慣れない世界とその理由

「ごぽ?!」


腹と背中から大量の血が流れる。その量は明らかに異常だった。血の水溜まりが瞬く間に出来る。俺は腕を引き抜くとヴァンパイアロードはその場でひざまづく。体の体積以上の血が辺りを大きな水溜まりにする。


「これぐらいじゃあヴァンパイアは死なない。能力を使える限り血は体を巡って」


俺は頭を掴む。ヴァンパイアロードは悲痛の叫びをあげる。


「死ね」


俺は頭を握り潰そうとする。が、体をぶち抜いた腕は血で染まっている為にヴァンパイアロードは血を操作して俺の腕を潰す。


「ざまぁみろ!! そうだよ! 俺はそれぐらいじゃ死なない!だが人間が腕一本持ってかれたら大量出血で死ぬよなぁ!」


俺の潰れた腕から絞った雑巾のように血が出る。だが俺は睨んだ表情を変えずにもう片方の手で頭を掴む。こっちは血に染まってない。


「オーバーさん! 後ろ!」


モミジの声に俺が振り向くと先程の紅い矢が全て俺に向かって飛んできていた。俺はヴァンパイアロードを投げて盾にする。しかしヴァンパイアロードをすり抜けて矢は俺に刺さった。


「下等生物が勝てるわけがないんだよ。さっきのは偶然だ、偶然こいつは防いだんだ……はは、ははははははは!!!!」

「偶然かどうか、もう一度やってみるか」

「え?」


俺の体に無数の矢が刺さっている。それを見たヴァンパイアロードは震えを覚える。


「おかしいだろ、人間が、死なないとかどうなっているんだ、いや、お前本当に人間か?」

「ただの人間だよ。があるだけのな」


俺はヴァンパイアロードの頭を砕いた。絶命したことにより血はただの血となり俺やそこらじゅうに刺さっている矢は全て液体の血に戻る。


「…………」


村の方を見る。皆不安そうにこっちを見る。いや、あれは怯えた表情だ。今でも覚えている。あんな顔を向けられるのは、慣れているから平気だがいい気分にはなれない。俺は村から離れるように歩き出す。


「まって!」


モミジがこちらに駆け寄ってくる。手には明るい緑色の液体が入った瓶があった。


「んぐ?!」


モミジが瓶の蓋を開けると無理矢理俺の口に押し込む。そして俺の腕を優しく触る。


「腕を見せて! まだ治せるかもしれ……な……え?」


血で真っ赤な俺の腕。しかし真っ赤なだけで何とも無かった。無傷で何ともない。とても今さっき潰されたような腕じゃ無かった。


「傷が、ない……体は?!」

「?!」


今度は俺の体をペタペタ触る。同じく何ともない。矢が刺さった後とは思いないほどに。


「ど、どうして?」

「大丈夫かい?!」


今度は村人達が包帯やら棒やらお酒やらを持ってきて駆けつけた。


「てあれ? 傷は? 腕は? 潰されたんじゃ」


全員不思議そうに俺の体をペタペタ触る。


「お、おいやめろ」


全員が不思議そうな顔をしてこっちを見る。


「モミジさんの飲ましたポーションがここまで効いたのか?」

「いえ、あのポーションには止血程度の効果しか無いです」

「じゃあ何で治っているんだ?」

「「「「なんで?」」」」


全員が首を傾げて俺に聞いてくる。さっきまで怯えていた顔を向けていたのにこれはいったい。


「こ、怖くないのか?」

「怖いって?」

「俺が」


何をいっているんだこいつ?と言った顔でみてくる。


「オーバーが? まさか、ヴァンパイアロードは怖かったけどオーバーは怖くないさ。俺たちを襲ってきた訳でもないしな」


ライルがそう言うと皆頷く。あれは俺じゃなくヴァンパイアロードに向けられていたのか。早とちりしたや。いや、勘違いか。


「それよりもどうして治っているんだ?」


治っている理由、それは俺が『感覚を再現できる』体質だから1度再生する感覚を覚えたらそれを再現して回復する……じゃあ長いし理解できないか。


「体質的な」

「「「体質?!」」」


全員が驚いて目を見開いてこちらを向く。


「そんな体質だったらポーションいらずじゃないか!」

「ヴァンパイアロードの矢を手を叩くだけで全て吹き飛ばす強さ何だぞ?! それにそんな体質って凄い!」


皆が皆感想を言いまくってワヤワヤとする。尊敬と憧れの目が一斉に向けられる。

俺は初めての事に困惑する。モミジがそれに気付いたのか皆を一回静かにさせる。


「ごめんなさい。貴方が凄すぎてちょっと騒いでしまって」

「えっと、大丈夫」

「にしてもここまで血だらけだと怪我したと誰でも思ってしまうな」

「あ?!」


俺はライルの服をボロボロにしてしまった事に気付いた。


「服をこんなにしてすまない」

「きにすんな!むしろ名誉の負傷ってもんだ!」

「服に名誉も何もあるか!」

「「あはははは!!」」


俺以外が笑う。さっきまで襲われていたというのに、皆が笑顔だ。


「あ、そうだ! この事をギルドに報告しなくちゃ!」

「そんなもん明日で良いだろ! 今日は宴会だ!」

「今酒持ってるぞ」

「なんで持ってるんだよ!」

「消毒用」

「ほらほら、さっさと準備だ!」


村人は勢いそのままに宴会を初めて流されるように俺も参加することになった。


「あそーれ! あそーれ!」


賑わう宴会。昼間から皆酒を飲んでいる。子供達はジュースを飲んで騒いでいる。


「オーバーは酒飲めるか?」

「飲んだこと無い」

「そっか!なら飲め飲め!うまいぞぉ!」


ライルはコップに酒を注ぐ。するとシャランが空の瓶でライルの頭をぶん殴る。瓶は粉々にくだけ散る。


「アホか! オーバーが未成年だったらどうするきだ!」

「アホか! 俺が死んだらどうするきだ!」

「その程度の男だったてことだ!」

「ちょっとシャランさん?! 」


確かに俺の見た目は19歳とかそこらだが30は越えているしな……越えているよな?うん。確実に越えてる。けど俺何歳だろ。

俺は酒を飲む。確かにうまい。


「お! 良い飲みっぷり! それは度数28の奴だぜ!」

「初めての奴にそんなもん飲ますな!」


シャラン2度目の瓶殴り。またさっきとほぼ同じやり取りが始まる。


「なあ、オーバーはどうやってそこまで強いんだ?」


村人の一人がそうきくと皆がどうしてどうして?と聞いてくる。流石に答えられない。のでさっきと同様の答えをしよう。


「体質のおかげかな」

「いいなぁ! その体質!」

「俺そんな体質あったら冒険者になってバンバン稼いじゃうよ!」


冒険者って職業だっけ?聞いてみるか。


「冒険者って放浪者じゃなかったっけ?」


すると皆目を見開いて驚く。


「まっさかぁ! 昔じゃあるまいし! 今は誰もが憧れる職業だよ!」

「そうなのか?」


10年以上、いや20年以上は戦っている間にそんなことが、それともここは、この国はそう言う場所なのか?だとしたら俺はあの爆発で随分と遠くの知らない地へ飛ばされたんだな。


「この国の人達は皆魔法を使えるのか?」

「何を言っているんだい? 人間は皆魔法を使えるよ。まるで昔の人みたいだなオーバーは」

「昔の人?」

「そうさ! 昔は人間は魔法を使えなかったと言われているんだ!」


ライルが立ち上がりその物語を大声で語る。


「昔々、人間は魔物によって絶滅の危機に直面していた! 人間は何とか抗うも魔法を使う奴らとの力の差は歴然! 立ち向かうものもいたがずっと怯え隠れの生活を強いられていた!」


俺にとっては今でも続く現状だが、何かおかしいんだよな。


「それでも人間は武器を作り、知恵を絞り犠牲を出しながらも耐え抜いた! そこで最大の危機が訪れる! 魔王が異世界から魔力を取り込もうとしたのだ! 」


それは魔物でも上のほんの一部しか知らない極秘の情報だ。どうして村人が知っているんだ?


「その時! たった1人の人間が魔王に立ち向かった! その計画を止めるために! そしてなんと! その人間は魔王を打ち倒しその計画を利用したのだ!」


するとライルは炎を打ち上げる。上空で爆発する。それはただの爆発じゃなく火の粉が辺りに飛び散りまるで花のような華麗なものだった。


「異世界の魔力を我々人間に与えたのだ! そして人間は力を得た! これが300年前の伝説だ!」


皆盛大に拍手をする。大歓声も起きる。いいぞぉ!とかヒューヒューとか称える。

俺だけは呆然とした。何故なら、魔王に立ち向かったのが俺で最後の足掻きで偶然にも人間に魔力を与える事になっていた。そして何より、


俺は300年間眠っていた事になる。


俺は直ぐには信じることが出来なかった。あのあとも質問攻めにあったが1度頭を整理したい時間がほしくて何とか抜け出してそこら辺のベンチに座る。


「300年……この長い時間で色々と変わったのか……」


俺は魔物を絶滅させるために戦ってきた。300年たった今、平和に近づいていることはわかる。だがそれは魔物との『共生』と言う形で、俺が目指していた世界とは違っていた。


「だとしたら、俺は何のために戦っていたんだ」


何十年も戦ってきた。だがその殆どが無意味な事になる。唯一の意味は最後の魔王との戦いだけ。だとしたら先生はどうなる。あの人は何の意味もなく全てを捨てて戦って苦しんで死んでいったと言うのか。ふざけるな。


「隣、いいかな」


二つのコップを持ったモミジが俺の所へ来る。


「構わない」

「ありがとう、はいこれ。ジュース。結構な勢いでお酒飲んでたから酔い止めの薬を入れたから飲んで」

「すまない。助かる」


モミジが隣に座る。今のところ酔ってはいないが飲んだ方が良いだろう……モミジは吸血鬼となっているが実際はヴァンパイア。『魔物』なんだよな。どうして俺はこうも簡単に受け入れられるのだろうか。今まで殺すだけの相手を。


「ごめんね、この村の人達は何かしらある度にお祭り騒ぎなの」


モミジの顔が赤い。少し酔っているのだろう。ジュースを飲んでいるから飲みすぎには気を付けていのか。


「ありがとう。さっきは守ってくれて」

「いや、同士が死ぬのは見たくないし助けてもらった恩もあるしな。それに栄養ドリンク、美味しかった」

「良かった。あれ自信作なんだよね。健康に追求してなおかつ味は美味しく!」

「そ、そうか」


そうやって吸血鬼といるのも変な気分だ。昼間から飲んでいるし……昼間?


「モミジはどうして太陽の光に当たっても平気なんだ?」


それを聞いたモミジ固まった。そして急に立ち上がった。


「ごめん! ちょっと待ってて! ヤバイヤバイ!」


モミジは走り出す。急いで木箱から何かを取り出そうとしていた。


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