報酬と内容が釣り合わない依頼

「はっ! せい!」


 俺とモミジは朝早くから組み手をしている。理由はモミジが鍛えて欲しいと俺にお願いしてきたからだ。とは言っても実力差は一目瞭然でモミジの攻撃は全て防ぎ俺の攻撃は全て当たっている。モミジが怪我しないように手加減はしている。


「んー、組み手以前の問題な気がする?」

「え?!」


 モミジの動きが止まる。そこに俺は凸ピンをすかさずいれた


「いて!」


 モミジはおでこを抑え、あまりの痛さにその場でうずくまる。暫くして涙目で顔を上げる。やべ、手加減したけどまだ足りなかった。


「あー、すまん。もっと手加減すれば良かった」

「手加減て、凸ピンだけで何でこんなに痛いの! オーバーってどんだけ怪力なの!」

「まあ力負けしたの人生で2回だけだし」


 先生と魔王だけだし。今でも忘れねえぞ、先生がパンチだけで山脈ぶっ飛ばしたの。

 モミジは自分の腕に力をいれる。力こぶしが無い。


「吸血鬼って鍛えられるのかな」


 何か不安そうな顔だな。鍛えられるとは思うが俺の記憶にはヴァンパイアに筋肉質な奴見たことがないな。


「サン様は怪力だったけど、あれって鍛えたからなのかな」

「あの吸血鬼怪力だったのか、まあ一応鍛えてみるか、組み手して鍛えての繰り返しか?でも重りがないとな、吸血鬼は元々力あるし、ちょっと待ってろ」


 俺は適当に俺の3倍ぐらいの大きさの岩を持ってきた。


「まあこれぐらいで良いだろ」

「流石に持てないよ!」

「じゃあ吸血鬼用のダンベルでも買いに行くか、あればだけど」

「そうですね」


 朝はまだ早いので組み手やら準備やらをする。それでもまだお店が開く時間には早いのでモミジの髪を整える。


「冒険者になったんだ。自分で整えられるようにしないとな」

「整えられるけど?」

「え?」


 村の時はサンに整えてもらってたと言ってたが。


「サン様に教えてもらってたんだけどやってもらう方が気持ちが良くてつい」


 モミジは少し恥ずかしそうに言う。いや、わかるよ。俺も先生に教えてもらったけど結局やってもらってたから。


「あ、でも鏡がないと上手くできない」

「あんな高価なもの買えるか?宿代も考えると一気には買えないだろうな。高い報酬の依頼をこなしたならともかく」

「ブリュンヒルデには多分安い依頼はないと思うよ」

「そうなのか?」

「冒険者は普通の階級ではAからFの6段階特別階級でS、X、Yの3つがあるの」


 Zもあるはずだぞ?と言おうとしたが秘密って言われたな。


「Sはシンプルに特別強い人に与えられるランク。

 Xは巫女やスレイヤー、呪術等特定の相手に対しのみだけどSランク並の力を持っている者に与えられるランク。根本的に強くてSランクにいることが多いけどね。

 Y遺跡調査や古代文字の解読、植物の研究等、学者に与えられるランク。けれど数が少ないの、冒険者も学者も両方こなす人なんてそうそういないから」


 合計で10ランクある訳だな。


「でもブリュンヒルデは最低がCランクだから。噂ではCランクの実力でも落とす試験管もいるらしいけどね」


 あれ、ライメイはBランク以上しか与えてないな。まあいっか。


「でね、これは噂で本当にあるかどうかわからないんだけど、表には出せないとんでもなくヤバい依頼あって、それを受ける事ができるランクが存在するらしいの」


 それがZランクだろうな。それをサラッと口を滑らせたライメイどうだろ、いや聞いた俺もどうだろ。面倒事にならなければいいんだが。


「噂は噂でしかない。半信半疑が1番だ」

「そうだね。そろそろ時間だから行こっか」

「忘れ物するなよ。特に日焼け止め」

「ちゃんとあるよ」


 俺とモミジは荷物を持って宿を出る。206、207と並んで部屋を借りている。

 お店の中に入り求めている品を見ると、手鏡程の小さいのならともかく部屋に設置する程の大きさになると値がはる。


「んー、結構高いなぁ、手鏡はともかく今は無駄遣いは良くないし、後日かな」

「10メートルの鏡とか何に使うんだ?」


 モミジは欲しい大きさの鏡を見ているが俺は大きすぎる鏡に目が引かれていた。鏡が当たり前に売っている事にはもう驚かない。がやはり高いな。


「次行ってみるか」


 俺とモミジは吸血鬼が鍛えるよに良さそうな物を売っている店を探す。


「吸血鬼専門店がある!」


 モミジは目を輝かせて俺の腕を引っ張って入店する。


「え」


 だが一瞬にして目に輝きが無くなり負のオーラが漂う。


「どれもこれも頭1つ高いな」


 吸血鬼用の道具が沢山ある。服から剣まで多種多用に物を売っている。ダンベルもあるがどれも今の俺たちには手が出せないほど高い。

 モミジの負のオーラを感じたのか店員さんがこちらに来る。


「お二人さんはこの店初めてようだね、え?何でわかったかって?お嬢さんの反応を見ればわかるさ。高いだろ?うちの店の商品は。理由は何と言ってもどれもこれも素材からデザインまでこだわってるからさ。服は血が付着しにくい素材でできていてわざわざ露出している所から血を出さなくてもいい、むしろ血で選択ができる程さ、オーダーメイドなら違和感無く羽を広げることだってできる。刀には吸血機能をつけていて切った相手の血を取り込んで手持ちから出すことで血を飲むときの隙を減らせる。武器やトレーニング道具も小さいのに重い合金を使っていて力のある吸血鬼でも十分には鍛える事ができる。力自慢の人間も買いに来るほどの品物さ。でも1番オススメなのがあるんだ。それは」

「あ、後日また来ます」

「その時は是非良い買い物を!」


 すっっっっごい話長かった。相当にこだわってるんだな。凄い人だな。1度話し始めたら止めないとずっと話続けるタイプだ。


「うー、服も素敵なものばっかりだったしお金早く貯めないと」


 トボトボと歩くモミジ。


「暫くは岩だな」

「それは嫌! さっさとギルドにいって沢山の依頼をこなして沢山お金を手に入れる!」


 モミジは凄いやる気を出してるなぁ、いい依頼はあるかな?難しい依頼はランクも高くなる……


「モミジってランクはどれなんだ?」

「Cだよ。合格ライン下回ってたし当たり前の処置だけどね。オーバーはどうだったの?その場で決まったんでしょ?」

「モミジよりは高いランク」

「オーバーは強いからAなんだろうね」


 Sランクだけど黙ってるか。何か気を使いそうな気がするから。


「あっちから直ぐにしてやるって言ってくれて本当に助かったよ。筆記試験白紙だったし」

「むしろ筆記試験なんてあるだけで実際採用基準に一切関係なかったりして」

「あり得るかもな」


 そんな会話をしながらブリュンヒルデにつく。依頼ボードと言う依頼状が貼ってあるボードを見るがみる限り一枚も貼られていなかった


「何でないの?!」

「ごめんなさい、この時期新人の冒険者さんが張り切って依頼を直ぐに持ってっちゃうの。それで受けたい依頼をとられないようにその他の冒険者も直ぐに依頼を受けちゃって」


 受付嬢が説明してくれる。この時期は依頼を受けるところから競争状態なんだな。


「そんな〜」

「野宿のコツでも教えようか?」

「いざと言うときお願いします」


 モミジが愕然としていると端に1枚だけ依頼状が残っているのを発見する。それを見や否やモミジは笑顔でその依頼状をもうスピードで手に取る


「やったぁ!1枚だけ残ってた!…………1000万?!宿屋の家賃何年分もあるよ?!冒険者ってこんなにも稼げるの?!」

 

 モミジのあまりの驚きように俺も依頼状を見てみると確かに1000万。数え間違えではない。店の物価をみて大体の金銭価値はわかっているがこれはあまりにも高すぎる……そしてこの依頼状は何かおかしい


「これ、内容が簡単すぎるぞ」

「え?『剣を持ってきてほしい』?これだけ?!ランクもDって書いてあるしこれにしようよ!オーバー!」

 

 モミジは依頼状の違和感に何の疑問も覚えず受付嬢の所まで持っていく。モミジの驚きようで何の依頼状を持ってたかわかっていたようで受諾をする前に確認をする。


「えっと、反応からみる限り新人さんですよね」

「はい!」

「冒険者はこんなにも儲かると言ってましたがこの金額はSランクでも特に高難易度の依頼でもこの金額にはならないんですよ」

「へ?」


 モミジはやっと依頼状の違和感に疑問を持った。


「これってDランクの依頼ですよね」

「だからなんですよ。依頼内容も簡単だからそのランクになってはいるのですが、値段が高いから何かあると皆避けて長い間受けられてないんですよ」


 詳細を見てみると大切な剣を洞窟に落としてしまった。魔物がいるから代わりに取ってきてほしい。ちゃんと洞窟までの地図まである。


「この洞窟にはどんな魔物がいるんだ?」

「そこはゴブリンしかいない筈なんですよ。Eランクの魔物なのですが、数がいますので初心者には向かないですね。ブリュンヒルデの冒険者はCランク以上しかいませんので別になんの問題もないのですが」


 ゴブリンしかいない?そこまでわかっているのにどうして誰も受けない。いや、わかっているからこそ不気味なんだ。


「その剣にそれほどの価値があるのなら、それでもこの金額はおかしいか」

「でもオーバー、後数日で財布の中がそこをつくから受けないと」

「………………」


 確かにこれを受けないと金に困るが、俺独りはともかくモミジも一緒となると難しいな。


「俺だけなら受けるには受けるが」

「それだと私の財布のそこが尽くの!ただでさえオーバーより中がすくないんだから!」

「報酬一部やるよ」

「それじゃあニートじゃないですか!私のお金は私自身で稼がなきゃ!」


 モミジは反発する。正論を言われたら返しようがない。仕方ない。


「危険だったり内容が違ってたら逃げるか。受付嬢、モミジと二人で受けるよ」

「やったぁ!」

「えっと、本当に受けるんですか?」


 モミジは喜びその場でガッツポーズをする。受付嬢は不安そうな様子で確認をする。


「ああ、受理をたのむ」

「わかりました……気をつけてくださいね」


 俺たちはギルドを出る。受付嬢は不安な顔で見送る。心配なのはわかる。俺もモミジがいて心配だが、いざとなれば代償魔法でどうにかできると思うし、いっか。

 モミジは鼻唄をしている。何の歌なんだろう。


「モミジ、この馬車依頼主の村の近くを通るそうだ、乗せてってもらおう」


 馬車を見つけ話を聞く。丁度行く方向が一緒だったので乗せてってもらう事にした。



















「大変だ!例の1000万の依頼なんだが」


 男性がものすごい慌てた様子でギルドに駆け込んできた


「それならさっき二人組の冒険者が受けましたけど、何かあったんですか?」


 受付嬢はあまりの慌てぶりにただ事出はないと確信する


「それが、依頼主が報酬の追加申請したんだ!しかもその報酬が『氷冬雪刀』200年前に『真田雪村』が使っていたと名刀だ!」


 その報告にギルド内が驚きに染まる。


「あの氷の侍の雪村?!」

「くそ!受ければ良かった!」

「それよりもどうしてそんな名刀が報酬に?!」


 その報告を俺たちはまだ知らない。










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