救うための実行

「なん……で」


 アイスちゃんは驚いた表情で私の方を見る。首から流れ出す血を見る。そのせいでアイスちゃんの手が止まり、自身の首をほんの僅かに斬っただけで終わった。命に別状はない。

 私はその隙をついて走りだし、拳を握って頬を殴る。私の手は凍り、その異常な冷たさは痛みとして味わうことになる。


「いっっっったああああああ!!!!」


 私は凍った腕をすぐに暖めようとその場でくるまりお腹に当てる。

 アイスちゃんは刀を手から離し、頬を手で押さえる。理解できない状況にここから動かない。


「私は吸血鬼だ!首から血を出すことぐらい造作もない!びっくりしたでしょ!」


 私は笑って見せる!けれど痛みで苦しい表情が隠しきれていない。


「どうして……どうして邪魔をするの!」


 アイスちゃんは悲しく苦しい顔に僅かに怒りが混じって言う。私は笑うのを止める。

 何も言葉が出なかったから、とりあえず行動した。そしたら言いたい言葉がどんどん心のそこからまるで怒りが沸くように出てくる。


「どうだ!痛いでしょう!さっきの蹴りも含めて私は貴方を傷つけた!そして貴方も私を傷つけた!これでおあいこ!ノーカウント!だいだい、何が傷つけたくないだ!貴方が死ねば誰も傷つかないと思った?!」


 私の言い分にアイスちゃんは反論する。


「私が生きていたら、誰かを傷つける!誰かを殺めてしまう!いや、誰がじゃない、大切な人を傷つけてしまう!」

「貴方が死んでも傷つくよ! 貴方を救うって誓った私が傷つく! 村の皆さんが傷つく!この先ずっと暗い顔して、中には何故救えなかったと悔やむ人もいる! 『心』が傷つくんだよ!」


 アイスちゃんはたじろいで困惑してしまう。それでも私は続ける。


「もっというなら既に村の皆さんは『心』が傷ついてる!傷ついてもなお、貴方を見捨てずにいる!自分達だけじゃどうにもならなくて、救ってくれる人を探している! だから私達が来た! 確かに剣を破壊して『死』によって貴方を楽にしようとした。でもそれで傷が癒える筈がない!」


 まだまだ言いたい事が山ほど出てくる。多分私は怒っているんだと思う。


「癒えるには、村の皆さんの心を『救う』には貴方が必要なの!貴方が救われた所を見れば村の皆さんも救われる!皆を救える方法を私は見つけ出したの!村長さんのおかげで!でも貴方を救うには貴方の死ぬ勇気じゃない!生きる意思が必要なの!」


 私は自分の見つけ出した答えを言う。それは、私達二人が救い、アイスちゃんが救い、村人を救う、突拍子もない方法。


「私が貴方の心を救う!オーバーが貴方の体を救う為の剣を持ってくる!貴方はそれを使って人斬りに勝って自身の体を救う! そして、救われた貴方が村の皆さんの心を救う!どう!完璧でしょ!」


 私の完璧な答えにアイスちゃんは感動して言葉もでない。これをわかってくれたアイスちゃんが納得し、立ち向かう勇気が湧く!まさに最善最高の答え!


「何が最善最高の答えだよ。アイスが納得しているようにも見えねえぞ。後どうやって剣を使って人斬りに勝つんだよ。俺も納得できてないぞ」

「オーバー?!随分と早くない?!」

「ああ、途中で効率のよい砕き方を見つけ出してな、おかげで短時間で戻ってこれた。ほら、剣だ」


 オーバーが氷に包まれたアイシクルソードを見せる。光って眩しいが確かに折れている。


「オーバー、それを貸し……私が持ったら凍りそうだからオーバーがアイスちゃんに渡して」

「わかった……えっと、今は正気なのか。自己紹介しとこ、俺はオーバー、あっちがモミジ」


 オーバーはアイスちゃんの前に立って剣を渡す。アイスちゃんは凍らないオーバーを不思議そうに見る。何故か生えている腕を見て驚く。


「俺の体質は自分で言うのも何だが異常だ。これぐらいどおってこともない。それよりもだ。モミジ、この剣をどうするんだ?」


 その剣をどうするか、それが1番突拍子もない方法。多分元村長よりも凄いことを私は言う。


「その刀とアイスちゃんを1つにする」

「……へ?」

「……は?」


 二人が何言ってるんだ?こいつと言いたそうな顔をされる。うん。今考えてみると自分でも何言っているんだろうと思う。でもこれが救う方法だと確信している。信じなきゃ。


「1つになれば魂もただ合わさっているんじゃなく完全に1つになる。そうすればアイスちゃんは剣を、人斬りは刀を魂に持つことになる。剣と刀を持って魂同士が戦って、アイスちゃんが勝てば人斬りは真っ正面から剣技で負けてそのプライドを失い意思が消える。その空っぽの魂を1つにしてヒビの入った魂を埋める。そうすれば剣の暴走も止まり、純粋にアイスちゃんの力だけで氷の魔力を操ることが出来る。洞窟の氷像をあの形にしたままに出来るのならだいぶ魔力コントロールが出来るようになっているはずだから。『暴走』も『乗っ取り』も無くなれば完璧にその力を使いこなせるようになる筈。どう?」


「…………?」

「…………話が長い」


 あれ?伝わらない?村長の話はちゃんと伝わったのに?あ、でも話が長いって言っただけでオーバーはちゃんと理解してくれてるかも。


「オーバーなら納得したよね」


 私は笑顔で言う。


「…………した」

「その間はなに?!」

「あれだろ、アイスが勝てば万々歳だろ。だけどどうやって剣と1つにするんだ?」

「ちゃんと理解してた!……あ」


 確かに、よく考えたらどうやって1つにするんだろ。


「…………元村長見たいに、魔方陣をテキトーに書くとか?」

「よし勘だな。勘なら俺に任せろ。俺の勘は良く当たるぞ」

「じゃあ頼んだ!」


 アイスちゃんは頬を赤らめていた。私の殴ったところが腫れちゃったのかな?と心配したけど左右両方の頬を赤らめていたので違うとわかった。


「アイスちゃん?熱でも出ちゃったの?」

「違う。魔方陣を書くって言ってた。おじいちゃんが魂を合わせる時私の体に魔方陣を為に服を脱がせてた」

「あ」


 そうだった。流石に男の人に女の裸を見せるわけには、でもそれじゃあ書けないし。


「モミジが勘で書けば?」

「無理だよ。そもそもオーバーも勘でかけるの?」

「いける。そうだな、多分剣がさらに折れる」


 するとその数秒後氷の中の剣に一本線のヒビが入る。


「ほ、本当だ。だとしたらオーバーが書くしかないよ。アイスちゃん、運や勘はいいほう?」


 アイスちゃんは首を振る。

 どうしよう、裸を見られるのと命を天秤にかけたらそりゃ命だけど、出来れば見られないようにしたい。


「書くものは……血でいっか。終えれば落とせばいいだけだし。モミジ、アイスについているのってお前の血だろ?取ってくんないと書けないぞ」

「あ、ごめん」


 上手く操作できないけど離すだけならできた……てちがう!いやあってるけど、重要なのはそこじゃない!いや重要だけど!


「どうやってアイスちゃんの裸をオーバーが見ずに書くか!オーバーは反応が薄いけど女の子は男の人に見られるのは凄い恥ずかしいんです!」

「いや知っているけど。裸を見られた女がどれ程怖いか……」


 あのオーバーが震えて怯えている?!と言うかその反応オーバーは見たことが……

 するとアイスちゃんは脱ぎ始めた。


「アイスちゃん?!今脱いだら見られちゃうよ!」


 私は止めようとするも顔を赤らめたアイスちゃんは恥ずかしくも決意したような顔をする。


「モミジがあそこまでしてくれたのに私のワガママで無駄にしたくない」


 それは、アイスちゃんが生きる。生きて立ち向かう決意をしたと言うこと。


「……わかった。でもちょっと待って」


 私は血で鎌倉を作り、周りから見えなくなるようにする。


「オーバー、出来るだけ裸を見ないように配慮して」

「了解。筆とか作れない?」

「一応作れるけど?」

「そうか、直接はダメだろうからあった方が良い」


 そうか、確かに書くには直接触れちゃうのか……胸は恥ずかしい。他の場所もだけど。

 私は血で筆を作るとオーバーに渡す。


「……脱ぎ終わったよ」

「わかった。オーバー!アイスが出てきたらさっと書くのよ!なるべく見ないようにね!特に胸!お尻!ピー!わかった?!」


 念を押しておく。オーバーも男だ。少しでも下心を見せたりいやらしい目で終わった瞬間にぶん殴ってやる!


「わかってるよ。所でピーってなんだ?」

「ピーはピーよ!わかるでしょ!」

「すまない、本当にわからないんだ」


 オーバー?!そこはわかるでしょ!絶対に嘘でしょって、本気でわからない顔をしてる。嘘でしょ?話の流れでもわからないの?

 い、言うしかないの?


「お、オーバー、耳かして」

「?」


 私話オーバーの耳元で小さく言う。とても恥ずかしい。


「ぴ、ピーって言うのは、その、ま、【ピー自主規制】の事」

「………………すまない」

「女の子の口から言わすなんて、オーバー最低」


 うう、恥ずかしい。オーバー勘いいならそこもわかってよ。


「あの、もういい?」

 

 アイスちゃんが言う。


「あ、ごめん!いいよ!オーバー!絶対!絶対に見ないでよ!」

「ああ」


 オーバーは自身の顔に手を当てる。そして一回深呼吸して私が鎌倉に入ってからオーバーが鎌倉に入る。そして結構なスピードで陣を書いていく。


「ん、んん♥️」


 アイスちゃんがちょっと声を出す。どうしよう、見てるこっちも恥ずかしくなってくる。

 オーバーは筆で顔、肩、腕、胸、背中、と上半身に陣を書いていきお尻、ピー、足と下半身にも書いていく。

 一部の所を書くたびにアイスちゃんからちょっと声が出ちゃうけどオーバーはまるで聞こえていないかのように書き、終わった瞬間に飛び出した。そして剣を放り込む。


「ハァ、ハァ、」


 アイスちゃんが頬を赤らめながらちょっと変な息づかいをしている。私もきっと頬を赤らめているとおもう。だって顔が熱いもん。

 て、変なことを考えない!


「あ、アイスちゃん!いくよ!」


 私は血で剣を持つ。血は凍るがなんの問題もない。アイスちゃんが一度深呼吸をして剣を受けとると水色に強く光、眩しくて目が開けられなかった。暫く光が消え、目を開くと剣は無くなっていた。


「アイスちゃん……成功したんだね」

「うん」


 アイスちゃんは頷く。ここからが本番だ。人斬りに勝って、魂を合わせて完全に救う。


「ここからはアイスちゃん次第だよ。私達はただ応援する事しか出来ない。頑張って」


 アイスちゃんは頷く。服を着て深呼吸をする。


「…………!」


 気合いを入れるかのように両拳を握り締める。心の準備ができたみたい。


「オーバー!刀を持ってきて!」


 外にいるオーバーは刀を持ってくる。


「どうやら、準備が出来たみたいだな」


 オーバーはアイスちゃんの目を見る。そして、刀を差し出す。


「アイス、お前が負けてしまえばその時は躊躇なく殺してやる」


 刀を取ろうとしたアイスちゃんは手を止め、一度引っ込めてしまった。


「アイスちゃん」


 そう言われてしまって、決めた心が揺らいだかと思った。けれど違った。アイスちゃんはオーバーの手に自分の手を重ねる


「とても暖かい…………オーバー、私を抱き締めて」

「あ、あ、アイスちゃん?!このタイミングで何を言っているの?!」

 

 だ、抱き締めてって、あったばっかりの男の人に?!


「この暖かいのを感じていたい。お願い」


 オーバーは優しく笑う。


「わかった。もし心が負けそうになったら、呼んでやるよ。お前の名前を。俺も、モミジも」

「ありがとう」


 アイスちゃんは刀を手に取る。そしてオーバーは優しく包み込むように抱き締める。


「……行ってくる」

「ああ」


 アイスちゃんは目を閉じる。


「おっと、」


 力なく倒れそうになったらオーバーはちょっとだけ力をいれて支えながら抱き締める。さっきは少し笑っていたオーバーだけど今は笑みが消えていた


「……モミジ、今俺がここで離れたらどうする?」

「どうするって、さっきあんなこと言ったのに離したら流石に怒るよ?」


 どうしてそんな事を聞くんだろ?


「だよな、離れられないよな。離れたらアイスは温もりを感じられなくなる。けれど、離れなかったらそれはそれでまずいんだよ」

「え?」


 オーバーはこっちの方へ向く。震えている。体が


「体は体質のおかげで凍らない。けれど魂はどうにもならないよな。わかるんだ。心が冷たいって」

「え…………それってつまり」


 オーバーの魂が凍り始めているってこと?

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