二重

「くそ!止めろ!俺の!私の真似をするなあああ!!」


 私は人斬りの真似をする。彼の剣技の真似を。私はどうして倒そうとする相手の記憶を引き出そうとしているの?記憶が戻っていない状態で、苦しんでいる状態で負けても本当の負けにはならない。完全に負けを認めさせるため?いや、違う。なら私はどうして?


「剣をもったところで、私は何も出来ない。人斬りの貴方を利用することでしか、付け焼き刃の技も振れない」


 苦しんでいる人斬りはただ防ぐことしか出来ない。私は誤って斬らないようにしている。きっと、私のやっていることは矛盾している。


「ぐぅうう!!」


 人斬りは膝をつき、頭を抱える。


「何だ?!これは!一体誰の記憶なんだ!違う!俺じゃない!私は、ただ斬るだけだ!斬るだけなんだ!それこそが俺の価値だ!」


 人斬りは何かを否定するようにあらぬ所を斬る。そして私に斬りかかる。何とか防ぐも何度も斬りにかかり、僅かに肩がかすった。

 一段とスピードが上がった?!このままだと防ぎきれない!……いや、防ぎきれる。よく見ると大振りでワンパターンだ。相手の動きを読んで最小の動きで防いでいけば、捌ききれる。


「何故だ!何故斬れない!剣技も流派もなにもないただの真似事のお前がどうして俺の動きについてこれる!」

「それは、今の貴方が弱いから」

「俺が弱い?!あり得ない!私は名のある侍達を斬ってきた!そうやって俺は生きてきたんだ!お前のような非力に俺が勝てない筈がない!」


 人斬りは否定をしたくて仕方がない。だから動きが単純になる。それでもとても早い。

 もしもこれが魂同士の戦い?対話?じゃなかったら、生身でやっていたら、きっと私はオーバーワークを起こす覚悟をしなくちゃいけない。けれど魂だけならそれは存在しない。


「この真田雪村が負ける筈がない!…………は?!」


 人斬りは今自分が何を言っているんだと、すぐにその言葉を否定する。


「違う!俺は雪村じゃない!俺は!…………俺は?」


 人斬りの動きが止まる。刀を握っていない手を見つめる。


「俺は?誰なんだ?この手は……私の手だ。だがどうして?どうして私は忘れているんだ?」


 自分が真田雪村ではないと否定することはわかる気がする。でもどうしても『この真田雪村が負ける筈がない!』と言った意味がわからない。

 もし人斬りが真田雪村だとして、何故否定をする。英雄と名を残した雪村が人斬り……他の人がいないと英雄は存在しない。


「もしかして、貴方は」

「だまってくれ!」


 人斬りは暫く頭を抑えると深呼吸をして構え直す


「すまない…………今すぐ斬ってやる」


 雰囲気が変わった?違う、別のと混じった。そう感じる。なんだが、優しい感じがする……彼は『人斬り』だけで終わらせてはいけない。


「……わかった」


 私も構える。そして、私は防御を捨て、徹底的に攻めにいく。けれど全て捌かれ私にの腕や足に切り傷ができる。

 このままだと負ける。人斬りが『人斬り』としての意思や信念を消すためには『絶対的な敗北』ば必要。けれど何かを思い出そうとして苦しんでいる彼に勝手も『絶対的な敗北』は得られない。

 そう、その苦しんでいる状態でも私は勝てない…………あれ?

 私何かおかしいこと考えたら気がする。矛盾?かな、してない気もする。


「私の真似事でここまでとは、だが、これで終わりだ!」

「あ!」


 また早くなった?!そんな!

 早くなった刀は私の剣を弾いてしまう。手放さなかったが首ががら空きになってしまった。そこを人斬りは逃さず狙う。

 そんな、これじゃあやられる!


「はあっ!……?!」

「?!」


 よけれた?!ギリギリ……人斬りは今のでとどめを……動揺している?


「どうし、て」


 人斬りは自身の刀を見る。刀を見る。握っている手を見る。明らかに動揺していた。


「今、私はどうして躊躇った?確実に首をとった筈なのに、どうして?」


 躊躇した?『人斬り』が?どうして?でも、私はそれで負けなかった。躊躇したのには理由が……。今ので、何かがわかりそう。


「まあいい、次で止めをさせれば」


 何かが、後は考えれば良い気がする。


『名刀には魂が打ち込まれる』


『名刀でもあり妖刀でもある』


『真田雪村』


『物真似』


『二つの一人称』


『躊躇』


 妖刀になる条件は、たしか


『使っていた者の怨念や未練』


 何かがわかりそうな気がする。


「何余所見をしている!」

「は?!」


 私はとっさに防ぐ。けれどバランスを崩し尻餅をついてしまう。


「これで終わりだ!」

「まって!」


 人斬りは直前で手を止める。私は腹に蹴りを決め、すぐに立ち上がり後退する。人斬りはこちらを睨んでいる。


「お前!」


 一対一で、真剣勝負でなきゃいけないこの状況で、待ったをするのは良くないけど、


「ごめんなさい。どうしても、考える時間がほしい」

「考える時間?何故今考えるんだ!このタイミングで何故!」

「それは、あなた自身にある」

「おれ自身だと」


 私は剣を落とす。そして2、3歩下がる。


「戦いを放棄するのか?」

「違う」


 私はこの間に必死に考える。必死に。


「これは、お前が抱いた決意を通すための戦いだ。それを、お前自身が中断すると言うのか」

「うん」

「………………まあいい、俺も頭を整理する必要がある」


 人斬りは座る。私から目を離さない。けれど考える時間をくれた。だから早く見つけなくちゃ。


『人斬りを楽しむ』


 刀に宿っている魂がそうさせている…………おかしい。魂は腕の立つ職人がその刀に思いをかけた渾身の出来であるときに打ち込まれる。なら、『斬る』ためじゃなく、『斬るのを楽しむ』ために作るのはおかしい。


『人斬りだけど英雄』


『人を斬りたいけど躊躇する』


『真田雪村だと言ったけど否定する』


『自分が誰だかわからない』


 …………ダメ、辻褄が合わない。人斬りがなんで躊躇を……いや、彼が『人斬り』じゃなかったら。『英雄』だとしたら………………繋がりそうで繋がらない。『一人称が二つ』の意味がわからない……二つ?二人?


 …………………………………………………………………………………………


 わかった。彼は両方だった。二人いたんだ。『人斬り』の彼と『英雄』の彼。


 私は立ち上がり、彼の所へ歩く彼はこちらに気づくと構えるが私が剣も持たずに無防備で歩いてくることにも気づき、刀を鞘に納めて立ち上がる


「どういうことだ」

「雪村。貴方の名前は『真田雪村』」

「?!」


 雪村は動揺し、数歩下がって否定する。


「俺は真田雪村じゃない!」

「うん。わかってる。貴方は名のない人斬り」

「名がないだと?!何を言っている!」

「貴方は二人いる。真田雪村と、雪村が作り出したもう一人の人各」


 私は強く強調しようと言い直した。


「貴方は、二重人格」


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