本当に出身地が気になる」


 驚かれ過ぎたがその汽車に乗った。どうやらレールの上でしか走れないがその分人も荷物も1度に乗せられる。動力源は石炭らしく、馬でもないので定期的に休ませる必要もないらしい。荷車を引いていない馬とほぼ同じスピードで走れるため様々な人の足になっているようだ。


「のんびりしながら急いで変わる景色を見られるって凄いな」


 俺は列車の窓から外の景色を見る。移り変わりが早く、色んな景色を見れた


「そういやイシュバーラってどんな場所なんだ?」

「イシュバーラは鍛治屋の多い街なの。鉱山ではなくあえて平地で、鉱石等は様々な所から仕入れているからドワーフ等の腕利きの鍛治師が集まる所。1度行ってみたかったの!」


 モミジは楽しみにしている。モミジの夢は『共生』している異種族達の文化や技術を見て回る事だったな。ドワーフか、300年前は唯一人間に技術を提供してくれた種族だ。そのおかげもあってか生存率は上がったらしい。とは言っても聞いただけだからな。会ったことがない。人間と同じく隠居生活を強いられていた種族みたいだしな。


「アイスもイシュバーラに行きたかったみたいだが、何かあるのか?」

「私、刀の手入れ知らない」

「なるほど」


 鍛治屋に行って教えてもらうのか。だけど鍛治屋ならブリュンヒルドにもあった筈だよな?


「駅の近くにも一軒あった筈だが?」

「ブリュンヒルドは剣を扱うところが多い。刀は数が少ない」


 そうか、鍛治屋でも刀と剣でも違うのか。包丁、短剣も含めれば沢山あるって訳か。腕利きの鍛治師が集まる街なら刀に特化した腕利きがいる。


「もうすぐイシュバーラ、イシュバーラです。下車のお客様は忘れ物が無いようにお願いします」


 どこからか声が聞こえる。離れた場所から声を出せるのか。凄いな。

 男の人の声を聞いてモミジとアイスは窓の外を見る。するとそこには沢山の煙突が並んだ街が広がっていた。所々に煙が上がっている。 なんだかここだけ世界感が違うように感じる。


「調査は昼始めるか。その間に飯とか鍛冶屋によるとか少し回ってみるか。」


 そう言った瞬間、モミジの目が輝く。


「ただし、ゆっくり回るのは調査が終わってからだ」

「わかってる!」


 モミジはすっかりやる気を出しているようだ。


 俺は資料を広げる。。

 今回の失踪事件。資料を見る限りでは老若男女問わず行方不明になっている。その数100人以上。ここまで来ると組織的に拐っているとか、そのレベルだろうな。


「その資料ってことはあんたらも調査しに来たってことが」


 突如として声をかけられた。


「あんたは、たしかボイトム」


 確かこの男は実技試験の時一緒にいた、皆魔方陣を展開するなか一人だけ糸を張っていた奴か。


「名前覚えててくれたのか、嬉しいぜ。隣いいか?」

「いいがそろそろ駅に着くぞ」

「悪いな。あ、俺はボイトム・スケロテーネ。よろしくな、お二人さん」

「よろしく」


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