真田雪村

真田雪村は歴史上英雄である。それは、魔王が撃ち取られ人間が魔力を得てから約70年、とある村で氷属性の魔力を持った男の子が生まれた。彼の魔力は強力で、幼いながらも村を襲ってきた魔物を撃退するほどだった。

 彼は剣技の才能があり、村にいた鍛冶屋によって刀を手にする。

 人間が魔力を得てから約90年、雪村は氷結の侍としてその名はせた。しかし、魔物達の襲撃は激しくなり、村の人達は移動を余儀なくされた。その村は他にもあったようで、途中で数々の漂流者たちを集め、大きな移動民へとなった集団と出会う。


 その集団は千人を超え、皆が色んな知恵を生かして生きていた。安定な場所を探して旅をしている。その千人以上の集団を統一しているのが『織田信成』だった。


 こうして大きくなる集団の仲間入りを果たした村の人達は魔族に襲われても被害をほとんど出さずに撃退できるようになった。織田信成の軍配、豊臣秀則と真田雪村と徳川家水の3人の武将、その噂を聞きつけた戦う力の低い漂流者達が次々に集まった。


 そして、織田信成は目指す場所が出来た。『フラッグウォール』と言う高い壁に囲まれた大きな街が存在し、魔物達から守られていると言う場所だった。そこなら安全な暮らしが出来る。皆は歓喜の声に溢れ、そこを目指した。


 しかし、大量の魔物が攻めてきて信成の軍配があってもなお、全滅の危機に去らされた。そこで織田信成がとった行動は


『ただひたすらに走れ!』


 フラッグウォールへと逃げ込むことだった。その街は魔物が近くにいるのも関わらず彼らの為に門を開けていた。だが、逃げ切れたとしても大勢が死ぬことは必然だった。そんなとき、雪村は殿を申し出た。

 信成は拒否した。しかし、雪村はこういった


「信成様や秀則、家水は頭が切れる人物です。皆を先じる人物。しかし、私は戦うことしか出来ない!ここで私が戦えば他の皆が助かる!」


 そう言って信成の静止を降りきり、雪村は雪村と最期を共にする仲間と共に魔物達に立ち向かった。

 死んだものは当然でた。しかし、大勢が生き残った。門が閉まり、魔物が諦めて帰っていった後、門外の様子を見に来た信成は、傷だらけで死んだ仲間をともらっていた雪村を見つけた。信成は急いで部下に治療させ、生き残った雪村は英雄としてその余生を過ごした。人間が魔力を得てから100年の事である。































「随分と美化されたものだな、私の人生が」

「違うの?」

「大筋はあってる」


 私はアイスと言う少女の言葉によって、記憶を取り戻した。少女はこう言った。「雪村は魔物を斬ることが何らかの理由で出来なくなった。しかし、斬らなければいけないのでそのための人格が出来た。『人斬り』はただ斬るのが快楽な人格が私たちを斬ろうとしたからこっちが勘違いしただけ」と。


「私は本当に『人斬り』の人格を作り出してしまった。嬢ちゃんの勘違いじゃない」

「そうなの?」


 アイスは少し驚いた表情をする。


「魔物を撃退したのは本当だ。皆からは英雄なんて呼ばれていたこともある。歴史の通り私は織田信成様達と行動を共にした。だが、沢山の人がいると良くないことを考える人も出てきた」

「よくないこと?」


 私は胸が苦しくなる。今でも、トラウマなのだから。


「魔物に襲われれば当然死人は出る。それが自分かもしれないと、情報と技術を売る代わりに魔物の方につく人が出たのさ」


 私は拳を握り締める。裏切りに怒りが沸いていた。


「裏切り者の首を撃ち取ったとき、その男の子供と妻も殺せと言われた。妻も子供も知らなかった。だから裏切りは内密にし、裏切りではなく戦死したと言えば良かった。だが信成はそうはしなかった。その妻も子供も殺せと言ってきた」

「そんな、どうして」


 どうして、俺も最初はそう思った。今だからわかる。あれは仕方がなかった事だって。


「裏切り者の家族と一緒にいるのは不信感を抱く。隠そうにも常に移動している私たちには『隠す為の情報網』が無かった。一度流れてしまえば一気に広がり全体が不信感を得る。そんな状態で生かしたら指揮に関わる。街とは違い、1つ皆が1つにならないといけない移動民にはそれはあってはならない」

「そんな、追い出すこともしなかったの?」

「そんなことしたら魔物に情報を売る可能性がある。今ならわかる。仕方がなかったんだと。だが当時の俺はそれでは納得できなかった。だが殺すしかなかった」


 今でも覚えている。怯えながらも必死に自分達は無罪だと訴えるのを、首を撃ち取った私は男から独断で行ったと言っていた。だが、皆はそれを信じず殺せ殺せと騒ぎ立てる。

 私の手は震えていた。


「私は妻と子供の首を落とした。殺したくなかった。だが周りがそう望んでいた。私は自分の意思で守ることは出来ても自分の意思で『殺さない』事はできなかった。その日以来、人を斬ることが恐ろしくなった。たとえ相手が裏切り者の敵だったとしても」


 手は震え、躊躇してしまう。魔物相手なら何ともなかった。だが人を斬る度に罪悪感と恐怖が募り、私はついに人を斬れなくなった。


「裏切り者を斬れなかった私は信成様にその心を打ち明けた。この時こう行ってくれた」



 そうか、お前は苦しんでいたのだな。すまぬ、気づけなくて。我にも、『裏切り者だけを罪にする言葉』があれば、無駄に人を殺さずに入れた……すまない。今度からは私がやる。



「そう言ってくれたときは正直安心した。もう人を斬らなくて済むと。だかそうはならなかった。魔物が攻めてきたタイミングで一人の魔導師が裏切って『内側から攻撃』してきた。信成様は軍配、秀則と家水は魔物と戦って私が戦うしかなかった。腕の立つ魔導師だったが為に他のものでは歯が立たない。私は殺せない。だが殺さないといけない」


 私はきっと、この時に思うことを間違えた。それが1番の原因なのだろう。


「私が斬れば皆が喜ぶ。喜ぶ顔を見て私は嬉しく思う。そう自分に言い聞かせた。そして斬ることが出来た。その結果自分の心に『ブレ』を感じた。人を斬ったその晩、私はまた罪悪感と恐怖に押し潰されそうになった。だから斬れば皆喜んで私も嬉しくなる。『斬れば嬉しい』ずっと言い聞かせた。その次の日だった。私はいつの間にか人を斬っていた」


 それは偶然にも魔物に乗っ取られた人間だったが為に私はそれを見抜いたとされた。


「だが何も感じないこと、記憶にないことからからすぐにわかった。『別の人格』がやってしまい、私はその人格を作り出した事に。それ以来、平気になった。考える余裕が出来た私はあまりにも多い裏切り者。何故そうなったのかを考え始めた」

「確かに、話を聞くと裏切り者が多い」


 何故多かったのか、それはあまりにも単純な事だった。


「『死にたくない』それだけだった。死ぬ可能性があるなら魔物側について命を保証してもらおう。そして、それが可能だと情報が広まり、そう考える人が多くなった。だからフラッグウォールの話が広まってからは極端に減ったよ」


 減った。それだけで済めばよかったのに。


「裏切り者が減ったのは良かった。だがそうなれば私の『人斬り』が黙っていられなかった。私は信成様にうち明かしていた為に魔物が攻めてきたとき積極的に私を戦わせた。『皆を守る英雄』としての私を保つために。それでも、人を斬ってしまう事があった。その時は裏切り者として信成様が処理した。正直、斬ったことに罪悪感はなくなったけど『仲間を殺した』事への罪悪感はあった」


 私はここで深呼吸をする。あのときの罪悪感が膨れ上がり、震える。


「大丈夫?」


 アイスは心配そうにこちらを見る。


「大丈夫だ。フラッグウォールへと向かう途中、大量の魔物に襲われた。歴史ではかっこよく殿を勤めてたけど、実際は違う。私はその街に入ってしまえば『人斬り』になってしまう。だから、私はそこで死ぬことを決意し、魔物に立ち向かった」

「え?それじゃあ」

「そう、私はその時に死んだ。余命を過ごしたなんて嘘さ」


 私は自嘲気味に笑う。


「必死に戦った。最期まで、無事にたどり着けた合図の狼煙が上がったとき、私は心から安心したよ。最期まで私は『英雄』を貫けたのだから。だが、それとは対象に『人斬り』の私は未練を残した。その結果がこの様さ」


『英雄』の私は未練をほとんど残さなかった。『人斬り』の私は未練を残した。その結果、私の意思は刀に宿った。『人斬り』の意思を強くして。


「戦いが終わったあと、信成様は皆の遺体をその場で火葬した。意志が宿った刀は拾われ、その時気づかれた。『人斬り』の意志が宿っていることを。信成様は刀を『英雄の生きた証』として宝物庫に閉まった。事実上の封印さ。それで良い。私の人生はそこで完全に終わった」


 私は私の全てを話した。その後に、誰かが宝物庫を開け、持ち出し、『氷冬雪刀』と名付け、またどこかで封印され、アイスの村の村長のが見つけ出した。


「嬢ちゃん、私は今消えよう。『意思を放棄』する。そうすれば、打ち込まれた魂だけが残り、君を救うことが出来る」

「…………」


 何も言わない。困惑している顔だ。真実を知って、私を消す必要が無いのではないかと思っているのだろう。


「心配はいらない。私は既に死んで、心の弱さが生んだ、悪霊だ。せめて、君を『救う』事をさせてくれないか」

「…………」


 アイスは頷く。


「ありがとう。消える前に二つ、したいことがある。一つは暴走して氷に覆われたここ一帯を元に戻す。一度だけ私にこの体の所有権を譲って欲しい。私はこう見えても氷の魔導師だ。このことぐらい造作もない。それに君はただ体を動かされただけで私の剣技を覚えた。きっと魔力コントロールも覚えられる。そうすればもう暴走することは無くなる。それでいいかい?」


 アイスはまた何も言わずに頷く。泣きそうになっているのがわかった。大切な人を殺した私に、『人斬り』の私に、涙を流してくれるのか、君は本当に優しい人だ。


「それじゃあ、行ってくるよ」


 私はゆっくりと目を覚ます。


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