人斬りの魂

私は、真っ暗な空間にいた。光と影がない空間。私の姿がハッキリと認識できる。近くには剣が落ちていた。アイシクルソード。私の剣。それを拾う。


 歩くいても何もない。でもわかる。この空間にはもう一人いる。私とその人だけの空間。ここで全てが決まる場所。ここで負けてしまえば私は死ぬ。勝てば生きる。


 私は死ぬ勇気がなかった。誰も傷つけたくないと言いながら、生きようとして、誰かを傷つけた。もし私に勇気があったら、既に私は死んでいた。でも、勇気が無かったからモミジに出会えた。


 必死に助けようとしてくれて、死ぬ勇気が沸いた私を止めて、生きる、立ち向かう勇気をくれた。オーバーと言う人も私を支えてくれる。今まで冷たかった。人ってこんなにも暖かいんだって始めて知った。


 この人達に出会えたのも、村の皆が私を助けようとしてくれたから、だから、笑顔で会いたい。また沢山話したい。私の作った沢山の氷像を見せてあげたい。どんな顔をするんだろ。驚いてくれるかな。ちゃんと帰ってちゃんと謝りたい。魔導師さんにも、皆にも。


 勇気が出ただけでこんなにもわりたいこと、やらなきゃいけないことが出てくる。私は誰かを、大切な人を殺してしまった。傷つけてしまった。なら、その罪を償いたい。その分、誰かを救いたい。


「だから、私は貴方に勝ちたい」


 私は剣を構える。奥から歩いてくる男の人。腰には刀をつがえている。私を見ては笑い抜刀する。


「俺に勝ちたい?いいよ?俺を斬れたらね?」


 人斬りはそう言って笑いながら構える。


「いいねえ、久し振りに剣をもった奴を斬れるとは、いいねぇ、いいねぇ!真っ向勝負いいねぇ!!!」


 怖い、あの笑顔が狂気に見える。怖い、足が、手が震える。勝たなきゃいけないのに。


「……震えているのか?そう言えば誰も傷つけたくないとか言っていたなぁ! その願い!叶えてやるよ。お前がここで消えれば傷つけることは無くなる。代わりに俺がただ斬るだけだがなぁ?!」


 私は剣を振るう。人斬りはわざとらしく危なしげに避ける。


「おっとっと、危ない危ない。今のは危なかったなぁ」


 明るく笑いながら挑発するように拍手をする。


「けどまあ、相手が誰であろうと本気で斬る」


 狂気の笑顔に変わる。体は身震いをしたその直後に人斬りは既に私の首を跳ねようとしていた。


「?!」


 ギリギリ剣で防いだものの尻餅をついてしまう。人斬りは縦に振り下ろす。剣で防ぐ。


「う!」


 重い!

 私は手持ちを両手で持っていたけど押し負けてしまうため剣を横にして左手で側面を押さえる。それでも少しずつ押されていき、刀の刃が私の顔に近づく

 このままだと負けちゃう!このまま押しきられる!こんなにもあっけないなんて!こんなにも差があるなんて!


「うりゅ!」


 私は足を蹴る。けれど一切力が歪まない。出来るだけ思いっきり金的を蹴る。それでも反応がない。そんな、もしかして魂だけだからそう言うのが聞かない?!


 金属同士がぶつかる音がなり続ける。刃は私の顔寸前まで来る。


「?!」


 人斬りから笑顔が消え刀を引いて自身も大きく一歩後退する。

 どうして?どうしていきなり?私を斬る直前で。表情からして予想外の何かがあったのかな


「くそ!てめえ!ちゃんと手入れはしとけ!」


 手入れ?そうか!村長が見つけたと言っていたのなら長い間手入れされていなかった筈。それに魂を合わせる、私を助けるためだけに使ったのなら手入れなんてしない。それに、あのあと私は刀で氷像を彫っていたから、切れ味がとても落ちているんだ!そうなったら剣より脆い刀は折れてしまう。だから引いたんだ。


「ごめんなさい。私は剣も刀もからっきし。でもありがとう。私に剣技を押してえくれて」

「なっ?!」


 私は踏み込んで斬ろうとする。けれど人斬りはそれを防ぐ。けれど明らかに焦りが見える。


「てめぇ!からっきしって」

「オーバーワークを起こしそうな勢いで私の体を動かされたら嫌でも覚えてしまう」


 私は次の攻撃、次の攻撃を仕掛ける。人斬りはそれを防ぐ。


「それだけで覚えるとかそれはもう天才だ! 生まれつき凄いやつだ!」

「大切な人を殺す才能ならいらない」


 私は出来るだけ反撃の隙を与えないように早く動く。魂ならオーバーワークを起こさないと思う。だから出来るだけ早く攻撃する。


「でもよ、それって俺の真似事だよな」

「?!」


 私の剣は弾かれてバランスを崩し倒れたくないと2歩後退した。


「俺の剣術は俺が1番わかっている……それは剣を振るうためにあるんじゃい。刀を使うためにあるんだ。所詮真似事だが、真似事の真似事に負けるつもりはない」

「真似事って、誰の」

「さあな。忘れてたね」


 誰だか気になってしまった。誰なんだろう。確かあの刀は『氷冬雪刀』もしかして


「真田雪村?」


 人斬りの手が止まる。いや、それどころか刀を落として頭を抱え始める。


「真田、雪村?誰だ?誰なんだ?いや、知っている。俺は知っているのに思い出せない!」


 頭を抱えてその場で膝をつく。

 もしかして、何かを忘れている?記憶喪失?でもそんなことってあり得る?あり得る。目の前で起こってる。なら、きっと真田雪村の事を言えば思い出してくれるかも知れない。


「真田雪村は200年前、何度もの魔物との戦いで生き残った英雄と言われている。その強さはかつて最強と言われていた侍、織田信成も一目を置いていたと言われている」


 記憶を呼び覚ましたとき、さらに強くなるのかもしれない。でも予感がする。そうしなければならない、熱い何かを感じる。


「俺は、俺は!……そもそも俺の名前はなんだ?何で真田雪村って言葉にとても親しみを覚えている!」


 今斬りに行けばきっと勝てる。でも魂を空っぽにする為には正々堂々と勝たないと行けない。それに私は気になる。この人の事を。


「……思い出せないなら思い出して」


 私は剣を握り振りかざす。人斬りの動きを鮮明に思いだし、動きを見て、真似をする。



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