魔王との戦いで眠りについて300年。目覚めたらSランク冒険者になりました。

Edy

魔王との戦い。

天は荒れ、地は裂け、雷は地を砕き、雨はその地を洗い流すかのように降り続ける。そんななか、魔王城はそびえたつ。俺は魔王城の扉を開ける。奥へ進む。こびりついた血の匂いは雨でも流しきれず、建物に入ったことでよりいっそう鼻につく。


「ここまで来るとは」


 奥の部屋から声がする。扉を開けると、そこには魔王がいた。


「天気が悪いだけでそこまで言われるとはな」

「……その殺気、真っ赤に染まった服。その血はお主のか、我の同胞か、両方なのか」

「俺の血でもあるし魔物の血でもある」


 そんなことはどうだっていい。


「その後ろにある魔方陣はなんだ」


 魔王の後ろにあるのはとてつもない、お屋敷のホール並みに広い部屋の壁一面に書かれた魔方陣だった。


「ここまで来たんだ。教えてやろう。我はこれでも探求者でね、この世界とは違う異世界がこの世に存在することを知った。そして見つけ出した。何もない滅びた世界を」


 滅びた世界。あの魔方陣は異世界を探しだす為のものか、いや、大きさを考えれば繋げるためのものかもしれない。


「何もない世界には魔力が溢れかえっていた。あるのに使われないのは勿体無い」


 そこで魔王は笑う。手を広げ、俺を上から目線で見下ろす。


「異世界の魔力を我々魔族に取り込むことが出来ればより強くなり、なかなか達成することが出来ない人間の殲滅いや、世界征服だって可能になる」

「なっ?! そんな事をしようとしているのか!」


 ただでさえ人間は魔物に手も足もでないのに! 生き残るのに必死の筈だ! 俺は例外だとしても! 止めなければいけない!


「お前を殺してその魔方陣をぶっ壊す!」

「……その殺気。流石だ。だが残念だな。私の前ではなすすべがないジ・アックス斧はここに

「?!」


 その瞬間、魔王の手には禍々しい斧が出現すると即座にそれを振り下ろす。その衝撃は地面をえぐり、いや消滅させるほどの威力だった。


「…………な?!」


 だが俺は立っている。まともにくらってもなお、無くなった腕は肩から元に戻っていく。


「その体、お主は人間なのか?!」


 魔王は驚愕する。同じ人間にさえ、同じ言葉を言われたな。化け物だとも言われた。けれど受け入れてくれた人もいた。


「人間だよ。変な体質を持った」

「そうか、なら死ぬまで殺し続けるまでだ。純黒の炎決して燃え残らない炎


 魔方陣から黒い炎が出る。それを避けて俺は魔王に突っ込む。


「代償魔法!」


 俺の左腕が無くなると共に右手に光が宿る。


「はあ!」

「ぐぅ!!!」


 魔王は大きく後ろへと体を動かされた。蹴られた腹を押さえて俺を睨む。睨んでいるのは同じだが。


「お前の魔法がどんなに強くても、俺には無駄だ。例えその黒い炎で燃やされようとも、絶対零度で凍らされようとも、俺には無駄だ。そうだな、計画を教えてくれた礼だ。こちらも俺の体質を教えよう」


 俺の体質は『感覚の再現』。1度に回復すればその感覚を覚え、いつでも回復できるようになる。燃やされれば熱い感覚で体の体温を異常なまでに上げることもできる。寒い感覚でも同様だ。

 そして『健康な体』の感覚で毒に侵されようが生きられない程に燃やされようが何もできないほどに凍らされようが生きて活動できる。


「だからお前が勝つことはない。だからと言って諦めろとも言わない。ただ俺は殺すだけだ。人間の為に、平和を望んだ先生の為に」

「……そうか」


 魔王の周りから大量の魔方陣が展開されるとそこから数えきれないほどの剣が出現する。


「なら、私は魔方陣が完成するまでの時間、負けなければいい」


 剣が一斉に俺の方へ向く。


「これから私が行うのは、最初で最後の!未来の為の防衛戦だ!」


 俺は迫り来る大量の剣を前に立ち向かった。

 何度も体を削ぎ落とされた。何度も燃やされた。何度も凍らされた。体を貫かれて、引きちぎられて、それでも俺は戦い続けた。

 痛みなんて、俺にはどうでも良かった。意地でも、無理矢理でも魔王に俺の全力を何度も叩き込む。


 死なない俺と何度も攻撃をくらっていく魔王。その戦いは何時間も続いた。魔王も魔方陣を完成させる余裕が無く。俺も休む暇もなく、天変地異でも無傷の魔王城も柱は壊れ、中はズタズタに壊れる。まだ建っていられるのが不思議なぐらいに。俺と魔王の血で床は見えない。


 何度倒れても立ち上がって、何度ぶっ飛ばされても立ち向かって、ずっと終わらないとさえ思えた。けれど決着は突然についた。


 魔王の魔力切れで決着がついた。


「はあ、はあ、」


 魔力切れか、いくら魔王とは言えそうなれば満足に動けない。魔力がなければ体はまともに動かないからだ。


「はあ、はあ、俺の勝ちだ。魔王、この魔方陣は破壊する」

「我が、負けるとはな」


 おかしいな、疲れていない感覚で息切れも疲れもない筈なのに、どうしてこんな。まあいい。

 膝をついている魔王の前にたつ。拳を握り、その拳を構える。


「さようならだ。魔王」


 魔王は命を諦めたかのように俺を睨むことをしない。力を抜いて、ただ受け入れていた。


「ああ、私の敗けだ。最後ぐらい、勝ちたかったのだがな」

「お前の最後は……最後ぐらいだと?!」


 その言い方と勝手も負けても死ぬ事を言っているようなものだ! 嫌な予感がする! 魔方陣は?!


「な、完成している?!」


 魔方陣は光だし、魔力が溢れ出す。


「どうすれば! いや、魔方陣を破壊すれば!」

「残念だがそれは出来ない」

「なに?! かは!」


 魔王の折れた斧が俺の腹を突き破る。


「もう、無理だ。その体質は寿命を削る。もう残っていない」

「寿命、だと! そんなこと!」


 俺は折れた斧を引き抜くと少ししか治らず完全には体は戻らない。


「そんな」


 俺の体はその場で膝をつく。腹から流れる大量の血は、魔王の言うとおり、寿命が既に無いことを表していた。


「……そうか」


 寿命か。俺もどこかではそう思っていた。俺と同じ体質の先生が死んだように。俺はもう、戦えないのか。ここで死ぬのか。


 まだこんな所では死ねない! 死んではならない!


 先生の言葉を思い出す。そうだよ、俺はここでは死んではならない。だから、悔しい。


「……無理だと言っているだろう」


 俺は魔方陣へと歩き出す。溢れ出す魔力に触れるとその部分は消滅した。後ろを向くと魔王の体は徐々に消滅していっている。だから魔王城のには誰もいないのか。

 おそらく魔方陣の近くは魔力の濃度が高すぎて体が耐えきれないんだ。この魔力が辺りに散らばり、濃度は耐えられるまでに薄くなり、魔物たちに届く。


「なあ魔王。無理だと言っているが、俺はまだ五体満足だ」

「……まさか?!」


 俺の体は光出す。


「悔しいけど、俺はもう戦えない……くそ! ここで終わるのか

 ! おれは! 」


 俺はまだ何も成し遂げていない! 何も! 先生が戦った意味は?! オレが戦った意味は! なにも変えられずに終わるのか! 俺は!


「けれど、先生ならこういう筈だ! 『だからと言って目の前の事を諦めない!』て!」


 俺は魔方陣へ走り出す。左腕を失うとその力は僅かな時間、魔力の中を走れた。右腕を失って魔方陣の前までこれた。左足を失って魔方陣に触れることが出来た。


「先生、すまない。俺も貴方の所へ行くみたいだ」


 俺にできることは、もう人間が生き残るのを願うだけ。怒られるだろうな。後を継ぐなって言われたから。


「すまない」


 俺は右足を魔方陣に突き刺す。その瞬間、魔方陣は大爆発を起こし、光が全てを飲み込んだ。そこで俺の意識は途切れた。














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