美しき氷

「どこみても氷、氷、氷だらけだね」

「ここまでくると何者かが意図的にこの洞窟を氷にしているんだろう」


 俺とモミジは1面氷に覆われてる洞窟を歩く。どの氷も透明で純度の高い証拠だ。恐らくは口にしても問題は無いだろう。みる限り生き物もいない。


「体感で-何度ぐらいだ?明らかに自然現象じゃない。仮に氷の魔法を使う奴がいたとしたら相当な力の持ち主だ」

「だとしたらその氷使いが剣を持っていっちゃったのかな?さっきの場所には無かったし。村の人たちはとても大事な物って言っていたので特別な何かがあるかも」


 互いに考えた事を言い合う。暫く歩くと洞窟は別れていた。この状況だ。モミジを1人にするのは危険だから二人で同じ道を通ることにした。

 モミジは手から血を垂らして行く。


「何をしているんだ?」

「道に迷わないようにしているの。血は赤色だし目立つから」

「モミジは血が武器何だからいざと言うとき少なかったら大変だぞ?俺がやるよ」


 そう言って俺は手首を少し切って血を垂らす。モミジは慌てて俺の手首を掴む


「ダメだよ!いくら傷が治る体質でも血が少なくなったら貧血で倒れちゃうよ!」


 血がでないように強く握る。再生する感覚は血を作り出す事も出来る。なので問題は無いのでその事を伝える


「…………」


 モミジは複雑な顔をする。心配と納得が行かない顔と納得するしかない顔。そう読み取れる。


「痛くないの?」

「痛いさ、でも平気だ」


 痛み何て俺の中では日常だった。今さらそれで怯える事も怖がる事もない。むしろ敏感になるから反応速度が上がる。


「ヴァンパイアロードの時も腕を潰されたのに平気だったよね、オーバーって前はどんな生活をしていたの?」


 その質問に、真実を答える事は出来ない。偽りならいくらでも答えられる。けれど嘘をつくのはあまり好きじゃないので大雑把に言うことにした。


「まあ、割りとやんちゃしてた」


 そのレベルは通り越してたが嘘ではない。


「やんちゃって、あれ?喧嘩三昧?」

「まあ毎日殴ってはいたな。ボコボコにされたこともあったし」

「いわゆる不良」

「そうかもな…………行き止まりか」


 過去は知られたくないのでわからないように答えるが流石にグイグイ来られると困る。丁度行き止まりだったのでそれを理由に話の流れを切った。

 引き返す。別の穴を通ろうとした。


「……なあ、この穴だけ異様に温度が低いぞ。ただでさえ-10°はいっているのに」

「寒!」


 複数ある穴の中では1つだけ異常に寒かった。下手したら-20°は行っているんじゃないか?

 吸血鬼はまだ活動できる気温だが流石に寒いようだ。震えている。血を纏って少しでも暖かくなろうとしている。それでもまだ寒く、震えている。俺は松明をモミジに差し出す。


「これで少しは暖かくなるだろ」

「それじゃあオーバーが凍えちゃうよ」


 モミジは受け取りを拒否するも俺は無理矢理持たせる。モミジは俺に返そうとするもそれを拒否する。


「俺の体質はほとんどの環境に適応出来る。絶対零度ならともかくそこまで低くなるとこは無いだろう」

「……何かオーバーには心配する必要がない気がする」

「大正解。俺に心配は無用だよ」


 ここまでくると呆れたようで素直に松明を自分が暖まるように持つ。


「……明かりが見えてきたぞ」


 松明しか光源がない洞窟をずっと歩き続けて僅かな別の光が見える。そして、そこに近づく度に気温がどんどん下がっていくのがわかる。

 だいたい近づいた所で光がある場所は空洞だ。少なくともここよりは広い。


「モミジ、大丈夫か?」

「だだだ、大丈夫」

「いや明らかに大丈夫じゃなかった」


 もの凄い震えている。松明じゃあ火が小さすぎる。だが燃やすものがない。


「…………仕方ない、モミジ」


 俺はモミジと腕を組む。


「ふぇ?!い、いきなり?!なんで?!」


 いきなりの事でモミジは俺から離れようとするが俺は離れないように力を入れる。だが直ぐにこの低すぎる環境で俺の体が火照っているように暖かいのに気づく


「暖かいだろ」


 俺がそう言うとモミジは頬を赤らめて松明を俺に渡し両腕で俺の右腕にしがみつく。


「暖かい。とても」


 胸が当たってる。柔らかい。

 俺とモミジは光源まで歩く。そこはやはり空洞だった。光源の招待はど真ん中にある光る柱だった。だが俺達は柱を見ていなかった。


「…………すげぇ」

「綺麗」


 俺達の目を引いたのは、とても大きな女神の氷像だった。混じりけのない純粋な氷が足の先から長い髪の毛の先まで細かく彫られている。空洞のど真ん中にある柱がその氷像照らし輝かせている。その美しき顔に目にも光があるように見え、今にも動き出しそうな気がする。

 周りを見てみると、女神の氷像だけじゃない。冠を被っている、どこかの国の王の氷像。剣を掲げ、マントを靡かせている勇者の氷像。羽を広げ、手を伸ばす妖精の氷像。どれも美しく目を引いた。

 彫刻に関しては何も知らない素人だが、それでもその腕は達人レベルと言う事がわかる。俺達は暫く数々の氷像を見る。依頼なんて忘れてしまうぐらいに。


「いったい誰が彫ったんだろう」

「わからない。けれどこれを彫るには1つでも長い時間が必要だ。この環境かでも耐えられる程の奴じゃないと。少なくとも人間じゃないな」

「オーバーのような体質の人なら」

「それはない」


 いや、確かに俺と同じ体質なら出来るが、『そんなやつ』がこんなところに長い間引きこもって氷像なんて彫り続けられるのだろうか。


「……何か音がしない?何かを削っているような」

「確かに聞こえるな。他の氷像を掘っているのかも知れない」

「どんな人なんだろう」


 モミジはテンションが上がっている。俺も会ってみたい。こんなにも美しい氷像を彫れる者を。

 空洞の奥に行くと音の正体にたどり着いた。そこにいたのは、少女だった。人間だった。大きな氷を前にして刀で彫っている。

 とても美しかった。長い水色の髪は氷を表しているかのようでそのか弱そうな腕で振っている刀は同じく水色の波紋を持っており、斬ったものを凍らせてしまいそうな感じがする。その動きは無駄が無く、まるで美しく舞っているようだった。氷はみるみる形を変え、暫くして祈りを捧げる少女の氷像が出来上がった。


「…………」


 ずっと動いていたのに息1つ乱さず、刀を鞘に納める。俺達は見とれていて氷像が完成しても少しの間声をかけることすら忘れていた。

 少女が振り替える。僅かだが驚いた表情をする。


「凄い凄い!そんなにも早く氷像が出来るなんて私凄い感動しちゃった!!……寒!」


 モミジはあまりの感動で拍手をする。が、俺から離れた事で寒くなって直ぐに俺の腕に抱きつく。

 少女は僅かだが困惑した表情をする。そして俺達に発した言葉は


「出てって」

「え?」

「お願い。今すぐ私の前から消えて」


 少女は後ずさりをする。僅かだが怯えていた。体が震えている。だが殺気を感じる。


「わかった。すまないな、邪魔をして。いくぞモミジ」

「オーバー?」


 俺は半場無理矢理な形で急いで空洞を出ようとする。


「わっ?!」


 だが無理矢理だった為かモミジが転んでしまいう。俺に抱きついていたせいか咄嗟に離して受け身を取ろうとするも間に合わず顔面を氷像にぶつける。氷像の足にヒビが入る。


「……はっ?!」


 モミジは自分がとんでもないことをしでかしてしまったと思い、深く頭を下げて少女に謝る。


「ご、ごめんなさい!」

「それはどうでもいいから早く出てって」


 予想外の返答で俺とモミジは早く出ていけば良かったのに理由を聞いてしまった。


「どうでもいいって、これを貴方が自分で彫った氷像何でしょ?」

「早く出てっ……て」


 殺意が膨らんだ?!


「…………」


 少女はその場で倒れた。


「大丈夫?!」

「危ない!」


 モミジは咄嗟に俺から駆けつけようとした瞬間、俺はモミジを来た穴に殴り飛ばす。その瞬間、少女は起き上がりながら抜刀する。咄嗟に左腕をつき出すがその左腕を刀は貫く。


「?!」


 ほんの僅かの時間で俺の左腕が凍る。そのままの勢いで体全体が凍り始める。


「くっ!」


 右腕で左腕を砕く。刀から離れた為に体全体は凍らなかったが直ぐに少女は俺次の一振りで俺の胴体を斬ろうとする。退いてかわすも一本踏み込んで距離を詰める。


「躊躇無くくるか!」


 俺は一気に退いて踏み込んでも届かない所まで下がる。


「…………」


 少女は表情を一切変えず地面を斬り込む。その切れ込みは俺の所まで来るとそこから鋭い氷が突き出る。横に飛んでかわすも次の切れ込みをしていたので地面を殴り一帯の氷を割る。


「そっちから攻撃してきたんだ。氷像を破壊しても文句言うなよ」

「…………」


 何故だ、怯えていた。俺達に出ていくように指示した。最所は殺気が小さかった。だが、どんどん膨れ上がって倒れた時には殺意しか感じなかった。僅かに変わっていた表情も今は変わらなくなっている。まるで心が無いみたいだ。そしてこの寒さの原因は少女だ。光っている柱かと思ったが少女に近づいた時の方が寒かった。


「暫く眠っててもらう!」


 少女は早いがそれを上回るスピードで動き、少女の腹を殴る。その瞬間、手は凍る。


「?!」


 殴った衝撃で割れてしまった。これでは気絶させるだけの威力は出ない。凍る暇すら与えないスピードで殴れば行けるかもしれないが、そうしたらこの少女は恐らく死ぬ。


「ならこうすればいい」


 少女は俺を斬ろうとする。それをすれすれでかわし刀を横から蹴り落とす。

 刀は勢い良く壁に突き刺さる。すると少女はまた倒れ、すぐに起き上がった。怯えている。殺気が完全に消えていた。少女は慌てた様子で辺りを見渡す。刀を見つけるとすぐにとりに言った。


「悪いが取らせることはできない」


 俺は少女の前に立ち塞がる。少女は僅かだが困惑した表情で俺をみる。


「お願い。退いて。退いて直ぐに出てって」

「……」

「お願い。私が刀をとる前に出てって」


 刀をとる前に……納得した。恐らくだがこの刀は妖刀だ。彼女を乗っ取っているんだ。だがどうして彼女は刀を取ろうとするんだ。


「お願い、それが無いと死んじゃう」

「?!」


 死ぬ?!妖刀を使って死ぬ事は珍しくない。だが手放して死ぬのは聞いたことがない。いったいどういうことなんだ。一方道の洞窟。壁を壊した先にあったこの洞窟。妖刀……『落とした剣を取ってきてほしい』と言う依頼…………1度村まで戻る必要がありそうだ。


「わかった。だがその前に2つ聞きたいことがある。お前は長い間この洞窟にいるんだな」


 少女は頷く


「なら、剣は落ちていなかったか」


 少女は首を振る。確信を得た。


「わかった。直ぐに出ていくよ」


 俺はその場を走り去った。途中でモミジが気絶しているのを見つけて腕に抱えて出口に向かって走る。幸い血のお陰で迷わずに戻れた。


「これは……」


 崩れて氷の洞窟に繋がった場所を見ると氷は一本道の洞窟にまで広がっていた。出口までには広がってはいなかったが、俺は急いで村まで戻った。


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