とても寒い洞窟

「剣のある洞窟か。見たところ変わったところは無さそうだが、中は違うかもしれない。気を付けろよ」

「わかってる!吸血鬼の本業は夜なんだから、暗い洞窟は大歓迎だよ!」


 随分と張り切っている。初めての仕事でとても高い報酬、嬉しいんだろうな。

 モミジが洞窟を覗くがゴブリンらしき者は見えない。が、ある事に気づく


「オーバー、洞窟のなかとても寒いよ」

「洞窟は常にほぼ一定の温度なんだ。今は暑い時期だから寒くても仕方ないさ」

「いや、そうじゃなくてまるで『空気が氷みたいに』寒いの」


 氷みたいに?俺も洞窟に近づくと確かに寒かった。恐らく氷が作れる程にだ。中に冷たい湧き水が流れていたとしてもここまで寒くはならない。本来なら随分と奥に行かないと感じられないほどの寒さだ。


「入り口でこの寒さなら奥はもっと寒いだろうな。モミジ、1度村に戻って防寒着を貸してもらうか?」

「この寒さなら大丈夫。人間の血は-18°で凍るけど吸血鬼は-50°でも凍らないから。むしろオーバーの方が心配だよ」

「俺なら平気だ。体質的に何の問題もない」

「寒さも平気なの?!」


 モミジはそれを聞いて驚く。俺の体質なら多分溶岩でも泳げると思う。着水ならぬ着岩?

 俺とモミジは洞窟に入る。俺は松明に火をつける。瞳孔を開けば見えるが奥ではそうもいかないので早めにつけることしにた。寒すぎると火がつかない可能性もあるからだ


「中はもっと寒いな。氷が作り放題だ」

「確かに、氷ってとても高価なんだよね。氷の魔法が使える人は氷結屋になって凄く稼ぐ人もいるらしいから。数は少ないけど」

「確かに、氷を使う魔物も少ないし…………どうやら沢山いるようだな」


 氷の話をしていたら前に気配を感じる。それも尋常な数じゃない。例のゴブリンだろう……氷?


「温度計無いから体感だけどだいたい-10°はいってるよな。その環境でゴブリンは生きられるのか?」

「普通のゴブリンなら生きられないですけど寒い地域だと『ホワイトゴブリン』と言う寒い環境に耐えるために進化したゴブリンがいるけど……あ」


 モミジの足が止まり顔はみるみる青くなる。何か大変な事に気付いたのか?モミジは恐る恐る言う。


「ホワイトゴブリンは毛皮が厚く刃がなかなか通らなくて凍っている物を砕くため力があるの。沢山こられたら私でもきびし……てよく考えなくてもオーバーがいるから大丈夫だ」


 一瞬にして恐怖が吹き飛んだ。確かにゴブリンしかいない。だが寒い原因があるはずだ。そちらの方を危険だと見るべきだろう。


「うぎぎっ!!」

「ごげごっ!」


 ホワイトゴブリンが洞窟の奥からわんさか現れる。全員白い毛がある。ちょっとモフモフしてそう。ゴブリンは可愛くないけど。


「思った以上にいるね」

「そうだな」


 モミジは手から血を出して構える。

 俺は松明を投げる構えをする。モミジはそれをみて疑問に思う。


「松明を投げるの?」

「ああ、俺の力だと間違えて洞窟を崩しかねない。それにあの毛をみてみろよ。良く燃えそうだろ。沢山いるから松明で燃やせば全滅するかなって」

「やめてこの洞窟内でそんな大火事起こしたら大変な事になる」


 モミジは俺の腕を掴んで止めに入る。


「安心しろ、体質的にへい」

「私が大丈夫じゃない」


 モミジは俺を睨む。まあ冗談だけど。流石に間違って洞窟を崩す程の力の加減ができない。訳じゃない。300年間眠ってたけど訳じゃない。300前はほぼずっと本気だったけど訳じゃない。


「洞窟崩れたらすまん」

「それはそれで困るよ?!」


 モミジが不安そうな顔になる。いや、多分崩れないだろ。とりあえず他のゴブリンに当たるように蹴るか。


「多分これなら安全だ」


 俺はホワイトゴブリンを蹴飛ばして他のゴブリンに当てる。そしたらその当たったホワイトゴブリンがぶっ飛んで他のゴブリンに当たる。そしたら そのホワイトゴブリンがぶっ飛んで他のゴブリンに当たる。さして最終的に30匹ぐらいのホワイトゴブリンが洞窟の壁に激突する…………ヒビが入る


「あ、やば」

「ちょっとおおおおおお!!」


 モミジは咄嗟に血で鎌倉を作る。そこに入って引きこもった。


「流血:鎌倉引きこもります

「俺も入れて」

「1人用です」


 モミジに追い出された。やべ、ここで生き埋めになったら山崩さないと脱出できなくなる。現時点では全て崩れることはないけどそうしたら全て崩れて剣が大変な事になる。

 そんな心配をしていると洞窟の壁が崩れ、別の空洞に繋がった。


「良かった」


 一安心だ。ホワイトゴブリン達は1蹴りで半分以上がやられて洞窟の一部が崩れたら事に怯え逃げ出した。逃がさなかったけど。


「アギャァァァァ!!!」

「ギプシ!」


 ゴブリン達の悲鳴が途絶える。

 モミジは鎌倉(血)の中から声をかける。


「大丈夫だった?派手に崩れてない?」

「近くの空洞に繋がっただけだ」


 モミジは鎌倉(血)から顔を出す。崩れた部分を確認すると体全体が出てくる。鎌倉は形を崩し一部モミジの体に戻る。

 

「ホワイトゴブリンもいなくなったね」


 そう言うと俺の所まで歩いてくる。そして不機嫌そうに俺を見る。


「すまない」

「帰ったらケーキ」

「わかった」


 モミジは笑顔になる。もっと手加減しないと。次やったら怒られそうだ。モミジが怒っても対して怖くないだろうけど。怒っているのはあまり見たくないからな。

 それにしても、随分と分厚いな。五メートルはあるか。良くここだけ崩れてくれたな。運が良い。


「……にしても、新しく繋がったこの空洞、氷だらけだ」

 

 1面が氷だ。天上からは大きな氷柱。折れる気配は一切無い。モミジは見とれていた。


「キレイ」


 確かにキレイだ。だが今崩れて繋がったと言うことはこの先に剣がある可能性は少ない。普通に奥へ進もう。


「モミジ、そっちは後だ。剣を落としたのならそっちには無いだろうし」

「えー、もうちょっと見たかった」


 モミジはもの足りなさそうについてくる。俺も正直何かありそうだから氷の方へ進みたいがまずは依頼達成が優先だ。

 先へ進むとホワイトゴブリンがまだいた。


「今度は私がやるわ!流血:紅双剣!紅き2つの刃!

 

 血が双剣の形になる。それを持ちホワイトゴブリンへ突っ込み斬っていく。

 次々とホワイトゴブリンは倒れ、モミジはドヤ顔でピースする。


「オーバーには私のカッコいいところまだ見せてなかったからどうだ!」


 トワイライトと戦ってた時も思ったがモミジって戦いの事になると結構熱くなる気がする。


「良いけどあまり油断するなよ」


 俺は石を軽く投げる。落ちたら当然音がなる。油断するなよの言葉のおかげかその音にモミジはビクッとなりその方向を咄嗟に向く。何もない。


「ただ石ころ投げただけだ」

「オーバー!今の凄いびっくりしたんだけど!」


 モミジは怒る。


「まあそうカッカするな。何が起こるかわからない場所なんだ。突然死ぬ事だってある。気を付けるだけでもしてないと。もし今のが敵だったらモミジはやられてたかもな」

「うっ!」


 モミジは言い返せなかった。


「まあモミジの良い反応が見れたからよしとするか」


 俺はモミジがビクッとなるところを真似した。モミジは顔が赤くなる。


「からかわないでください!」


 どうしよう、からかうって案外楽しい。俺も先生にやられる側だったからかな。


「よし、さらに奥へ進むぞ」


 俺とモミジはさらに奥へ進む。暫く歩いた。ホワイトゴブリンにその後は遭遇せずスムーズに行けたが、ここである違和感を覚える。


「なあ、さっきより僅かだが暖かくないか?寒いことには変わり無いが」

「本当だ。もしかして別の出口に近づいているのかも」


 モミジの言葉に軽く考えたが歩いても出口らしき光はない。むしろ狭くなってきている。奥に行っているからだ。

 結局何もなかった。所々古い松明など人が通った痕跡はあったが行き止まりについた。


「オーバー、不自然だよね」

「ああ、『一本道』だった」


 天然の洞窟でそんなことはほぼあり得ない……だがここが天然じゃなかったらあり得る。

 俺は辺りを見渡す。しかし目ぼしいものは何一つ無い。


「剣もなかったね」

「だな」


 モミジが残念そうに座り込む。ため息をつくとモミジの近くに石ころが転がってくる。


「オーバー、また石ころ投げたの?」

「いや……危ない!」


 ホワイトゴブリン!まずい!

 俺は咄嗟に殴る。ホワイトゴブリンはもの凄い勢いで洞窟の壁に激突し、深くめり込む


「やべ?!」


 やり過ぎた!そう思ってモミジの方みたら既に盾を出して呆然としていた。しまった、ちゃんと反応出来ていたのか。


「……」


 モミジは黙って鎌倉を作って引きこもる。しかし、暫くたっても何も起こらなかった。深くめり込んだ所は少しならヒビがあるが崩れるほどじゃない。


「…………」


 もしかしたら……可能性はゼロじゃない。いや、まだわからない。


「大丈夫だ。崩れる心配はない。ここはもう行き止まりだしさっきの氷の所にいくか」


 モミジは目を輝かせて笑顔で顔を出す。


 俺とモミジは1面が氷で覆われた方へ行く。

 モミジは氷柱が珍しいのかずっとみている。俺も初めて初めて見る光景だが依頼が終わったら後でじっくり見ようと思う。


「足を滑らないように気を付けろよ」


 地面を診ていないモミジにそういう。すると少し出っ張っている部分に足を乗せて滑って転んだ。




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