安全そうな村
長い夢を見た。とても長い夢を。どれも争いの夢だった。途中から夢だと気づいて夢ぐらい平和でも良いじゃないかと思った。でも、平和ってなんだろう。『争いの無い幸せな日々』を表すのなら、俺は平和を知らない。だから夢も見ることはない。
なら俺は、知らないモノの為に戦っていたんだろうか。
「………………」
眼が覚めて、そう思った。
知らない天井、木製、ウッドハウスか。ベッドとは、相当な贅沢品。柔らかくて気持ちがいい。窓がある。希少なガラスを大きく家につけるなんて贅沢すぎる。簡単に割れてしまうのに。
「治ってる」
俺の体は五体満足。ゲートの爆発に巻き込まれた。その時に溢れてた魔力の量を考えればむしろ体は消滅している方が自然。だが俺はとりあえず助かったことに安堵する。
ドアが開く、少女が部屋に入ってくる。俺を見るなり驚いた。
「お父さん! お父さん! 目を覚ましたよ!」
笑顔で親を呼びにいく。早く早くと急かすように父親の腕を引っ張ってこの部屋に連れてくる。父親の方もこちらを見ては嬉しそうにする。
「おお、目が覚めたか。言葉はわかるか? ここがどこだかわかるか?」
「…………」
父親も少女も身なりが整っている。少女は髪を伸ばして結んでいる。邪魔になるから直ぐに短くしてしまうのに。
「……あれ? 言葉が通じない? 困ったな。ちょっと通訳連れてくるか」
「あ、いいえ、通じます通じます。助けてくれてたのか。礼を言う。ありがとう」
「なぁに、困った人がいたら助けるのは当たり前さ! にしても良かったぁ、言葉が通じなかったどうしようかと思ったよ」
父親は笑いながら言う。とても明るい人印象を得る。他人を助ける程の余裕がある。少女が髪を伸ばせているところを見てもどうやらここは長い間魔物に襲われていない、まだ見つかっていない場所なのだろう。
「にしても命拾いしたなあんちゃん。マヤが倒れているところを見つけてくれなければあのまま狼に食われて死んでいたかも知れないぜ?あ、マヤは私の娘だ! どうだ?可愛いだろ!」
「可愛いくて綺麗だ」
「きゃっ! 私綺麗って言われたよお父さん!」
「あんちゃん見る眼あるなぁ! そうさ! 内の娘は世界一可愛いんだ!」
楽しそうだな。常に幸せそうな感じだ。
「マヤ〜! ちょっと手伝って」
ドアの向こうから女性の声がする。おそらく母親なのだろう。
「は〜い!」
マヤは元気よく返事をしてこの部屋からでる。
父親は何かを思い出したように自己紹介を始めた。
「俺はライル。さっきも言った通り娘のマヤ。あんちゃんの名前はなんだ?」
「俺は……」
俺は指名手配になるぐらいの事を過去にやからしている。けれど離れた人同士情報を共有できる環境じゃないから離れたところであれば俺の事は知らない。知っていたらその時だ。
「オーバー」
「オーバー? 叫びやすそうな名前だな」
覚えていないか。
今気づいたが俺が今着ているのは俺の服じゃない。貸してくれたのだろう。
「服も貸してくれてありがとう」
「俺の若い頃着てた服さ。もう着れないからやるよ」
「恩に着る」
なんて優しい人なんだ。見ず知らずにここまでしてくれるなんてな。
「それに服が無いと困るだろう? マヤが見つけた時持ち物所か服も無い状態だったからな」
「え……」
「ん?どうした?」
それって、あの小さな女の子が男の裸を見たと言うことに。
「すまない」
「おいおいどうした? いきなり謝るなんて」
「いや、年端もいかない女の子が血縁者でもない、赤の他人の全裸を見せてしまった。偶然とはいえ申し訳ない」
「…………」
ライルはみるみる青ざめていく。暫く体が震えた後にすごい勢いでマヤと叫びながら部屋を出ていった。本当に申し訳ない。
外から子供たちの笑い声がする。気になって部屋の窓から外を見ると10人ぐらいの子供がボールを蹴って遊んでいる。サッカーなのだろう。2チームに別れているみたいだ。
「コラー! ここでボールを蹴るなー! ボールで遊ぶなら向こうでしなさい!」
「「「はーい!」」」
確かに、蹴ったボールが窓に当たったら割れてしまう。にしても地面が整備されている。他の家にも窓がある。この村は安全なのか。何年ぶりだろう。こういう村を見たのは。
「はあ〜〜〜〜良かった〜〜〜〜〜」
ライルがスッゴい安堵して帰ってきた。
「あんちゃんが倒れていたときどうやら俯せだったようだ。直ぐに大人を呼びに行ったから体も動かしていないし前も見ていないらしい。ほんっとうに良かった〜〜〜」
「こちらも小さな女の子によろしくないものを見せなくて良かった」
互いに安堵した。
「あなた〜、ご飯よ〜」
「おー、今いく! あんちゃん、見たところ大丈夫そうだ。ご飯食ってけよ」
「え?!」
ご飯まで食べさせてもらうのは流石に、図々しいと言うか、申し訳なさすぎる。
「いや、その、そこまでしてもらう訳には」
「気にすんな! デカイ猪を狩ったんだが今保存庫が壊れてしまってな。食いきれなかったら腐っちまう。むしろ食ってくれた方がこっちも助かるってもんだ」
断る方が申し訳なくなってきた。
「では、お言葉に甘えおこうかな」
「おう! 猪は臭みが強いがそれがまた癖になって酒が進むぞ〜」
「コラ」
いきなり女性が土鍋でライルの頭を叩く。ライルは頭を抑える。
「いって〜、何すんだよシャラン!」
「何すんだよ! じゃないよ! 5日間も眠ってた人にいきなり肉を食わすやつがあるか! 胃が受け付けないよ!」
「マジで?!」
「マジよ!」
「猪どうしよう!」
「さっさと直すかお隣さんにでもお裾分けしなさい!」
「わかりました〜!」
ライルは逃げるように部屋から出た。
なんだろこれ、何て言うんだっけ? 痴話喧嘩? いや違う、これはしりにひかれていると言う奴だきっと。
5日間も寝ていたのか、見つけてもらってからと考えるともっと眠っているだろう。
「あんなバカは放っておいて、ええっと、オーバー君だっけ? これ、粥だけどさっきも言った通り5日間も眠ってたからゆっくり少しずつ食べてね」
そう言うと土鍋をベッドの近くにある机に置く。蓋を明ると中は白米を使った粥だった。
「これって白米じゃないか?!」
白米と言ったら魔物から逃げ隠れしながら生活している人間にとってはなかなか手に入れることのできない希少な作物だ。育てようにも戦いで荒れた地では育たない。
「ええ、そうよ?それがどうかしたの?」
「流石にそんな高価な物を頂くわけには」
え? って顔をするシャラン。すると笑い出す。
「白米が高価なもの?!まさか!餅米ならともかく白米が高級品って、…………はっ?!」
いきなり笑うのをやめて申し訳なさそうにする。
「その、笑ってごめんなさい。オーバー君、白米が高級品に見えるほどに貧しい人生を送ってきたのね、その、沢山あるから、遠慮せず食べてね」
なんか勘違いされてる。確かに金は無いけどそれは金を必要としない生活をしていただけだ。
「い、いや。気にしないでくれ! 良いことじゃないか! 白米が普通に食べられるなんて! うん! とても良いことだ!」
「うう、私を傷つけまいとそんなことを言うなんて、なんて優しい人なの」
「ええ?!」
シャランは後ろを向いて涙を溢す。拭ってから振り替える。
「よし! オーバー! 今日から君は私達の家族よ!」
「ぴゃっ?!」
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