氷となった少女

「ん、んん〜?ここは……いっ!」


 モミジは目を覚ます。腹部に痛むが走り抑える。


「モミジ、起きたか」


 俺の声に反応してモミジはこっちを向く。

 そこに俺と村長がいる。村長は正座をして俺はあぐらをかいて座っている。

 村長はモミジの目が覚めるのを見ると頭を下げる。


「すまない。ワシは君達を危険にさらした」

「え?!どういうこと?!」


 依頼主からのいきなりの謝罪にモミジは困惑する。


「危険に晒されるのはかまわない。冒険者はそういう職業と聞いたからな。だが納得できない。Sランクと戦っているからわかるが、洞窟にいた少女は明らかにそう言うレベルだ。偶然そこにいたならともかく、明らかに居座っている。なのに依頼の詳細にはかかれていない。」

「え?!」


 モミジは村長の顔を見ると目をそらす。


「村長さん、どういうことですか?」

「すまない」


 モミジがそうきいても謝罪の一言だけだった。だがそれだけで俺がそうですかわかりました何て言えない。


「謝らなくて良い。だが全部話せ。じゃなきゃ納得ができない。少女が居座っている洞窟に剣を落としてしまいましたが少女の事は知りません。なんて事はないだろ」


 俺の言葉に村長は1度深呼吸をする。そして頭を上げる。複雑だがすこし悲しい表情をしていた。


「話します。ワシ達が何故この依頼を情報不足で出したか。カミル、お茶を用意しておくれ」

「は、はい?!」


 村長の近くにいた男は部屋を出ていった。そして、村長は話す。



  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



「洞窟にいる少女は、今は亡き前の村長の孫じゃった。名前はアイス・スノーランド。珍しい氷の魔力を持って生まれてきた。じゃがその魔力はとても強力で母親を蝕み、生んだと同時に亡くなった。父親は妻を奪ったと怒り狂い、自らの赤ちゃんを殺そうとした。当時の村長は咄嗟に守り、父親は錯乱し、自殺した。それからは村長は我が子のように育てた」


 親を死へ追いやった子供を、村の皆は悪魔の子だ呪いの子だと疎み、殺そうとした。ワシもそうだった。だが村長はその子を守り続け、村長ごと殺そうと言う話にまでなったとき、村長はこういった。


「魔力を持って生まれた子が悪魔や呪いの子だとしたら!我々はみなそうだ!子が母親を死に追いやった?そうだ!だがそれは生む母親が1番わかっていた筈だ!お腹の中から自分の体が蝕まれていく感覚が、赤ちゃんがお腹の中で動く度に感じていた!だがそれでも生んだんだ!自分が苦しんででも大切な子を生みたかったんだ!その子を虐げて何になる!その子の母は笑うか?!」


 ワシ達は黙る他なかった。


「父親だってそうだ!悲しみで我が子を殺そうとした。だがその過ちに気付き、狂った自分が大切な我が子を殺す前に自ら命を絶った! 決して良いとは言えない!だが!この子の親は自分の命と子供の命を天秤にかけ、子供の命を選んだ! それなのに、その子供が死んだらその親はどうなる!何のために死んだんだ!」


 上げた拳を下ろした。村の皆は自分達の過ちに気づいた。ワシ達は村長に頭を下げた。村長は笑顔で許してくれた。


 アイスは村長が育てた。すくすくと良い子に育っていった。その強力な氷の魔力は特殊で、『魔力の氷』ではなく『純粋な氷』を作り出すことができた。アイスはその氷で彫刻をするのが好きじゃった。作っては皆を喜ばせ、ジュースがあれば氷を入れて冷たくして皆で飲んだ。とても良い日々じゃった。


「もしワシ達はあのまま村長とアイスを殺したらどうなっていたのだろう」


 少なくとも、こんなにも良い日々はおくれなかった。その度にワシは罪悪感を感じた。だから何か償いをしたい。そう考えた。

 だが現実は非常だった。


 アイスは15歳になったとき、髪が水色になっていた。最所は皆驚いた。本人も驚いていて、だけど何も起きなくて深く考えずにいた。そしていつも通り氷の彫刻を作ろうとしたとき、大きめの氷を作り出そうとした。


「なに……これ」


 一瞬にして、自らの家を凍らせてしまった。幸いにも村長は出掛けていて何事もなく済んだが、髪が水色になったと同時に魔力がより強力なモノになっていたのじゃ。

 だが暫く経てばその魔力もコントロール出来るようになり、とても大きな氷を作り出しては氷像を彫るようになっていた。溶けたり割れたりして形が崩れてしまえばまた新しいのを彫っていた。誰も魔力が強力になったことを気にしなくなっていた。


 だがそれは間違いだった。強力になった魔力は今度はアイスを蝕み始めた。16歳の誕生日だった。村長は出張で帰れないと嘘をついて一人で家にいるアイスをケーキを持って驚かせようとして家に勢い良く上がったときじゃった。

 倒れているアイスを見てケーキを落とし、踏みつけた事にも気づかずにアイスへと駆け寄った。体が異常に冷たかった。そこでわかった。母親を苦しめた魔力が今度はアイスを苦しめているんだと。


 急いで利き腕の医者と氷の魔導師を連れてきた。アイスを見てもらってどうすれば良いか聞いたら、答えは絶望なモノだった。


「どうしようもない。魔力が自身の魂そのものを凍らせている。まだ全ては凍ってはいないがもう長くはない。持って後3ヶ月って所だろう」


 医者は体を暖めれば凍るスピードは遅くなるとは言っていた。だがそれはただの延命で、何の解決にもなっていなかった。1度殺そうとしてしまった罪悪感。ワシは救おうと決意した。

 だが、簡単には行かない。それどころか助けるの「た」すら見つからなかった。


「何故だ!何故見つからない! このままだとアイスは死んでしまう!」


 ワシは何でも良い、藁にもすがる気持ちで村を出た。少しでも助けられるものがないか。寝る間も惜しんで探した。そこでワシは2つの刃を見つけたのだ。


『アイシクルソード』


『氷冬雪刀』


 2つとも歴史に名を刻むほどのモノだ。それを見つけたとき私は考えた。


「この氷の力を持つ強力な武器だったら、アイスの魔力を吸収してくれるかもしれない」


 そんな事が出来るのか出来ないのか、考える前に私は村へ戻った。そして、それを村長に伝えた。定期的に来てくれていた氷の魔導師にもそれを伝えると


「……可能性はある。だがそれは妖刀だったらの話だ。これは名刀、名剣。魂が込められ打たれたこれらはむしろ共鳴し、さらに力を強くする。むしろ余命を短くするだけだ」

「そんな!」


 後1ヶ月もないと言うのに……だけど無駄じゃなかった。妖刀だったら、


「妖刀だったら、助けられるんですよね!」

「可能性は非常に低い」

「え?」


 可能性はある。そう言われた妖刀に希望を見出だしたその直後に、絶望を見せられた。


「確かに妖刀は力を奪う。だがそれは魔力だけじゃない。命だってすいとる。それに耐えきる事が出来れば妖刀はそれまでにない強力な武器となるが耐えきれなかったら命を落とすことだってある。ただでさえ魂が凍って弱っている彼女が耐えきれる筈がない」


 言葉を失った。アイスを救うことは出来ない。その絶望は体を支配してその場で膝をつかせる。どうしようもなかった。立てなかった。だから魔導師にしがみつこうとした。希望を何か持っていないか、自分で救うことなんてほっぽりだして、すがった。


「頼む!何かないのですか!何でも良いんです!なにか!アイスを助ける方法を!」

「……」


 氷の魔導師は目を反らした。それが答えだった。


「私は最初にどうしようもないと言った。剣や刀に力を吸収してもらう話だって、聞くまで思い付きもしなかった。聞いてそこから可能性を考えただけだ。すまない、何も思い付かない。知り合いの魔導師にも相談したが、そもそも魂が凍ることじたい事例がなく、力になれない」


 視界が真っ暗になった気がした。どこも力が入らなかった。希望なんてどこにもなかった。ワシの行動はただイタズラに終わり、無駄に希望を持たせようとしていただけだった。





 ただ一人、希望を見つけるまでは


「魔導師さん、名刀や名剣には魂が打ち込まれているんですよね」


 村長は魔導師にそう聞く。


「あ、ああ。とは言っても比喩表現だ。本当に魂が打ち込まれている筈がない」

「なら何故その刀には力がある?!かの伝説の剣なエクスカリバーは正しき勇敢な者にしか力を引き出せないと言う。何故『正しき勇敢』だとわかる?どこで判断している!それはエクスカリバーに魂が打ち込まれているからだ!」


 村長は希望の答えを見つけ出した。


「決して比喩表現何かじゃない! この名刀名剣にも魂が打ち込まれている!なら!アイスの魂と名剣の魂を1つにする事が出来れば、『氷』と言う概念を力として使えるアイシクルソードにある魂と合わせれば!『氷と言う概念を得た魂』になればアイスの魂は凍ることをしなくなる!助かる可能性がある筈だ!」


 それはあまりにも突拍子もないことで、滅茶苦茶で、理に叶っているような叶っていないようなモノで、とても大きな光に見えた。


「…………!」


 誰もが言葉を発することが出来なかった。驚きを隠せなかった。村長は昔から周りと考えが違っていたが、その考えをいつも全員に納得させていた。だからこそ、今回も納得してしまった。


「と言うことは、アイスは」

「ああ!お前のおかげだ!このアイシクルソードを持ってきてくれたから救えることができる!そうと決まれば直ぐに準備だ!」


 村長は広い部屋に行き魔方陣を書く。そこにアイスを寝かせ、服を脱がせて同じく魔方陣を書く。


「どの魔方陣を書けば良いのかわかるのか?!」


 魔導師が驚いていると


「わからない、誰も知らないだろう。だから知らない魔方陣を書いた。て、おい!年頃の女の子が裸何だ!部屋から出ていけ!」


 ワシと魔導師も含め、全員部屋から追い出されてしまった。


「全く、何て強引な人なんだ」

「そうやっていつも何とかしてきたんだ。今回も信じよう」


 魔導師は困惑している。わかりもしない魔方陣を書いて、成功するかもわからないのに村の皆は村長を信じている。だが魔導師も口出しすることは出来なかった。何もわからないのは同じだったから。だからこそ、自分よりも発想力があった村長を信じるだけだった。


 そして、魂を合わせてることに成功し、アイスは救われた。皆で喜んだ。村長は歳なのに力を使ったせいでギックリ腰で寝込んだけどもう大丈夫だ!皆でどんちゃん騒ぎ。お祭り騒ぎで祝った。

 ワシが名剣を持ってきて、魔導師さんがそれには魂が打ち込まれていることを教えてくれて、村長のもの凄い発想で救った。これで1度殺そうとした。罪滅ぼしになったのかな。そう思った。





 けれど、アイスはいなくなった。宴で寝て、次に起きた時には既にこの村を出ていっていた。





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