吸血鬼とヴァンパイア

「か、家族?!」

「ああ! 今日から私の息子だ!」


他人にいきなり息子になれって、一体どういう思考回路をしているんだろう。友人や知り合い、仲間ならともかく、家族になるって。


「か、家族っていきなり言われても」

「息子は嫌か?なら弟だ!」

「そうじゃない!」


この人は俺を家族にしようとしている。見ず知らずを受け入れようとしている、と言うよりまず何でそうしようと思ったのか、普通なら、いや普通じゃなくてもあり得ないことだ。


「いきなり家族になれって、どうしてそんなことを」

「私は皆が幸せが良いんだ!」


たったそれだけの理由で、この人は幸せを願うんじゃなく実行する人なんだ。それほどに優しい人なんだろう。


「ありがたい事だが断らないといけない」

「断る?! どうして?!」


信じられないと言った顔だが普通の返しだと思う。


「俺ばそう言う人間だから。出来るだけ早く、色んな所にいかないといけない。でも助けてくれた恩は返す。長居は出来ないが何か力になるよ」

「そうか、それは残念だ」


シャランは肩を落とす。それほどに残念だったのか。でも俺には家族になる資格何てない。それに一人を選んだ。


「よし! ご飯食べよう! 私は向こうの部屋で食べているが困ったら呼んでくれ!」


そう言ってシャランは部屋を出る。切り替えが早いのか。

土鍋に入っている粥を見る。蓋をしていなかったからか湯気がもう立っていない。蓮華でひとすくいすると湯気が立ち上る。中はまだ熱々のようだ。口に運ぶ。


「……?! う、旨い!」


白米ってこんなに旨いのか! 旨すぎる! ちょっと塩が入っているがそれがまた旨い!


「……」


食い終わってしまった。もっとゆっくり味わおうと思ったのにいつもの癖で急いで食べてしまった。

だがおかわりは図々しいな。食い終わったから台所に持ってこう。この家ならおそらくあるだろう。

俺は部屋を出る。隣の部屋では家族3人が楽しそうに喋りながらご飯を食べていた。シャランがこちらに気づくと驚く。


「もう食べ終わったのか?!」

「あ、はい。早く食べるのが癖で、とても美味しかったです」

「腹は大丈夫なのか? 5日間も眠ってたからそんな一気に入れたら流石の粥でもまずい」

「大丈夫です。体は頑丈なので」


心配そうにこっちを見るが俺はいたって平気なので正直な事を言う。


「そうか?ならいいんだが」


すると玄関のドアからノックの音がする。ライルが出る。


「ライルさん、今吸血鬼が来てますよ」

「そうか、わざわざ教えてくれてありがとうな。マヤの薬もそろそろ無くなるし貰わないとな。でもまだ飯食ってるし、そうだ! オーバー、代わりに行ってくれないか?俺とマヤの名前を言えば貰えるから。ついでに槍も貰ってきてくれ。先日壊したばっかりなんだ」


いきなり俺に振る。だが断る理由はない。恩も返せる。


「あなた、オーバーは5日間も」

「わかった。5日間も寝てたし体が鈍ってるし運動しないと」

「だ、大丈夫ならいいけど」

「シャランは心配性だな」

「あなたはぎゃくに楽観視しすぎ」


俺は家を出る。すると人だかりが出来ていた。『きゅうけつき』って言う人の特徴聞くの忘れたけど大丈夫そうだ。

俺はそこに行くとそこで薬やら包帯やらを渡していたのは、血のような紅い瞳、広げてはいないが黒い翼、そして口から覗かせる2つの牙。ヴァンパイアだった。


「ヴァンパイア?! まさか!」


人間の振りをしてさらいに来たのか?!

俺はすぐに殺そうと思ったがヴァンパイアが人間に支援しているのはおかしいと思い、僅かに踏みとどまる。

村人の一人がこっちを向く。


「君、眼が覚めたのか? モミジさん!この人です!5日前に見つけた人!」

「眼が覚めた?てことは5日間も眠ってたって事?なら早く診なきゃ」


モミジと言うヴァンパイアはこちらに来る。

俺は構える。ヴァンパイアは魔物だ。魔物が何で人間を助けているのか知らないが気を許すことは出来ない。


「安心して、血は吸わないから。後ヴァンパイアって聞こえたけど私は吸血鬼よ。それよりそこに座って、5日間も眠ってたんでしょ」


殺意も敵意も感じられない。信用、していいのか?村人から厚い信頼があるが……少しでも妙な事をしたら殺せばいいか。

俺は近くのベンチに座る。するとリアの手から血が出る。傷があるわけではないので沸き出ているようにも見える。

これはヴァンパイア特有の術。【流血】自身の血を使って様々な事が出来る。特に血を代償とする【滅血】は代償魔法と似ており強力。他の者の血を飲むとその血も自身の対象になるためヴァンパイアとの戦闘では『血を流してはならない』。


「流血:命流痕命を見させて。まずいけど飲んで」

「血をのめってか」

「うーん、飲まなくても診れるけど飲んだ方が確実かな」


ヴァンパイアの特権を体内に入れるのは流石に受け入れられない。いくら周りからの信頼があっても魔物の術を食らうのはお断りだ。


「出来れば飲まない方で頼む」

「わかった」


血はモミジに戻っていく。モミジは手を俺の頭に翳す。ゆっくりと首、左腕、胸、腹、足、と順番に手を翳しながら移動させる。


「……5日間も眠っていたにしてはとても健康だ……でも、栄養が全くと言っていいほどに不足してる。変な言い方しちゃうけど異常が無いのが異常な状態だ……ごめん、もっと細かく見たいからやっぱり飲んで」

「……」

「嫌な顔しないの。下手したら貴方の体によくないものがあるかもしれない」

「……わかった」


目の前にいるしいざとなれば術を発動しても何かされる前に殺せばいい。魔物に診断されるのは複雑な気持ちだが。


「ありがとう」


笑顔で言う。可愛い。

再度手を翳す。また順番に診ると、今度は驚いた顔をする。そして悲しそうな顔をする。


「……おそらくだけど貴方の体質がとても特殊でそれが無かったら貴方は死んでいたわ」


『感覚の再現』か、確かにあれが無きゃ既に死んでいる。いや、案外皆と生きているかもしれない。

体質が特殊な事まで診れるとは、ヴァンパイアの流血はやはり甘くは見れない。吸血鬼だったか、今のところ違いがないが。


「体が無理にでも健康的な体を保っているわ。でもそんな事が続いたらいつか体を壊す。だからちゃんとした食事と睡眠をとって、暫くはそれで様子見。あ、栄養ドリンクあるからそれを飲んで。5日間も眠ってたなら飲み物が最適だから」


そう言うと瓶を渡される。

何語もなく終わった。この魔物は一体何だ? ここまでくると栄養ドリンクも信用して良さそうだが。


「わかった。ありがとう……あ、そうだ。ライルが槍をぶっ壊してマヤは薬が残り少ないと言っていた」

「ライルさんとマヤちゃんが?わかった。ちょっと待ってて」


モミジがそう言うとその場を離れ、人の身長よりもデカイ木箱を開ける。持ってくる間に俺は村人から気になっている事を聞く。


「モミジは吸血鬼って言ってたけど吸血鬼とヴァンパイアの違いを教えてくれないか?」

「え?知らないのかい?」


驚かれた。白米の事といい、明るい雰囲気といい、ここは他とは根本的な何かが違うようだ。


「吸血鬼とヴァンパイアは何も違いは無いよ。人間と共存しているかしていないかの違い」

「共存?!」


人間と共存する魔物がいるなんて?!


「吸血鬼は共存している。ヴァンパイアはそれ以外かな」

「なら吸血鬼と名乗ったヴァンパイアに襲われたらどうするんだ?」

「ヴァンパイアはプライドが高いから『ヴァンパイア』と言う種族以外は嫌うんだ。別称も許さない」

「『吸血鬼』と言う種族は嫌うと」

「そうだね。『吸血鬼』はむこうからしてみればプライドを捨てた裏切り者みたいな感じだからね」


納得した。とは言えない。

周りからのしてみればそれが当たり前のように言っている。やはり生きてきた環境の違いか。

だとしたらここは何処なのだろうか。魔物を殺すために色んな所を旅してきたがこんな所の情報なんて聞いたことも見たことも無かった。


「はい。これマヤちゃんの薬。武器とかはカリルが担当だけど……」


俺に木箱を差し出す。中に薬があるのだろう。

モミジは周りを見るがそれらしき者はいない。


「あれ?まだカリル来てない?」

「はい、まだ来てませんけど」

「おかしいな。私より先に出発した筈なんだけど」


モミジは不思議そうにする。

1人の村人が村の外側から誰かが来るのを見る。


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