第11話
「事の始まりは5年前でお嬢様が
12歳の時です。
私が執事として仕える事になった
最初の年でした。
西園寺家の今の主人と私の父が
知り合いで、西園寺家の執事の仕事を
してみないかとお誘いを受けて
仕える事になりました。
まだまだ新米だった私は
失敗ばかりでよく先輩執事に
怒られたり、お嬢様にご迷惑を
かけてばかりでした。
そんな未熟者であった私は
その年に最大の過ちを犯すのです。
それはお嬢様と私が屋敷の外を
散歩していた時でした。
初めてお嬢様のお付き役を
任された私は張り切っていましたが、
西園寺家から出てくるお嬢様を
待ち伏せていた悪党共に
さらわれてしまったのです。
私は悪党共に立ち向かったのですが、
悪党達の力が強く、情けないですが
お嬢様をお守りする事が出来ませんでした。
私はすぐに主人と先輩執事に報告し、
悪党達から連絡が来るのを待ちました。
やはり悪党達の目的は身代金でした。
身代金と引き換えにお嬢様の命を
助けてやると言われ、身代金を
用意してお嬢様は西園寺家に
戻って来られたのです。
私はお嬢様にあの日、
お守りできなかった事を
謝罪しに行きました。
勿論許してもらえるなどとは
毛頭考えてもいなかったのですが…。
私がその旨を伝えるとお嬢様は
「何のこと?」と仰いました。
お嬢様は誘拐のトラウマで
記憶を完全に失っていました。
誘拐時の記憶だけでなく、
過去の記憶も忘れてしまい、
昨日の記憶も覚えられなくなる程の
記憶障害に陥っていました。
私は自分のせいでお嬢様が
記憶障害になってしまわれたと思い、
あの時お嬢様を守れなかった
自分を毎日悔み続けました。
そして、お嬢様のサポート役を
生涯に渡って勤める事を誓ったのです。
その頃、あまりに私とお嬢様の様子を
名付けられる黒猫を買ってきました。
これがお嬢様が記憶障害になった経緯と
勿論、今でも自分の不甲斐なさで
お嬢様をお守り出来なかった事を
悔み続けていますし、
初めて会った時から可愛いと
お嬢様の事を想い続けていましたが、
あの誘拐事件があってからは
お嬢様に恋心を抱くのが
おこがましくて生涯に渡って
この私の命を張ってでも
お守りし、忠誠を誓いたいと言う
今の私の想いです。」
「そうだったの…。そんな事が
私の過去にはあったのね。
私が昨日の事でさえ記憶出来ないのは
トラウマのせいだったのね。
でもね、暁斗。これだけは言えるわ。
昨日の事でさえ記憶出来ない私を
変えてくれたのは貴方じゃない。
写真という手段を使って
私の過去の思い出を記録させてくれる
素晴らしさに気づかせてくれたじゃない。
私が写真のお陰で元気になったのも、
復学できたのも写真部に入部して
先輩や友達が出来たのも
全部貴方がキッカケを
与えてくれたからだと私は思ってるわ。
だから、貴方はそんなに自分を
責める必要は無いわ。
後悔を抱く必要もない。
私は貴方をもうとっくの昔に
許してるもの。
貴方の、いつも私に対しての
献身的な行動がそれを物語ってるわ。
暁斗、私がこれだけ言っても
まだ私との恋愛は考えられないかしら?」
「お嬢様…。ウゥッ…。グスッ!
ありがとうございます。
こんな未熟な私を許していただき
本当にありがとうございます。」
「暁斗、泣かないで。」
俺が泣き出して下を向いていると、
暖かい温もりを感じた。
お嬢様に抱きしめられていたのである。
もうお互いをどう想ってるとか、
好きとか付き合うとか言葉は要らなかった。
俺はこの日今まで背負っていた業から
解放され、絶望の極地から一転して
お嬢様と共に歩む希望に満ちた未来が
見え始めた気がした。
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