新たな仲間

時間が経てば宴会も終わり静かになる。皆眠って光も無くなる。


「……眠れないのか」


 ただ二人、座りながら星空を見上げる。一人は俺、もう一人は氷の魔導師。


「眠れないさ」


 魔導師は酒を呑む。


「腕が無くなって暫く病院通いだったから、禁酒生活が長くてね。一度口にしたら満足するまで呑みたくなってしまった」


 腕を無くすか、俺は失っても平気だが他の人からすればそうはいかない。



「800万」

「?」

「何故800万を提示した」

「金額が多少高くても『羽振りのいい依頼』としか思われない、だから異常に高く」

「そういう意味じゃない」


 じゃあなんだい?と。顔を俺の方に向ける。他にどういう意味があるんだ?と言わんばかりの顔だ。


「あんたは村の者でもない。元村長の知り合いなだけだ。元村長が死んで、片腕を失ってもあんたはアイスを助けようとした。それも800万の大金を出せるほどに」


 俺の問いに直ぐには答えなかった。下を向いて悲しげな顔をする。


「理由としては不十分かも知れないけど、初恋の人に似ていたんだ」

「初恋か。納得した」


 魔導師は驚いた表情をしてこっちを見る。


「納得って、今のでしたのか?」

「ただ知りたかっただけだ。理由なんて、小さくても大きくても関係ないからな」

「小さくても大きくても、か…………酒がなくなったな」


 魔導師は酒瓶を逆さにするが1、2滴しかなかった。まだ満足していない様子だ。だが諦めたのかその場でねっころがる。


「外で寝ると風邪引くぞ」

「雪の中で寝るよりは快適だ」


 魔導師は眠った。本当に草の上で眠ってしまった。まあ本人が快適って言ってたしいっか。

 俺は立ち上がって村の外を散歩する。光は月明かりだけ。雲1つ無い散歩日和だ。夜は日和と言うのかはわからないが。


「あ。今日は満月か」


 月は実は光っていないって勇者は言ってたっけな。

 そう思いながらも俺は歩いた。








 次の日。


 起きると何故か隣で腕を抱き締めて寝ているアイス。布団が別ではない。同じ布団、同じ掛け布団で寝ていた。俺は何故こんな事になったと問う。モミジに


「…………どうしよう、覚えてない」


 モミジは汗だくだった。酒を呑んでいたからな。酔い止めもないのに。対して気にしていなかったがまさかこんなことが起こるとは……


「お前ら、たった一夜にして」

「違う!違う!ちがう、ちがう、違う……違う…………多分」


 全力で否定するも確信を持てないため弱めになっていく。否定したモミジの声にアイスは目が覚めた。眠そうにモミジを見る。


「アイス、昨日何があった」

「きのう……」


 寝ぼけているためかボーッとしている。


「モミジ……一緒、寝た……気……が良かっ……スウ,スウ」


 アイスはまた眠った。だが聞き捨てならない言葉を言ったな。


「気……がよかっ……ねえ、『気』と『が』の間に何が入るんだろうか」


「わ……私は本当に……」


 モミジはアイスを見て体を震えさせる。そうだとしたら基本裸の筈だがそうではない。見たところ服は着ているし乱れてもいない。


「……覚悟を決めなきゃ」


 100%そう思い込んでいるな。実はアイスがモミジに一緒に寝ようって言って、ただそれだけなんだけど、村長がそのために大きめの布団を用意したし。面白そうだから黙ってよう。さっきも『モミジと一緒に寝て気分が良かった』とか言いたかったんだろうな。

 誰かと一緒に居たかったんだろうな。特に、1番勇気をくれたモミジと。


「すー、はー、」


 モミジは深呼吸をしている。まじで覚悟決め込もうとしてる。さてと、起きるのにもう少し時間がかかりそうだし朝飯でも駈ってくるか。

 俺はリビングに行く。すると笑いを堪えている村長がいた


「村長、聞いていたな?」

「若いっていいのお」


 モミジの勘違いで笑いをこらえるのに必死なようだ。何かモミジっていじりたくなるんだよな。


「さてと、俺は帰る準備でもするか」

「朝ごはんは食べていくかい?」

「是非とも」


 俺はバッグを確認する。少し整理して直ぐに準備を終える。村長か料理をしている音がする。美味しそうな匂いも漂ってくる。

 俺は椅子に座り待つ。どんな朝ごはん何だろうと楽しみにする。


「できたぞぉ」


 出来たみたいだ。どんなご飯なんだろう。そう楽しみにしていると俺の前に現れたのは拳だった。


「ごふっ!」


 顔面に拳が当たり、椅子こど後ろに倒れる。殴った犯人を見るとそれは真っ赤な顔のモミジだった。とても怒っている表情だ。だが恥ずかしがっている所もある。


「オーバー!知っていたなら言ってよ!」

「いやいや、モミジが夜中起きた可能性も考えたら」

「酔ってて爆睡していたのに起きれるわけないじゃん!」


 後から部屋から出てきたアイスも顔が真っ赤だった。モミジは何をいったんだろうか。


「顔が真っ赤だぞ。お楽しみだったようだな」

「うっさい!」


 モミジは俺の顔を思いっきり踏む。


「おいそれ洒落にならんぞ」

「腕斬っても生える奴が何を言う!」

「からかうのもいいかなって」

「このやろう!」


 俺を踏みつけるモミジ。


「その程度の攻撃で俺に効く筈がない」

「くっそー!」

「まあまあ、そのぐらいに、ご飯を食べましょうか」


 村長が人数分の食事をテーブルに並べた。アイスは椅子に座る。モミジも俺もちゃんと座る。


「「「頂きます」」」


 これは味噌汁か。先生が作ってくれた以来だな。ん?先生のとは味が違うな。具材も違う。同じ料理でも作る人が違ければ味噌汁もちがうんだな。


「旨い」


 米も、沢庵も、何もかもうまい。


「この料理って何て言うんだ?」

「筑前煮」


 不機嫌に答えるモミジ。まだ怒ってるな。黙ってただけなのになぁ。筑前煮か、うまいな。味付けも簡単そうだ。帰ったらつくって見るか。


「…………おかわり」


 村長は茶碗を受けとり米をよそう。にしてもアイスは良く食うな。もうおかわりか。おかずも沢山食べているし。がっついて食べているが朝から大丈夫なのか?


「おかわり」

「アイス、急いで食べ過ぎじゃないか?」

「私冒険者になる」

「そうか、なら沢山……え?」


「「ええ?!」」


 村長とモミジは驚いて茶碗を落としそうになる。落とさなくて一安心し、テーブルにおいてから驚いた顔に戻ってアイスの方を見る。


「ぼ、冒険者っていきなりどうしたんじゃ?アイス?」

「冒険者になるってことは、せっかくあった村の皆と別れることになるんだよ?」


 二人ともいきなりのことで食事をしていた手が止まる。


「魔導師さんも、皆も、私自身ももう助からないと思ってた。でもモミジ達が来て助けてくれた。誰かが来たから私は助かった。だから、私も誰かを助けたい。冒険者になって、沢山の人を救いたい」


 村長の手は止まったまま優しく笑う。


「アイスがそうしたいなら、それで良い。やっと自分のしたいことが出来るのじゃから、沢山したいことをしなさい」


 後押しの言葉を貰ったアイスは村長の方を見る。少し驚いた顔をしていた。反対されるのではないかと思っていたみたいだ。


「本当にそれで良いのか?アイス」


 冒険者になると言うことは避けられない道がある。それはアイスにとって大きな壁だ。別の道を選択するのが良いと言えるほどの。


「冒険者になるということは『傷付ける』事だ。あれを倒してほしいあれを倒してほしい、冒険者は戦う職業だ。なってまだ1個しか依頼を受けていない俺が言うのもなんだが、誰も傷つけずにいくのは不可能だと思う。研究者でも無い限りなは」


 アイスは魔力の暴走でその猛威を振るってしまった。誰も傷つけたくないと言う理由もある今回の事、覚悟を決めても直ぐに克服できるモノではない。


「大丈夫。間違えなければ、大丈夫」


 大丈夫か、何を間違えなければいいかはわからないが、アイス自身は答え、いや方法を見つけ出しているんだろうな。


「そうか、準備しないとな、村長。交通費とかは全てこっちもちだ。どうせ報酬はあるからな」

「わかった。食べ終わったら皆に挨拶をしてきなさい」

「うん!」


 そう言ってアイスは3杯目のご飯を食べる。


「早いな」

「冒険者になる。体力つける!」


 そうして食べ終わり、アイスは村中を周り、挨拶をしに行った。俺とモミジは以来達成の署名をもらい暫く待つ。


「アイスのことを頼んでもいいか?」

「最近の奴は昨日今日会ったばかりの奴に頼むことが流行りなのか?」


 モミジの事も思い出す。信用してもらっているのは嬉しいことだが流石に心配になるな。


「任せて!私がアイスちゃんを守るから!」


 モミジは胸をはって言う。自信満々に言っているが……ああ、そう言うことか。


「そうかそうか、アイスはSランクに届きそうだった魔導師でさえ手も足もでない実力を持っているから確実にSランクで合格するな。そんなアイスを守るとは、それはお前の強くなる意思表示でよろしいな」

「え?!……うん!」

「そうかそうか!報酬も沢山あるからな!体力つけるためにも明日からご飯3倍食って、沢山鍛えないとな!じゃなきゃCランクのモミジが守れるか?」


 ここでモミジは自分の発言の意味を完全に理解した。顔が真っ青になる。


「みっちり鍛えてやるよ」

「…………お手やわからにお願いします」


 よし決まりだな。


 アイスは挨拶をし終わって荷物を背負う。


「そろそろ出発の時間だ」


 嘆いている人もいるが、皆笑顔でアイスを見送る。アイスも笑顔で手を振る。歩き始めて、見えなくなるまで、手を振り続けた。


「以外だな、こう言うのは無くと思ったんだかな」


 俺がそう言うとアイスは笑顔でこう言った。


「だって今度は、いつだって帰れるから!」




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