冒険者ギルド入団試験。その③滅血

「後はお前ともう1人だけだ」


トワイライトは私に向かって来る。樹木が飛びだしそれを足場にして跳び狙いが定まらないように動く。

私は血のチャクラムで枝を切りながら移動する。


「もう単純にはいかないか。少し本気出すか」


トワイライトは私に向かって四方八方から沢山の枝を伸ばす。チャクラムで対処しようにも数が多すぎる。けれど良く見れば枝の数が少ない方向がある。近くの枝は既に切っていて少し離れた枝から伸ばしているため十分に反応できた。


「よし、一つ一つこなしていけば……?!」


攻撃が甘い方向に行った瞬間、太枝に隠れていた小枝が沢山伸びてきた。


「誘われた?! しまった!」

「ケーキは甘い。だがその分太りやすいと言う落とし穴がある。まさかただ攻撃が甘いだけだと思ったか?」


枝が私に当たる。刺さらないように配慮をした当て方だ。しかしそれは意味が無かった。何故なら私に当たったと言ったけどそれは真っ赤な嘘。文字通りのね。


「これは?! 血だけだと?!」


大量の枝に当たった私は形が崩れ液体になる。『私』と言う姿は血に変わる。


「流血:分血体もう1人の私


私はトワイライトの背後から攻撃を仕掛ける。


「とった!」


私は確信したようにそう言う。しかし、トワイライトは驚いた顔を何一つ変えず、振り向かず手だけを動かして木刀で私を突こうとする。思い通りだ!


「読まれた?!」


私は木刀を掴む。反応されることはわかりきっていた。だからこその『仕込み』だ!


「流血:結び草!足元をすくわれろ!


トワイライトの乗っている枝から赤い草が生え足を縛る。

樹木の表面についていたらばらまいてもバレてしまう。けれど木は隙間がある。そして血は液体。内部からなら、ゼロ距離の死角からの攻撃が出来る!


「足が?!」


先程の分血に使った血を内部に染み込ませてトワイライトの乗っている枝を侵食させる。これで枝は伸びない。近くの他の枝は切り落としている! 木刀も防いだ!


「これならどうだ!! 流血:クロスボウガン!引き金の弓矢!


私の左腕に弓矢がつけられ勝手に弦を引き、矢を放つ。


「ぐっ!」


トワイライトは体と首を斜めにして交わす。その顔には焦りが見える!矢に意識がいった瞬間に右拳を振るう。当たるかもしれない!そう思った。


「おらぁ!」

「え?!」


トワイライトはしゃがみ体を捻る。そして腕を振り木刀を離す。私は攻撃を与えられなかった。


「そんな」


その瞬間、トワイライトの足ともの枝が大爆発を起こす。そんなは嘘っぱち。拘束は1番意識がいきやすい。けれどもし拘束された状態で危機が去ったのなら、その瞬間だけは1番意識から離れやすい。


「滅血:爆裂炎!命を削る爆弾!


私は爆風に巻き込まれ自身を壁に激突させるがわかっていたことなので受け身を取る。

まともに当たった!確実に当たったのが見えた!


「どうだ!!これなら少しは……!!」


目眩がする。頭もクラクラする。滅血を使ったからだ。


体外に血がある場合失血なる。しかし、吸血鬼は違う。失血にはならない。体内にあっても体外にあっても変わらないからだ。人間で言えば血が無いのに身体中の酸素や二酸化炭素を問題なく循環させている状態。だからこそ吸血鬼は血を操ることができる。

だが消滅すれば血が無いのだから失血。大量に無くなれば普通に死んでしまう。『滅血』は血を失う変わりにその血が膨大な力になる。吸血鬼、いやヴァンパイアの時からの最終手段。


大爆発がした場所には何も残っていたかった。Sランクがこれぐらいじゃやられないことぐらいわかる。けれどまだ『仕込み』はある。

私は単純な動きをしろ! 動きを読まれその動きを読んでさらにその動きを読んでトワイライトは動く。だからこそ私は対処される。その意識を利用して死角を作れば、私でも少しはやれる!


「あ、まずい」


木刀持ったままだった。何かされる前に捨てよう。

私は木刀を捨てた。その瞬間、木刀から手が生えて首を掴む。


「ッ?!」


木刀はみるみる人に形を変え、私の首を絞めながら持ち上げる。

苦しい! まずい! このままだと! 意識が


「危なかった。後少しで当たる所だったよ」

「そん、な、どうし、て」


完全に人の形になる。いや、逆だ。人に戻ったと言った方が正しかった。私の首を絞めるのは、爆発にまともに当たった筈のトワイライトだった。


「どうして、教えてやるよ。俺は木刀を手放す直前に自身を木刀にしてあの場に木分身もう1人の作られた俺を残した」


そんな、私が考え付いた最高の策だったのに。一体どうすれば『仕込み』の位置はこの近くじゃない。かといって攻撃しようにも防がれる。ダメだ、策が思い付かない。


「うっ……」


意識が遠退くのがわかる。私はここまでなの?全力でやって、傷1つつけられない。相手は私の動きを読んでいる訳じゃない。全て反射神経。必死にやっても、全てだめ。私の完全な負け。どうしようもない。うん、頑張った。諦めてフェニックスソウルに入団しよう。


「これで、後1人」


トワイライトはそう言う。私の意識は……
















































「滅血」


足掻け!


「?!」


突如として樹木の幹が内側から大爆発を起こす。


「なんだと?!」


一瞬だけ私の首を絞める力が緩んだ。今だ!


「おっ??!!!」


私の蹴りは偶然にもトワイライトの金的に当たる。トワイライトはその場でうずくまってるけどそんなの関係ない!

翼を広げ、樹木の天辺に急ぐ。


「うおおおおおお!!!!」


意識が無くなるんだったら貧血で意識が失っても一緒だ! こうなったらやってやる!!


「流血:紅の大盾!盾の役割などいらない


樹木の天辺に着いたら大盾を作る。そしてそれを思いっきり押す。


「滅血:爆噴射!ロケットエンジン!


大盾の一部を消滅させ下に推進力をつけるよう爆発させる。自分にも当たるけどどうだっていい!


「いっけえええええええ!!!!」


大盾は爆発している樹木を砕きながら下に押し潰し、地面で横に広がり他の枝も葉も爆発に巻き込まれ全てが燃える。コロッセオに火の海が出来上がる。


「こいつ! 滅茶苦茶やりやがって! あんなに血を失ったら死ぬぞ!」


火の海に呑まれる前にジャンプしてかわしているトワイライト。

トワイライト通り、私は多くの血を失って意識を手放しかけている。体も思うように動かない。


「まずい! あのままだとあいつ自身が火の海に呑まれる!」


完全に、私に意識が行っている……


「今だ」


私は下を噛んで無理矢理意識を持つ。

トワイライトならきっと火の海を脱出する。だから、『仕込み』の血を空中に小さく散らせた。やっぱり、トワイライトの服に血が付着している。


「滅血」


服に付着している血が光だす。トワイライトは私に向かって木刀を投げる。その瞬間トワイライトの服は爆発を起こす。


もうどこも動かない。当たりが真っ暗になり始める。歪な形の木刀が当たる前に私は意識を完全に手放した。


















観客席で倒れているモミジ、俺は直ぐに駆けつけるとトワイライトが周りに声をかける。


「おい誰か! 吸血鬼はいないか! こいつ滅血を使いすぎて血が足りてない!」

「は、はいはい!俺です!」


観客席にいた男の吸血鬼が駆けつける。


「頼んでもいいか」

「はい。大丈夫っす」

「ありがとう。ついでに医務室に運んでくれ」

「了解っす」


トワイライトはジャンプし、木刀を振って竜巻を起こす。炎の勢いが強すぎて消せないが燃えている木がはじっこにいき中心は燃えなくなった。そこに着地する。

男の吸血鬼は周りの野次馬を少し離れさせる。すると自分の血を少しモミジに移す。


「滅血」

「滅血って、それじゃあ血が無くなるぞ」


せっかく移した血を失う行為に俺は口を出す。すると男の吸血鬼は大丈夫っすと言ってその説明をする。


「あのまま俺の血液を入れたところでそれは俺の血液であってこの人の血液じゃないっす。だから滅血でエネルギーに変えてそのまま流すんすよ。そうすればエネルギーは血に付着して同化し、少し時間が経てば完全にその人の血液になるっす」


吸血鬼の血は特殊みたいで『他人の血』はダメらしい。この方法なら血液型は気にしなくて済むが逆に言えば知識がないと何の対処もできないと言うことだ。ポーションじゃ傷は癒えても血は直ぐには作られない。


「でもこの子はさっき滅血を自分で食らってたすから怪我が酷いっす。早く医務室に運ばないといけないすけど俺まだ試験が見たいっす」

「そうか、ありがとう。医務室には俺が運ぶよ」

「そうすか!たのんます!」


俺はモミジをおんぶして医務室へ向かう。


「…………良く頑張ったて言いたいが滅血は禁止だ。」

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