冒険者ギルド入団試験。その①筆記試験
「………………………………」
「………………………………」
俺とモミジは長い行列の中、自分達の番が来るのを待っていた。
「……長い」
「町に入る為にこんなに並ぶなんて、流石は王都。でもいちいち並ぶのは大変だなぁ」
『王都ブリュンヒルド』冒険者達が集まる場所と言われている。
「オーバーはどこの冒険者ギルドに入るの?」
冒険者ギルド、冒険者達の所属する言わば会社。ブリュンヒルドには複数の冒険者ギルドがある。
「どこでもいいや、決めてないしどういう冒険者ギルドがあるかわからないしな」
「オーバーさんなら『ブリュンヒルデ』に入れると思うよ?」
「ブリュンヒルデ?」
「うん!この国1番の冒険者ギルドだよ!」
モミジの話によるとブリュンヒルドには『ブリュンヒルデ』『ドラゴンズデルタ』『フェニックスソウル』『円卓の騎士団』の大きな冒険者ギルドがある。小さいものも合わせるともっとあるがこの4つは規模が大きく、入団が困難ではあるがその分沢山の依頼が来る。
「『フェニックスソウル』は設立者が伝説の生き物である不死鳥と知り合いって言われててそのギルドに入った人達は他のギルドと比べて圧倒的に死者が少ないの。だから安定を求めている人がよく入団するギルドなの。エンブレムは不死鳥」
「『円卓の騎士団』は他のギルドとは全くのヘ別物と行ってもいいの。何でも騎士としての素質がないとどんなに強くても入団出来なくて、依頼も護衛とか救助とか、そう言うものしか受け付けていないの。『冒険者』ギルドとは言ってもあまりそう言うかんじじゃない。エンブレムは鎧と剣」
「『ドラゴンズデルタ』は数年前にできたばかりにも関わらず凄い勢いで勢力を伸ばした冒険者ギルドなんだけど、その設立者である『デルタ・エトラスト・データ』はかなりの変人でドラゴンの事しか頭に無いのか入団試験もドラゴンの事ばかりで採用基準もよくわからない。エンブレムは言わずともドラゴン」
「『ブリュンヒルデ』は毎年開催している冒険者ギルド国1番を決める大会で5連続優勝の超強豪達が集まるギルドで入団しようと全国から人が集まるの。『勇敢な強者』が入団の条件で毎年10000人以上が入団しようと試験を受けるんだけど合格者は50名もいない。入団出来れば将来は約束されたいると言われているギルド。エンブレムは旗」
俺はその話を聞いた。モミジはブリュンヒルデに入団するつもりではいるらしい。今の時代の人や魔物達の強さはわからない。だがそう簡単には入れないだろう。強さだけなら俺は『代償魔法』がある。無くてもいけるとは思うが。
「モミジがブリュンヒルデにするなら俺もブリュンヒルデにするか」
「オーバーさんはともかく私は入団できるかわからないけど、精一杯頑張るしかない!」
モミジは気合いをいれる。まだ王都にすら入っていないのに。
自分達の番になると門番に荷物とか来た理由とかどこから来たのかなど色々と検査を受けた。だがここで思わぬ事が発覚する。
「…………文字が読めない」
王都内での決まり事や同意書。永住登録などの書類。門番は気をきかせて複数の文字を用意するがどれも読めなかった。
300も経てば文字が変わってもおかしくないが、今まで考えてすらいなかった。これは思わぬ誤算だ。何も計算してないけど。もし入団試験に筆記があったらどうしよう。いや『勇敢な強者』が条件なら大丈夫か……依頼書が読めないのはまずい。
「困った、まさかどれも読めないとはなぁ、読み書きできる文字はあるか?」
あるにはあるが300年前の文字を書いてもこの門番は読めるのだろうか、それ以前にその文字は残っているのかが問題だ。とりあえずは書くことにした。
「……すまない、少し待ってくれ」
門番は本を取り出すとペラペラとめくる。暫くして閉じると頭を抱える。
「君、どこかの部族か?この本に載ってないとは、仕方ない。私が書くから名前と年齢を言ってくれ」
「それはすまない。名前はオーバー、歳は」
30越えているしか覚えていないんだよな。35はいっているか?30といっておくか
「30」
門番の手が止まる。俺の顔を見て驚く。
「1年365日だけどもしかして育った場所1年が短い?」
「いや、確かに見た目は若いがそれなりに歳はとっている」
「なるほど、うーん、まいっか。これが世界共通語である『ニッポン語』だ」
門番がニッポン語で書かれた俺の名前と年齢を見せる
「所でオーバーは連れはいるか?」
「今隣で検査を受けて……あれ、いない」
「どうやら先に終わってたみたいだね。この人の前は……」
門番は後ろの書類を見る。なんて書いてあるかはわからないが検査を受けた人達の書類だろう。
「『モミジ・キリヒトハ』吸血鬼か。文字を見る限り書いてもらった訳ではさなそうだな。なら大丈夫か。一緒に来たのなら検査を終わってた待ち合い室にいると思うから。文字が読めない以外は問題ないし、オッケー、門を通ってよし。ちょっと待っててくれ」
門番は白紙の本を取り出すと数枚切り取って魔法を唱える
「
すると俺にペンと紙を渡す。
「これが〜〜でこれが**だ」
日常的に使うモノや単語を言う。そこに俺は自分の文字を書き込む。単語帳の出来上がりだ。ありがたい。
「ありがとう。多分何とかなるよ」
「ああ、頑張れ」
俺は門を潜る。300年前の文字を書いたことが後々騒動を起こすとは思いもしなかった。
単語帳を見て待ち合い室の文字を見つけるとモミジが待っていた。
「随分と時間がかかったね」
「すまない、遅くなった。文字が読めないと言う思いもよらなかった事態に陥ったからな」
「え?!」
多分これは誰でも驚く。俺だって自身が読めないことに驚いた。
俺とモミジはブリュンヒルデに向かうがモミジはとても心配そうにこっちを見る。
「入団試験大丈夫? もし筆記試験があったら確実に落ちるんじゃ」
「いや、多分無いだろ。『勇敢な強者』を求めてるなら。あっても実技試験メインでやるだろうしなんとかなるだろ。それにしても騒がしいな。活気があると言った方がいいか」
辺りを見ると人々が色んな場所を行き来している。途中で屋台があったり、こんな大勢の人が密集している所は生まれて初めてだった。
「ここは国1番の街だからね、人も多いよ。私こんなに密集してるの初めて来た。はぐれないように気を付けないとね」
「そうだな、でも大丈夫だろ。あそこに見えるでかい建物がブリュンヒルデだろ。地図を見ても位置的にあそこだ」
冒険者ギルドのブリュンヒルデにつくと入り口から沢山の人が並んでいる。全員入団試験を受ける人だろう。
「こ、こんなに沢山。皆入団試験を受けるのかな」
「多分そうだろうな。列を無視して入っているのはギルドの者かその関係者。また俺たちは並ばなければいけない。面倒だ」
「まあそう言わずに、しりとりでもしながら」
俺達は並んで暇なのでしりとりをする。続かなかった。
「ダメだ、知らない単語が多すぎる」
「オーバーさんって何か昔の人っぽい感じがする。昔の事は知っていても今の事なんて全く知らないもん」
300年眠ってましたなんて言えないしな。
「まあ田舎者だし」
「私も結構な田舎者だけどそれ以上の田舎者って、気になってたけどオーバーさんって出身地どこなの?」
「さあ、各地を転々としていたからどこで生まれたかは知らないな」
俺達は話をしているうちにギルド内に入って受付の人から番号札を渡される。
「会場は奥ですので進んだら渡された番号札と同じ番号の席でお待ちください」
番号札と同じ番号の席。あ、これ筆記試験ある奴だ。でもまあしつこいようだけど『勇敢な強者』を求めてるなら実技試験だけでも合格できるようになっているだろうから筆記試験はそんな大したようなものじゃないだろう。白紙でも大丈夫だ。
数十分待つと旗の形のしたバッチを付けた人が何人か来て紙を配る。
「後5分で開始する。ペンはこちらで用意したものを使用してもらうからな。荷物は預からせてもらう。机の横におけ」
荷物を奥とそこの床だけが開き荷物が落ちる。閉じて取り出せない状態になる。
「なにこれすげー」
「そこ、まだ始まっていないからって喋るな」
開始1分前、皆直ぐに問題用紙を開けるようにし、直ぐにペンをとれるように配置する。なんか嫌な予感がする。問題が心なしか分厚い感じがするし何か雰囲気が思いと言うかどことなく緊迫感があると言うか。
「制限時間は三時間。これより筆記試験を開始する!…………始め!」
それと同時に皆一斉に問題用紙を開く。回答用紙に何かを書く音が響く。
「……………………………………………………………………」
問題用紙には一枚一枚に問題がびっしりと詰まっていた。何て書いてあるのかわからない。わかるのは複数の文字で書かれていて殆どの国や種族問わず問題が読めるようにしてあることだけだ文字があるから問題が少ないとなと言われればそうじゃない。問題用紙が30枚を越えている。回答用紙も5枚だ。明らかに3時間で解ける量じゃないのは一目瞭然。
俺は三時間ただ読めない文字達を眺め白紙で提出した。名前だけはニッポン語で書けてよかった。
終わった後、別の紙が配られる。そこには3日後の実技試験の会場とその時間が書かれていた。会場を出るとき、モミジは俺を哀れむ目で見ていた。
「実技試験、派手にやろう」
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