冒険者ギルド入団試験。その④一撃

「…………」


 モミジは目を覚ます。辺りを見渡すが自分がどこにいるのか理解できていない。

 俺はモミジが眠っているベッドの横のイスに座っている。


「オーバー」


 声をかけられてモミジの方へ向く。


「起きたか」

「うん……」


 モミジは眠る前の事を思い出す。トワイライトの服に着けた血を滅血で爆発させた所で記憶がない。


「オーバー、あの後どうなったの?最後の攻撃は当たった?」


 モミジは不安そうな声で聞いてくる。表情は不安だけじゃない、期待している。最初の話が攻撃が当たったかどうか、樹木で一部見えていなかったが聞いてくると言うことは恐らく全ての攻撃が当たらなかった。


「最後、爆発か。当たってない」


 モミジの表情から不安も期待も消える。その代わり悔しさが表情、いや声も思考も支配する。


「どうして」

「トワイライトが投げた木刀が形を変えて本人になり、投げた方は木になっていた。服だけは残されていた」


「そっか…………オーバー」


 モミジの手は掛け布団を巻き込み握りしめられる。


「私はバカだよ。ろくに世界も知らない癖に夢見て、対して努力もしてないのに挑んで、覚悟も知らないのに覚悟したとか言っちゃって。この時の為に努力して準備してきた人も同じく落ちてる。でも、その人達と並んで『悔しい』って私は言えるかな」


 モミジは俺に聞いてくる。自嘲ぎみに笑っている。

『悔しい』と言えるか、言えない。最後だけ必死になって、ダメでした。おこがましい。少なくとも俺はそう思う。


「言えないな。俺も許さない」


 俺はポケットから旗のバッチを取り出す。それを見てモミジは驚く。


「これは何か分かるか?」

「わかるもなにもこれはブリュンヒルデのギルドバッチ。どうしてオーバーが」

「お前のだ」

「?!」


 モミジは信じられないと言った表情をする。


「おかしいよ。それは私のじゃない。だって私は」

「ギルドマスターの話によると、お前は合格ラインを下回っている」

「じゃあどうして」

「さあな、それでもお前は合格した。ブリュンヒルデの冒険者になった。それが結果だ」

「…………」


 モミジは納得いかない様子。何故合格したのかがわからない。もしもなにも言われなかったら何かしらが評価されたと思える。しかし、『合格ラインを下回った』『合格した』矛盾した事実がある。

 この矛盾は3つ目の事実で解決される。しかしそれは不確定なモノでモミジに伝える事はしない。


「それじゃ、俺はいってくる。そろそろ実技試験の時間だからな」


 俺とモミジは1日違う。貧血で倒れたモミジはこのままの為俺の実技試験を見ることは無い。


「いい忘れる所だった。モミジ、ギルドマスターから伝言預かってるんだった」

「伝言?」

「ああ、『滅血は今後使わないでください』だそうだ。これに関しては俺も言うつもりではいたがな」


 俺は医務室を後にする。正直試験までまだ少し時間はあるが、モミジには考える時間が必要だ。

 俺は第三コロッセオへ向かう。






 第三コロッセオには既に受験者が集まっている。そこに1人のバッチを着けた冒険者が現れる。


「…………俺は許せねえ、雑魚がブリュンヒルデに入団しようとするなんて。だから俺は開始早々に天地雷鳴を放つ。死んでも文句は無しだ。くらって立っていられたらその場で合格にしてやるよ」


 バッチをつけていると言うことは試験管だ。天地雷鳴は、天は荒れ、雷が落ち、地を砕く。神災の1つだ。300年前に俺は1度だけ見たことがある。とても雷とは思えない程に巨大だった。山を崩し辺りを火の海にした。それを魔法で再現することが可能なのか


「そんなものをここで起こしたらコロッセオおろか街の一部が吹き飛ぶぞ」

「手加減して範囲はこのコロッセオの闘技場のみにする。地面が多少えぐれるかも知れないが何の問題もない。安心しろ、サングラスと耳栓は用意してある。観客分のだかな。逃げても良いぞ。魔法で防ぎたいならそうしても良い」


 ざわつく受験者達。終わりだと悲観しているものや冗談だろと軽視している人もいる。

 その時、試験管から雷が昇る。その光に皆とっさに目を閉じてしまう。


「なんだ一体!」

「目がぁ、目が〜」


 光が収まりゆっくりと目を開ける。辺りが暗くなっていた。上を見上げると黒い雲が太陽を隠し、雷が雲の表面で数字になっている。その数字はどんどん数が減っていく。


「あれば何の数字だ?!」

「試験が始まるまでの残り時間だ!あそこまでやるって事はまじで落とす気だ!」

「うわあああああ!!逃げろ!!!」

「あんなもんくらったら命がない!!!」


 ほとんどの受験者が絶望して逃げ出す。出入口で大混乱が起きる。残り時間が少ないため無理矢理でも通ろうとして前の人を押したり中には魔法を使って無理にでも通ろうとするものまで。

 逃げ出さなかったのはたったの8人。そのうちの1人がそれを見て笑う


「俺は運が良い、雷魔法を使う俺にとっては雷はむしろ好物だ。これは受かったな」


 合格を確信していた。正直俺も運が良い、くらって立っていれば合格なのだから。筆記試験を白紙で出した俺は安堵する。


「おい、そこのお前……お前だ。すでに安心しきっていやがる」


 俺の事か、そりゃ安堵するさ。既に合格が決まっているようなものだから。


「顔に出ていたのか、いや嬉しくてさ、筆記が絶望的だったから、『確定で合格できる』方法をそっちから出してくれて本当に助かった」

「……舐められたものだ。本物じゃないとはいえ天災を軽視して、さっきも言ったが文句は無しだ。そうだな、立っていられた奴はそのまま俺と戦っていいぞ、場合によってはSランクにしてやる」


 俺を睨む。決して軽視している訳ではない。俺だから大丈夫だと思っているだけだ。じゃなきゃ既に死んでいる。


「……まあいい、残り10秒だ。準備はしとけ」


 皆魔方陣を展開する。雷使いは俺と同じそのまま受けるつもりでいる。

 1人だけ糸を貼る。自分の周りを守るように。トラップでも仕掛けているのか?


「行くぞ」


 試験管は腕を振り下ろす。その瞬間、闘技場全体に強大な雷が落ちる。あまりの衝撃と怒号、地面がえぐれていくのがわかる。数秒の短い、雷にしては長い間雷が落ち続けた。しずかに日の光が差し込む。失明した目と鼓膜の破れた耳を感覚の再現で治すと試験管を除く7人が立っていた。全員険しい表情をする。

 雷使いは焦げて意識がない。


「全力でやったと言うのに、防ぎきれなかった」

「ああ、随分と威力を抑えているらしいがこれ程に、これがSランク冒険者の力」

「戦っても俺たちに到底勝ち目はない、Sランクは地道に目指すしかないか」

「1人を除いてだがな」


 1人を除いて、その言葉に全員俺の方を見る。相当に威力を抑えていたとは言え地面が大きく削れるほどの攻撃を生身で受けて何事もなかったように立っているのだから。

 俺の場合は魔法が使えない分、防ぎようがない。代償魔法なら可能だがどっち道負傷する。なら受けてもなんの問題もない。


「生身で受けて平気とはな」

「平気じゃいさ、服がボロボロだ」


 試験管は舌打ちする。まあいいと言った後に目線を受験者全員が見える方向に移す。


「今この場で立っているお前たちは今をもってブリュンヒルデの冒険者だ! そんなお前らは同じギルドの仲間を知る権利がある。俺の名はライメイ・アルカライト、右から順に名前を言え」


「俺はオーバー」

「俺のなはボイトム・スケロテーネ」

「カール・トルス」

「ケース・カイネルだ」

「カーソル・タールネル」

「私はメルメト・カータル」

「セカル・メタリです」

「この中で俺に挑んでSランクを狙いに行く奴はいるか」


 俺は手を上げる。俺以外は手を上げなかった。皆防ぐので精一杯だから戦ってもすぐに終わる事をわかっているんだ。


「そうか、ならオーバー以外の冒険者の証をここで渡す!」


 ライメイはポケットからバッチを取り出した。同じ旗のデザインだが微妙に違っていた。


「ケース、カーソル、セカルはBランク、メトルト、ボイトムはAランクとして己の証を身に付けろ!」


 ライメイはバッチを投げる。たった一回の攻撃で別けている。俺は雷の光で何も見えなかったが防衛に使った魔法を見て判断したんだろう。

 ライメイは俺の方を向く。そして構える


「オーバー、威力は抑えたとは言え天地雷鳴を生身で受けて平気な奴に手加減はできない。合格したお前らはその気絶している奴と一緒にコロッセオから出ていってくれ、出来るだけ闘技場無いで済ませるがな」


 俺とライメイ以外の全員が退場する。一時だが静寂が訪れる。観客も固唾を飲む。子供が持っていたポップコーンを落としてしまう。それが床に落ちた瞬間、俺に向かって真横に雷が走る


雷電乱万千あまりにも多すぎた雷


 数はわからない。だが闘技場を光る海にしたてあげた。天地雷鳴よりも威力が低い。ならライメイは攻撃に使っているんじゃなく目と耳を使い物にならないようにするために撃っている。それだけじゃない。感覚もほぼ使い物にならない。効いていない訳じゃないからな。痛みはある。痺れもだ。

 だからライメイの場所がわからない。テキトーに攻撃しても当たらない。かすりもしない。


「やみくもにやっても意味ないか」


 当てる方法がある。その方法はあまりに不確定過ぎるし自信がないといけない。先生と会うまでは俺は一切それに頼らなかった。頼り無さすぎるからだ。だからこそ、頼りになるならばそれはとても強い。その方法は


「そこだ!」


 俺はライメイの腹をぶん殴る。ライメイはコロッセオの嘉部を突き破って待機室の机に倒れた。雷が収まると五感がちゃんと役に立つ。

 ライメイはゆっくりと起き上がった。腹を抑えてふらついて机に手をつける。


「やっぱわからないときの勘任せだな」

「そんなのあり……かよ」


 俺がそう言うとライメイはその場で座る。ポケットからバッチを取り出すと俺に投げる。


「オーバー、お前はSランクだ。1つ聞くがさっきのは本気じゃないよな」

「ああ、本気でやったらそれこそ天地雷鳴を体現できるほどだ。本気以上の力を出す方法もある」

「そうか……」


 ライメイは笑い出す。腹に響いたのか抑え込んでうずくまる。暫くして顔を上げる。


「お前は俺より強い。今度Zランクになる俺よりもだ。おっと、Zランクの話は誰にも言うなよ。にしてもこんなにも簡単にやられるとはな、弱い奴は許せねえけど強い奴は大歓迎だ。それじゃあな、俺は医務室に行ってくる。お前は明日からでも依頼を受けるといい」


 ライメイはふらつきながらあるていく。天地雷鳴を再現する程の魔力、いったいどれ程のなのだろう。魔王を殺しにに行くとき魔王城の異常な頑丈さを利用して魔王は天地雷鳴や天慌地裂、ノアの洪水、他にも様々な神災を起こしまくって俺が入るのを阻止しようとした。

 魔王が使うほどの魔法を放つ魔法使い、Zランクになると言うことはSランクの上があると言うこと。だとすれば神災の1つを起こせるライメイよりも強い奴が少なくとも数人いると言うこと。他のギルドも会わせれば沢山いる。


「もし戦争が起こったら世界が滅ぶかもな」


 俺はそう思った。




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