暖かい
俺たちは村へ向かう。モミジとアイスと三人で手を繋ぎながら。
「誰かと手を繋ぐのは久し振りだな」
「久し振りって、恋人とかいたの?」
「俺に恋人はいない。必要とも思ってない」
「ふーん」
そのふーんは少し素っ気なかった気もするが気のせいだろう。
「オーバーの手、モミジより暖かい」
アイスは左手でモミジと、右手で俺と手を繋いでいる。俺の体温は他の人よりも高いのか吸血鬼は人間より体温が低いのかはわからないが俺の手をぎゅっと握る
「ならもっと温かくしてやろうか?」
「出来るの?」
「出来るさ」
アイスが俺による。
燃えているときの感覚は暑すぎるから……炎天下にいるときの感覚でいっか。
俺は猛暑の感覚を思いだし、『再現』して体温を高くする。
「暖かくなった」
「冷たくしたりもできるぞ」
極寒の地にいたときを思い出す。
「つめたい」
「よく考えたらアイスが近くにいるからなだけで今日は暑いな。暖かくするか」
俺の体温の変化を楽しんでいるのか俺に引っ付くアイス。モミジが不機嫌そうな顔でこっちを見ているのは何故だろう。
「どうした?モミジ」
「なんでもない」
俺の気のせいだったか?まあいっか。
「そろそろ村だな……ここから競争でもするか?クエスト達成、報酬も受けとりたいしな」
報酬、その言葉を聞いてモミジは明るくなる。
「そうだよ!1000万!」
とても良い笑顔だな……て、もう走り出してる。フライングだな。あのスピードなら追い抜かせるが。
「報酬?」
「ああ、言っただろ?村の人たちは依頼したって。その報酬さ」
「どんな内容?」
「『剣を持ってきてほしい』。アイスが剣と一体化したからアイスを連れてくれば依頼は達成さ」
アイスは何故か考え込んだ。そして、次の瞬間耳を疑う事を言う。
「抱っこして」
「抱っこ?」
抱っこって、あれだよな。前から体を持つやつだよな。後ろがおんぶだっけ?
「でもなんでだ?」
「『持ってきてほしい』」
「……なるほど。確かにそうだな」
抱っこするとして、どうするんだっけ?確から膝の後ろに腕を添えて倒れるようにして背中に腕を添えるようにする。確かこうだった筈。確かお姫様抱っこって名前だった気がする。先生が「女の子を運ぶ時はこうするんだ」とかいってたな。
「よし、行くぞ」
「うん」
俺は走り出す。走りずらいけど、なんだろう、良い気分だ。
俺は先に走っているモミジを追い抜かす。
「お先」
「はやっ?! て、何でお姫様抱っこ?!」
モミジが何かを叫んでいるようだが風を切るスピードで走っている俺には少しでも離れたら聞こえない。あっという間に村についた。
「やっとついた!オーバー?!なんでアイスちゃんをお姫様だ……こ」
モミジが村につくとアイスを抱き締める村長。泣きじゃくるアイス。
「安心したのかな、村長を見た瞬間に泣き出してしまったよ」
どこかで強がっていたんだな。手を繋いでいたのも、俺の体温変化を楽しんでいたのも。
「そっか、もう大丈夫なんだよね、アイスちゃんは」
モミジは笑顔だが泣きそうにもなっていた。
「何泣いているんだ?」
「私、こう言うのに弱くてね」
そうだな、生きて帰ってきたんだ。アイスは俺たちと会うまで、一人ぼっちだったんだ。たった一人の命、けれどその一人を大切に思う者がいる。泣いてくれる人、抱き締めてくれる人、笑ってくれる人、この村だけでも沢山いる。温もりがある…………いいなぁ
俺は俺自身の手を見る。
「暖かい……か」
俺は他人の温もり何て、もう覚えていない。暖かかったって事は覚えている。
「アイス」
俺の声に反応してアイスは涙目でこっちを見る。暫く泣き続けてたからか泣きじゃくれてはいなかった。沢山流れてもなお、目に涙を溜めている。俺は多分優しく笑ってアイスの頭を撫でる。
「十分泣いたなら、今度は笑おう。ずっと泣いていたら、皆が悲しむ。命をかけた前の村長だって、笑ってほしい筈だ。これで、悲劇は終わったんだ。だから、幸せを始めよう。お前のこれからを。祝おう、ここにいる皆で」
アイスはまた泣きじゃくれた。でもこっちを向いて笑顔だった。
「うん!」
その日の夜、村は宴会を行った。酒を出しては料理を出しては、騒いでいる人やいまだに泣いている人もいる。モミジは酒を飲んで酔っぱらっている。今酔い止めが無いのを忘れているのかお酌されたお酒を飲んでいく。
俺も酒を飲んでいる。人生に2度目の酒を嗜む。盃の酒が無くなったのでまたつごうとしたとき、村長が別のお酒を持ってきた。
「すまない、頼む」
俺は盃を差し出す。お酒が注がれ、俺それを呑む。
「旨いな」
「安物じゃがな」
村長は俺の前に座る。
「ありがとう、オーバーのおかげでアイスは救われた」
「そうだな、俺たちはアイスの『体』を救った。雪村は『技』を救った。でも、アイスの『心』を救ったのはあんただ」
「……ワシ達は何も救えていない。むしろ苦しめただけじゃ。アイスの『心』を救ったのは君達じゃよ」
村長は否定した。だがそれは違う。何故なら、それはもう既に俺達は見ているからだ。
「俺達は『勇気』を与えただけだ。証拠ならある」
「証拠?」
「村長、あんたと再開してアイスは泣いた。それまでは、村の皆に会えるのを楽しみにしていたのに。いざ会えば安心したんだろう。心から、やっと『帰れた』んだ」
村長はアイスの方を見る。お酒を呑もうとして周りに止められている。楽しそうだった。
村長はまるで自分の子供を見ているかのような暖かい目、だが少しだけ悔やんだ気持ちが混じった目だった。
「私は、アイスを救うためとは言え死なせる事を選んだ。いや、救いじゃないのかも知れない。苦しみを終わらせたかっただけかもしれない。だから、ありがとう。私たちの依頼を『最高の形』で達成してくれて」
「ない、『救う』事は嫌いじゃない…………少し酔ってきたかな、夜風に当たってくるよ」
そう言って俺は村の外れへ歩いていく。
風が気持ちいい。誰かと一緒に祝うのも、過ごすのも、気持ちいい風に当たるのも、全てが久し振りだな。寝ていた時間を含めなくとも。
やっぱり静かは落ち着くな……僅かに聞こえる声もあるが。
「…………」
笑おうとか、幸せとか、祝おうとか、全て俺が言える言葉じゃない。なのに言ってしまったな…………そんな事をどうして言えるのだろうか。先生に似てきたのかな、俺も。
「ヤベ」
先生の後を継いだなんて知られたら…………
「あーあ、怒られるだろうな…………まじで怒るな」
殺されはしないだろうけど半殺しにはされそうだな。
俺はアイスの頭を撫でた手を自身の頭に乗せる。
「俺はどうしてしまったのだろう。殺意も闘志もわかない。怒りはわからない。でもなんか、暖かさを感じるよ」
だからこそ、否定されている気分になる。俺も、先生の事も。
「誰だ」
誰かがこの村に向かってきている。こんな夜の遅くに。行ってみるか。
俺は走って向かう。瞳孔を開いて暗闇でも見えるようにする。人が一人が、向かってきていた。その人は片腕が無い男だった。男はこちらに気づくと止まる。
「あんたは、氷の魔導師か」
「君は誰だ?」
「冒険者だ」
魔導師はそれを聞いて驚いた。
「まさか!」
「依頼は達成した」
「?!」
依頼を達成したと言うことはアイスは死ぬことになる。そう魔導師は思っているんだろう。驚いてはいるが何か諦めた様子だ。
「今アイスは村で楽しんでいるよ」
「なっ?!」
どこか諦めていた様子は消え、俺の肩を掴み何故かと体を揺らして言う。
「どういうことだ?!依頼を達成したのなら!アイスは!」
「死ぬと言いたいのか?」
「?!」
「死なないさ。すくなくとも、自身の氷ではな。そうだろ、アイス」
俺が振り替えると。そこにはアイスが立っていた。アイスのいる方角へ歩く。
「お礼、ちゃんと言うんだぞ」
通りすぎる際、そう言って俺は村に戻る。静寂が訪れる。二人の間には何もないが、何かあるようでその場から近づこうとしない。互いに何を言えば良いのかわからない。
「ごめんなさい」
先に口を開いたのはアイスだった。目をそらしてしまっている。
「私のせいで腕が無くなって」
「い、いや。君のせいじゃない」
「ううん、私のせい。私が最初から魔力をコントロールできていたら、腕が無くなることもなかった」
アイスは責任を感じていた。魔導師はどうすればいいか?わからなかった。
「アイスが無事だったらなそれでいいんだ」
また静寂が訪れる。互いに目を合わせずに、だが魔導師は走り出した。そして、アイスを抱き締める。
「謝るのは私の方だ!私は君の命を諦めた!君を救おうとして、できなくて諦めた!私は弱い人間だ!君を見捨てて、見殺しにしようとした!それを願ってしまった!謝罪をするのは私の方だ!いや、私は……それすらも許されない人間なんだ……」
アイスも魔導師を抱き締める。
「おじいちゃんが、魔導師さんが、皆がいたから私は今ここにいるの! 皆が私を救ってくれたから私は勇気を持ったの! だからそんな事を言わないで!」
また泣きそうで、泣きそうな声で、それでも強くいい放つ。魔導師を抱き締める力が強くなる。
「すまない!ありがとう!」
魔導師も抱き締める力が強くなる。涙が頬を伝わりアイスの肩に落ちる。
アイスもまた泣き出してしまった。
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