救うための行動

…………これは予想外にも程があるだろ」


 アイスを救うため洞窟へ向かった。そこで俺たちはあるものを目にして驚愕していた。『氷』と言えば対して驚く物でもない。


「なに、これ…………」


 洞窟の入り口、が完全に氷によって塞がれていた。それだけではない。氷は周辺の木々や草を凍らし飲み込んでいく。近づくだけでも凍死してしまうのではないか、そう感じてしまう。

 氷はどんどん広がっていき、逃げてきたのだろう、ホワイトゴブリンが氷付けにされている。


「どうやら完全に刀の魂に飲まれてしまったようだ。洞窟から出てきている」


 広がっていく氷の先陣を斬るように歩く少女が一人、アイスだ。

 彼女は俺たちを見ると腰につがえている刀を鞘から抜く。まだ距離があるからか一気には踏み込んでこないが一歩一歩確実に向かってきている。


「モミジ、どうやって救う。時間は無いぞ。ここで止めなければ村にまで氷が広がる。いや、村だけじゃない。遠くの街も凍らされるだろう」


 幸運な事にここは田舎のため氷が街につくには時間がある。だが不幸にも力を持つ者がこれを知る頃には氷は手がつけられないぐらいに広がっている可能性が高い。

 モミジは冷や汗をかく。文字通り汗が冷えている。いや、氷始めている。


「今はわからない。けど僅かな時間で考える! 元村長さんの発想を私達もすればきっと助ける方法があるはず!」

「そうだな。ここで食い止めて、さっさと方法を見つけ出すぞ!」


 俺とモミジは構える。随分と近づいてきたアイスは姿勢を低くした瞬間、踏み込んで一気にモミジへと距離を詰める。


「モミジ!」


 モミジは反応しきれず首を跳ねられた。と思ったが既に2歩引いて前に血の分身を作っていた。


「流血:身甲の赤羽反動をさらに


 モミジの体に血が主に膝と足先を巻き付く。そして膝と足先の間を筋のように血が着く。

 モミジの走ったりステップを踏んだときのスピードと距離が上がる。

 

「なるほど、サポーターのようなものか」


 足の筋肉を支えるように血を纏うことで足がバネのようになり動きが俊敏になる。


「あぶな?!」


 だがモミジはアイスの振りを全て紙一重でかわしている。おそらく考えている暇が無い。集中力を切らしてしまえば斬られてしまうからだ。


「えい!」


 モミジは血を撒き散らし目隠しに使う。が、アイスはそれをものともせず斬りかかる。

 そこに俺はアイスに蹴りを入れる。殺さないように威力を相当抑えているため当然スピードも遅くなる。それも俺は純粋に力がありずきるために相当手加減しないといけない。そのため刀に魂を乗っ取られて迷いのない人斬りとなったアイスには紙一重だが避けられてしまう。


「オーバー!」

「うお?!と、これは、刀?」


 モミジが血の刀を俺に投げる。よくみたら刃がない。それを受け取るとその隙を付いたアイスの一振りを滑らすように受け流す。


「刀なんて扱えないぞ!」


 だけどこれなら受け流す事に専念できる。足止めならこれ以上にないものだ。


「避けるなよ!」


 俺は刀で受け止めるとそこに蹴りを入れる。アイスは深く踏み込んだ為に後退しようとするも伸びきった俺の足に当たる。


「くっ!」


 俺の足に当たったアイスは腹を押さえる。そこに俺は手持ちに刀を振り当て落とそうとするも刃に滑らせ受け流される。そのまま俺の肩を切り落とそうとする。


「避けて!」


 モミジは叫ぶように言う。避けようと思えば避けられる。だがそれでは足止めは出来てもゆっくりと考える時間が得られない。その為あえて斬られることにする。


「そんな……」


 俺の腕が切り落とされてモミジは悲痛の表情をする。だが悲しむ必要がないことが直ぐにわかった。

 チャンスが来た。


「なっ?!」



 俺の肩を斬り腕が重力の力に従い地面に落ちる。アイス笑う。だが一瞬しか笑えなかった。何故なら右腕を切り落とした相手が右手で腕を掴んできたからだ。


「気絶してもらう!」


 俺は左手で胸ぐらを掴み振り向き様に右足でアイスの左足を引っ掻ける。そのまま俺は体を捻り投げる。アイスの体は4分の3回転し、背中から思いっきり氷に叩きつけられる。


「暫くは起きないでくれよ」


 アイスから手を離しモミジの所へと歩く。


「モミジ、アイスが寝ている間に考えるぞ」


 俺が近づいたとき、モミジは一歩後ろへ下がる。恐怖を感じている顔をしていた。震えている。


「どうした?」

「う、腕が」


 腕?俺は自身の腕を見てみるも体質のおかげで何ともない筈だ。おかしなところのない正常な腕だ…………おかしな所がないところがおかしいのか。

 俺はやってしまったと思った。そうだ。人間が何もなしに腕が生える筈がないんだ。いくら体質があるとはいえ本人はともかく他人から見れば異常極まりない。

 

「体質だ。なんの問題もない」


『体質』だけで納得できる程再生と言うものは簡単には出来ない。腕が潰された時とは違い、『治りが凄く早い』じゃ説明がつかない。


「オーバーって本当に人間なの?」


 モミジは怯えながら言う。だが今怯えられてしまったらアイスを救う方法を考える人が俺だけになる。少なくとも、今は納得してくれるような事を言わないといけない!


「人間だ。この一帯の氷を見ろ。アイスの魔力があまりに強力過ぎるからここまでやったんだ。俺のこの再生も、『治る』力が強力過ぎるからこんな芸当が出来る。もっとも、『体質』の問題もあるからか他人には出来ないがな」


 たのむ、納得してくれ。じゃなきゃ俺も気にして考えに集中できなくなる!


「それに、いくら傷ついても大丈夫な奴が味方にいれば頼もしいだろ。今アイスを救うには俺の足止めとモミジの発想が必要なんだ。他の事を気にしてたらアイスは救えなくなる」


「……そうだね。今はアイスちゃんを救うことを考えなくちゃ!」


 モミジから恐怖と怯えが消える。何とか納得してもらえて良かっ………


「嘘だろおい」


 俺は咄嗟に横に跳ぶ。だが間に合わず俺の腕はアイスに斬られてしまう。


「オーバー?!」

「あれで気絶しないとか相当に打たれ強くないと無理だぞ。村長の話にはそんなのは一言もなかった筈だ」


 おれは相当強い衝撃で背中を地面に叩きつけた筈だ。それなのに気絶せずに立っていやがる。まるで痛みが無いようにいたがりもしていないようだ。


「さっきは腹を抑えていた」


 ならいたがっていない。いや痩せ我慢か?いや違う。刀に魂を乗っ取られているのなら本体は刀自身だ。痛みを感じなくて当然か、腹を抑えたのは条件反射といったところだろうな。


「モミジ!俺の事は良い!早く何か思い付け!」

「お、思い付けと言われても」

「足止めしても氷の進行が遅くなるだけだ!時間稼ぎにはなっても村までたどり着くにはそう長くはないぞ!」

「……わかった!」


 モミジはその場から離れ血で鎌倉を作り引きこもる。俺とアイスが戦っている所を見ると集中が出来ない。良い判断だ。


「さて、気絶してくれないなら、痙攣させるか、どうするか」


 少なくともアイスの体が出来る以上の事は絶対に出来ない。ならオーバーワークを起こすのも手だ。だか俺が逃げに徹しても気づかれれば体力を温存する動きにするはずだ。かといって攻撃しても既に急所を外した手加減の攻撃だとバレていると思った方がいい。


「なら、派手に切ってもらおう」


 俺は地面を殴り氷を割る。氷によって固まった地面はヒビが入り大きな塊を取り出してアイスに投げつける。でかいものは避けられないし派手に動いて斬るしかない。数を投げれば体に相当な負荷がかかる筈だ。投擲物はいくらでもある。


「はあっ!」


 体の4、5倍の大きさの塊を投げつける。アイスは話を聞く限り体を鍛えてはいない。人斬りはどんな時代も戦いなれて素早い人物だ。そう遅くないうちに体が追い付かなくなる。

 だがアイスは刀ではなく手を軽く振り払うと氷が地面の塊を貫き凍らし破壊する。アイス自身は全く動いていない。


「……まずいな」


 物を氷で対処したと言うことはあくまでも『人』斬りなんだな。ただ斬りたい物を斬る。邪魔なものはどんなてでも退場させる。だがもしオーバーワークを起こして斬れなくなったら腹いせに氷の力を暴走させるかもしれない。氷が広がっているのはあくまでもアイスの意思じゃない。だが自ら氷の力を振るうとなれば止める手段は『殺す』しかなくなる。そうなったらおそらく刀を叩き落とせなくなる


「早くしろモミジ、俺は考えることが苦手なんだよ」




  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



 私は必死に頭を回す。

 早くアイスちゃんを救う方法を考えないと!今オーバーが足止めしてくれているから!私が思い付かないと!


『自身の魔力で魂が凍る』


『剣に打ち込まれた魂と合わせ凍らなくなるようにする』

 

『力が強すぎて剣が折れて魂にヒビが入る』


『魂にヒビが入って長くは生きられないから刀を手に取った』


『刀に打ち込まれた魂で人斬りになってしまう』


 この情報から考えるんだ!


『刀の魂と合わせる』


 ダメだ!今現状と変わらない!むしろ悪化するかも知れない。刀の魂で人斬りになるのなその刀に意思があると考えて良い。その意思がある限り刀と魂を合わせるのはダメだ!


『刀の意思を消す方法』


 もし刀の意思を消すことが出来ればさっきの事が出来る。魂を消すことは許されない。もし魂も消えてしまえばアイスちゃんのヒビの入った魂を埋めるモノが無くなる。『人斬り』の意思。『人斬り』は剣士として、侍として相当の腕前でないとやってはいけない。だけどそこまで行くには並の精神ではいけない。もし正気ならプライドがあるはず。


『人斬りが人を斬れなくてしかも負けたら』


『快楽』の為に人を斬っている訳じゃない。刀を打っている人が殺人の快楽の為に作っている訳がない。なら刀にあるのは『刀として人を斬る』プライドだ。もし剣技で勝てることが出来れば……て、私もオーバーも剣技で勝てる筈がない!


「……は?!」


 いや、一人いる。けれどどうやって戦うかだ。どうすれば。


『魂を合わせる』

『魂を乗っ取る』

『魂にヒビが入る』

 

「………………あった。あった!この方法なら行けるかもしれない!……て、ダメだ!肝心の剣がない!アイスちゃんの魂と合わせたアイシクルソードがどこにあるかわからない!」


 私は頭を抱える。せっかく救う方法を見いだしたのに必要なモノがどこにあるかがわからない。


「そ、そうだ!」


 アイシクルソードはきっとアイスちゃんの近くにある筈。今は持っていないから洞窟の中だ。でも洞窟で見かけた記憶がない。一番怪しいのはアイスちゃんのいた広い空洞。


『沢山の氷像』


『光る氷の柱』


『アイスちゃんのいた場所』


 ………………全く思い付かない。氷像はアイスちゃんが自分で彫っていただけだし光る柱はあれはおそらくあそこにあった魔鉱石がアイスちゃんの魔力の影響で氷属性になって濃度が高くなり光出しただけに過ぎない……ん?


「アイスちゃんの魔力?」


 アイスちゃんはアイシクルソードと魂が合わさった。アイシクルソードは強力すぎる魔力に耐えきれず折れた。だとしたら器が壊れて力が溢れ出す。氷。


「あの光る柱だ!あそこの中心に剣があるんだ!あれを持ってくれば!」


 見つけ出した答えを直ぐに実行しようと鎌倉を出る。すると結構離れていた筈なのに氷が結構近くまで迫っていた。


「もうここまで、いそがなく………」


 あれ?アイシクルソードは洞窟の中。そこから中心に氷は広がりつつある。つまり取るにはこの氷を砕きながら行くしかない


「…………どうやるの?」


 私は絶望を感じかけた。50メートルとか100メートルとかそんなレベルじゃない。一キロ以上も離れている。つまりその分の氷を砕かなくてはいけない。しかも中心に近づくほど魔力の濃度は高まりさらに冷たく、頑丈になる筈。


「…………私じゃ無理だけど、オーバーならいける」


 オーバーなら氷を砕いて取ってきてくれる。だから直ぐに伝えなきゃ!

 私は走り、戦っているオーバーのいるところへ向かった。そこではオーバーは殺さない。アイスちゃんは殺せない平行線の戦いが繰り広げられていた

 私は大声でオーバーに言う。


「オーバー!救う方法がわかった!でもアイシクルソードが必要なの!場所は洞窟にあった光る柱!お願い!私じゃそこまで氷を砕けない!だからオーバーが行ってきて!」


 オーバーはそれを聞くと攻撃を避けながら険しい顔をする。


「救う方法を見つけてくれたのは嬉しいが、必要なアイシクルソードが洞窟の中だとすると直ぐには取ってこれない。7分……いや5分はかかる。その間アイスを誰が足止めするんだ?」

「私が……!」


 私が足止め出来るほどの強さじゃない。むしろ一撃でもくらったら死ぬ…………

 足がすくんだ。ヴァンパイアロードの時もそうだ。私は怖かった。『死』の恐怖。


「モミジは氷を砕けないのか?」


 オーバーがそう聞くも私は首を振るしかない。足止めも出来ない。どうしよう、どうしよう。


「ならモミジ!お前が戦え!」

「で、でも私じゃ」

「お前がやらなきゃどうする!アイスを救うんだろ!そう言ったのはお前自身だ!」

 

 そうだ、私がアイスちゃんを救うって、でも体が震えて、怖くて……


「流血:アイスピック痛みを感じるために


 私は血でアイスピックを作り、自分の腕に思いっきり刺す。オーバーは少し驚いた顔をするが何も言わなかった。

 とても痛い。刺した部分がとても熱く感じる。私の意思に反して血が体から出ていくのがわかる。だけど、これで恐怖が薄れた!


「わかった……私がアイスちゃんを止める。だからオーバー、出来るだけ早くお願い!」


 オーバーはそれを聞くと手を合わせて前に衝撃波を起こしアイスちゃんとの距離を広げる。


「モミジ、命かけて100%勝つぞ」


 そう言ってオーバーは握りしめた拳で氷を砕き始めた。物凄いスピードで進んでいく。


「わかってる!」


 私は血で大盾を作り、構える。

 アイスちゃんは今が境目なんだ。もしここで私がやられたら、おそらくもう二度とアイスちゃんを救えなくなる。救えないまま『殺す』しか無くなる。


「命かける……か」


 私は笑って見せる。痩せ我慢?空元気?わからない。恐怖は和らいでいるけど無くなってはない。だから、笑う。


「さあこい! 私を斬れるもんなら斬ってみろ!」

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