最初で最後の短い勇気
「さあこい! 私を斬れるもんなら斬ってみろ!」
私はそう言って大盾を押し飛ばす。アイスちゃんは刀を横に振り真っ二つに斬り私に踏み込んでくる。
よし!大盾のおかげで気づかれてない。多分。このままなるべく距離を取って逃げに徹しよう!
「くっ!」
でもやっぱり早い。距離を取ろうとしても一瞬で詰めてくる。『身甲の赤羽』のおかげでギリギリ避けられるけど、紙一重でかわしてもあえてとギリギリじゃ全く意味が異なる。あえてなら最低限の動きで、ギリギリなら最高の動きだ。どちらが良いか、前者しかない。
「しまった!」
私は氷で足を滑らせ転んでしまう。アイスちゃんはそれを見逃さず私に刀を振り下ろす。
だけど私は斬られない。刀は所詮刀。偽物と本物を見分ける目など持ち合わせている筈がない。
「?!」
斬られたのは血で作った分身。その血は刀と腕に巻き付く。凍ってしまう。私はその隙をついて後ろから肩に蹴りを入れようとする。
しかしアイスちゃんは体を捻りその凍った血が巻き付いた腕ごと振る。だがそれを私は紅の盾で受け止める。
「その氷は貴方の氷じゃない。私の血、私の氷。思い通りに動けないわ」
私は肩を強く蹴る。本気だとおそらくアイスちゃんの骨にヒビが入る。キレイに折る事が出来ればむしろ後々さらに丈夫になってくっつく。けれどこんな戦いでそんな事をしている暇はない。体を痛めて無理矢理体を動かせばオーバーワークになる筈。そうすればいくら人斬りとはいえ休まざるおえなくなる。
「問題はアイスちゃんの体力次第」
私はさらに血をアイスちゃんに巻き付ける。足へと背中へと、五体満足には動けないようにする。
それでもアイスちゃんは無理矢理体を動かして私を斬ろうとする。けれどスピードは遅くなる。今の私でも余裕でかわせる!
「…………くっ!うう!」
アイスちゃんは巻き付いて凍った血を体ごと地面に叩きつけて割ろうとする。しかし、氷は割れない。何故なら不純物が混ざった状態で凍ると割れにくくなるから。とある部族はその性質を利用し、凍る前の湖に丸太を沈め、そこの氷だけ割れにくくし、凍ったときに沢山の人が通れるようにする。血だって不純物だ。
「……アイスちゃんはあまり表情は変わんなかったけど、『人斬り』は随分と表情が豊かだね」
アイスちゃんの表情には焦りがある。オーバーが剣を取りに行くとは言えここから離れた。つまり人斬りとしては『逃げられた』。私には動きを制限され『各下の相手を斬れない』。人斬りに取ってはこれ以上にない屈辱の筈。
「いける。オーバーが戻ってくるまで私でもしのげる……?!」
突如としてアイスちゃんは倒れる。そして少し苦しそうな表情で体を起こそうとする。
「うっ、うう!逃げ……て」
「逃げ?もしかして!アイスちゃん?!」
まさか、斬れなかったことで自信を無くし始めてアイスちゃんの意思の方が強くなった?!
「アイスちゃん!私は貴方を救いに来たの!村の人達に頼まれて!」
「みんなが」
アイスちゃんは顔を上げる。
「そう!今貴方を救うためにオーバーが剣を」
「逃げて」
私の言葉を遮り同じ事を言う。
「お願い、逃げて。私はもう誰も殺したくない、傷つけたくない」
アイスちゃんは怯えているんだ。自分がまた誰かを殺めてしまうことを。だから私はここにいる。助けるために、最初はお金に目が眩んだ話だけど、洞窟にあるアイシクルソードを持ってくれば終わる依頼だけど、そんな事で終わらせたくない!
「なら私は傷つかないように避け続ける!オーバーば剣を持っくる!それまで私は貴方の攻撃をくらわない!」
「お願いだから私を一人にして!」
「?!」
アイスちゃんの顔からから氷の粒が落ちる。よく見ると、それは涙が凍ってできたものだった。
「私のせいで、お母さんが死んで、お父さんも死んで、私に死ぬ勇気が無かったからおじちゃんも死んで、魔導師さんも腕を失って、あの男の人の腕も切ってしまった!もう嫌だ!私は、誰にも会ってはいけないの!」
私は、何も言えなかった。私の思う以上に、アイスちゃんは苦しんでいたから、言葉が見つからない。
集落にいた頃、私は村におもむき傷ついた人達の治療をしていた。皆痛みに苦しんでいた。でも治せば皆笑顔になっていた。でも私は、心の苦しみを知らなかった。だから言葉が見つからない。アイスちゃんを救うには心が必要、アイスちゃんの戦う強い心が。だから、私はここで言葉をかけられなかったら、きっと救えなくなる。だから、何か言葉を……言葉を……
「……………………」
出てこない。どうして、何も出てこないの。私は、人を救う言葉の1つや2つも持っていないの?救うといって、救うモノがないの?
「…………………………」
「このままだと私は、貴方も傷つけてしまう」
アイスちゃんは立ち上がり、刀を自分の首へ当てる
「アイスちゃん?!」
「私は勇気がないから、いつも皆を傷つけて、そうだよ。私がたった一回、ほんの少し勇気があれば、私が誰かを傷つけることも、殺めることも無くなる」
「そんな事をしたらだめ!」
私は血液操作でアイスちゃんに付着している血を動かし止めようとする。
「そんな、凍って上手くできない!」
私は咄嗟に自身から血を出して止めに入ろうとするも触れるだけだ凍ってしまう。
「これなら!」
刀の刃の表面に血を付けて凍り、刃を使い物にならなくした。私はホッとした。けれどそこからさらに鋭い氷が被さり、氷の刃を作り出す
「そん、な」
今すぐ言葉を、何か言わないと、アイスちゃんを救えなくなる。自ら命を絶っちゃう。
「そんなの、ダメ」
アイスちゃんは最期に笑う。
「ありがとう、ここまでしてくれて。でもこれが私の意思なの、私の、最初で最後の短い勇気」
アイスちゃんは刀で自らの首を斬る。その瞬間、首から大量の血が吹き出した。
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