共存が存在する世界

吸血鬼であるモミジに太陽の光が何故平気か聞くと慌てて木箱の中から白い液体が入った瓶を取り出し木の影に隠れる。暫くすると戻ってきた。


「危なかったぁ」


モミジは安堵しながらベンチに座る。少し減っている白い液体が入った瓶を俺に見せる。


「日光が平気なのはこれのおかげ。日焼け止めって言うの」

「日焼け止め?」

「そう、これを肌に塗ると日光から体を守ってくれるの。人間は肌が黒くなったり赤くなったりで済むけど灰になっちゃう私達にとっては必要不可欠なの」


そんなものがあるのか。吸血鬼やヴァンパイアにとっては革命的な品物だな。


「だが1度塗ったら良いって訳でもないみたいだな」

「うん、定期的に塗らないとゆっくりと灰になっちゃうから、おかげで気づけた。ありがとう。オーバーさんも塗ってみる?」

「いや、遠慮しとく」


道具や薬、『技術』で新たなものを作り出すことで事で今までできなかった事が出来る。人間が魔法を使える魔物に対し生き残ってきたのも武器と言う『技術』を磨いてきたから。


「これも人間との『共生』があったからこそのモノなんだよね」

「と言うことは人間が作っているのか」

「そう、人間が日焼け止めと人工血液をくれる代わりに私達吸血鬼は薬を提供しているの」

「そうなのか、人工血液? 作り物の血ってことは……危険を侵す必要もないし侵される事もないのか」


互いが互いのメリットを与えている。まさに『共生』だ。だとしたら他の種族の魔物とも共生しているのかな。


「全く違うもの同士が手を取り合って生きていく。種族が違えば違う技術を持っているの。例えばドワーフとかは鍛冶としての腕が凄くてとても品質の良い武器や道具を作れる。でも炭鉱で生きているから取り尽くしたら移動しなくちゃいけない。そこで素材を提供する。代わりに一部の道具を貰う」


モミジは酔っているのか話の歯止めが効かなかった。


「エルフは珍しかったり育てるのが難しい植物や果物を沢山栽培しているの、食材を貰う代わりに道具や海の幸などを提供する」

「詳しいんだな」

「全く詳しくないよ。今言った二つの種族は有名だから知っているだけ。細かく見ればもっと沢山ある。私は見てみたいの。色んな種族の生き方を。どんな技術を持っていてどんな生活をしているのか。『共生』して種族分け隔て無く一緒に暮らしている姿を。まあ簡単に言っちゃうと『私の知らない生き方』を見てみたいの」


それがモミジの『やりたいこと』か。俺とは真逆だな。


「あ、ごめんね、途中から関係……無くはないけど話を脱線しちゃって」

「いや、良い話を聞けたよ。それがモミジの夢なんだな」

「夢?うん。そうだね」


モミジはそう言われて照れる。お酒で少し赤かった顔がさらに赤くなる。

『共生』の散財する世界。それは『平和』な世界なのだろう。さっきのヴァンパイアロード見たいに共生する気がないやつもいるけど、その数がどんどん少なくなれば平和に近づく……俺と先生の存在を否定する世界。命を投げ出して戦ってきた者を否定する世界。


「オーバーさん? どうしたんですか?ボーッとして」

「ん?いや、少し考え事。それよりも見てみたいなら見に行けば良いんじゃないか?」


モミジは少し残念そうな顔をする。目線を俺から手にあるコップに移す。


「それは出来ないの。薬を作っているのは私だから、そう簡単には遠くへはいけないの」

「他に作っているやつはいないのか?」

「いるけど私が1番良いのを作れるし数も作れるから、私が長い間いなくなったら安定した提供が出来なくなるの」


そうか、薬を作ることが今のモミジの『職』なのか。さらっと自分が1番優秀って言っているが抜けたら確かに大変だな。その穴を埋めるのは難しいだろう。

俺は独りだったから先生の後を継ぐなんて言い出せたけれど集団で生きている分、簡単には離れられないのか。


「実はこの話をするのオーバーさんが初めてなんだ」

「俺だけ? 今日会ったばっかりなのにか?」

「だからかな、オーバーさんはここの村の人でもないし私達の集落の者でもないからこう言う話を打ち出せたのかな」


自分を言い出せない、か。


「俺はずっと強引にやってきたからわからないけど、何も言わないのは良くないんじゃないか?」

「え?」


モミジはこっちを見る。少し驚いた表情をする。


「皆に言って、もし無理だったら諦めるか待つか選べば良い。俺見たいに強引に行っても良い。だけど何も言わずその選択肢すら潰すのは、お前はそれで良いのか?」

「それは、その……」


モミジはまた視線を反らし、さらには俯いた。

明確な回答が来ない俺は少し待つ。だが少し待っても変わらなかったので俺はモミジの耳元に近づいて囁く。


「胸さわって良い?」


その瞬間もの凄い勢いで立ち上がり俺から離れる自身の胸を隠すような体制になる。


「い、いきなり何を言うんですか?!」

「ダメか?」

「駄目に決まってます!」


モミジはゆっくりながらも俺から離れていく。顔を真っ赤にしてこっちを睨む。


「それで良いんだよ」

「何が良いんですか!」

「俺が胸をさわって良いか聞いたら『駄目』って答えたじゃないか。それは自分で『胸を触られたくない』と思って『駄目』と明確に言った。自分の事をちゃんと言えている。『見に行きたい』と思ってるなら『行きたい』と言えば良い。言葉にするのは簡単だ。でも選択をするのは簡単じゃない」


俺は思ったことをそのまま言う。俺の発言が決して良いとは思っていない。ただ自分の意思を言わないのは良くないと俺は確信している。だから俺は自分の正直な言葉を言う。


「何も言わず時間を潰すぐらいなら言ってどうするか考える時間にしろ」


宴会騒ぎ声が聞こえる。だがモミジにとっては沈黙が訪れたようだった。胸を隠すようにしてた腕もゆっくりと力が抜けていく。モミジは俯いた。少しして頷く。


「オーバーさん、ありがとう。悩んでみるよ」


そう言ってモミジは振り返り宴会をしている村人達の所へ行く。

俺はそれを見た後に手を顔に当てながら見上げる


「すっげぇ無責任な事言ったな。あーあ」


自分の事を言う。か、俺が言うなんておかしいよな。周りの言葉を聞かずにただ無理矢理実行し続けてきた俺が。それに、『自分の事を言うことは無い』俺が言えって、自虐的にもほどがある。


「ああ〜、空気がうめえ」

「空気が旨い?何の味もしないと思うが?」

「ライル」


ライルが酒を持ってきて隣に座る。そしてニヤつきながら俺に聞く。俺は一回座り直す。


「で、モミジと二人で何を話していたんだ?」

「さあな、少なくともこっちに来たのが間違いだってすぐにわかるよ」

「どう言うことだ?」

「少し待てばわかる」


モミジが村人達と話をしている。暫くするとこっちへ戻ってきた。


「オーバーさん。私、集落に戻って皆と話してくる。ライルさん、行ってきます。話が終わったらすぐに戻ってきますから」

「え?いきなりどうしたんだ?」


何かを決意した顔でモミジは言う。言い終えるとすぐに村から離れ近くの森へ走って翼を広げて飛んでいく。


「え?え?どう言うこと?」


こっちに来て話を聞いていなかったライルは理解が出来ていなかったので俺は教えることにした。


「場合によってはモミジがここからいなくなるほど今後を左右する決断の準備に行った。いや、準備どころかすぐに実行するかもな。早ければ明日には出発するんじゃないか?」

「えええええええ?! そんな大事なこと話してたの?!」

「ドンマイ」


ライルは急いで他の村人から話を聞く。とても驚いて、でもすぐに笑顔になる。村人達皆が笑顔だ。モミジのやりたいことを応援しているんだろう。本当に良い人達だ。


刻々と時間が経ち日が落ち村人達は灯をともす。そして皆モミジが戻ってくるのを待つ。村全体に緊張が走る。子供達は早めに寝かせているため外でじっと待ってはいない。

俺は星を見る。こうやって呑気に座りながら見るのは初めてだと思う。たった1日で初めて尽くしだった。ただ待つのは性に合わない。待つ事事態久しぶりだった。眠っていた期間を除いてもだ。


森から何かがこっちへ向かう音がする。さらに緊張が走る。皆が皆、唾を飲んで現れるの待つ。そして、森から吸血鬼が出てきた。


「「「モミジちゃん!どうだった?!」」」

「やっとついたぁ!もう夜だしヤバイ! ……あれ? これどういう状況?」


木箱を背負った男の吸血鬼がこの状況に理解できなかった。


「誰だ?」

「あ、えっと、カリルです」


すっかり忘れてた。そういや来てないって言ってたな。と言うか今来たのか。遅れたにもほどがある。そして何より


「「「紛らわしい」」」

「え?え?え?」


皆が落胆する。カリルはなにがなんだかわから立ち尽くしている。

その時、上空から僅かに風を切る音がする。俺はその方向へ見る。瞳孔を開いて見る。


「モミジが来た」

「「「おおお!」」」

「いやまて、1……10……20……沢山吸血鬼がこっちへ向かってくるぞ」

「何で?!」


カリルが驚く。皆も同様で困惑しているとモミジを含めた吸血鬼達が村の前で降りてくる。

モミジが歩いてくる。立ち止まって深呼吸をする。そしてただ1文を言う。


「私は冒険者になります!」


その瞬間俺とカリル、モミジを除いた全員が歓声をあげる。


「おめでとうモミジちゃん!」

「今から祝いだ! 宴だ! 酒持ってこい!」

「吸血鬼特性酒だ!」


1人の吸血鬼が俺の所へ来る。歩いてくる。吸血鬼の中でただ一人大人のお姉さんオーラを出しているから長なのだろう。


「君がオーバー君だね。私は吸血鬼長のサンだ。モミジの背中を押してくれてありがとう」

「押した覚えは無いんだけどな」

「それでもだ。明日の朝出発だからここで集まって祝おう」


吸血鬼と人間の宴会が始まった。どんちゃん騒ぎ。子供達を明るいうちに寝かしたのもこのためだろう。吸血鬼の集落とこの村の人達全員が騒いで騒いでてんてこまい。


「さて、モミジは明日の朝出発するんだよな?」

「うん!」


モミジは笑顔で答える。


「冒険者がどういうものか話を聞いてな、俺もなることにしたから」

「ええ?!」

「そうそう! こいつに冒険者の事をを話したらなるって言い出してな! ヴァンパイアロードを簡単に倒したんだから余裕でなれるだろ!」

「じゃなくてここから王都までどれだけあると思ってるの?!」

「距離は聞いた。あれぐらいなら余裕」

「ヴァンパイアロード倒した時から思ってたけどオーバーって本当に人間なの?!」

「正真正銘絶対的世界の理純度100%人間」


ドンちゃん騒いで皆眠った。起きているのは村人の女性陣と俺と吸血鬼長とモミジだけ。


「全く! 片付けもしないで寝て!」

「いやぁ、うちの者がすまない」


不機嫌なシャランと苦笑いのサン。


「今日の主役二人でさえ起きて片付けていると言うのに!」

「あはは」

「あれ、なぜか俺まで主役になってる」


こうして片付けを終えた村人と吸血鬼達は明日に備えて家で眠った。何かの罰か男性陣全員外で眠ったままほったらかされている。

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