第9話


「江ノ島だー!海だー!夕焼けだー!」

「ロマンチックだな」

「海ってとても綺麗ですね。」


私達は場所を移動して

水族館から江ノ島の海へと

来ていた。

夕焼けに照らされた海面は

とても美しく、初めて海を見る

私にとってとても思い出深いものと

なったのである。


「じゃあまた撮影やるぞー。

今度も1時間取るが、暗くなってきたら

危ないからその時は早めにここに集合な。」

「はーい!行ってきまーす!」

乃ノ香はテンションが上がっている様で、

早速撮影に繰り出して行った。

「私も行ってきます!」

そんな私も初めての海に

興奮を覚えており、早くこの

美しい光景を撮影したかった。

「行ってきな。暗くなる前に帰るんだぞ。」

「了解です!行ってきまーす!」


「カシャッ!カシャッ!」

私は水族館に引き続き、夢中になって

シャッターを切っていた。

私の場合は過去の出来事は記憶には

残らないので、今感動している

この光景を記録として残したかったのだ。

そんな撮影に夢中になっていると、

向こうの砂浜から部長が

こっちへと向かって来た。


「おーい!そっちはどうだ?撮れてるか?」

「はい!素敵な写真を沢山撮れて

ワクワクしています!」

「なぁ、陽乃はるのちゃん。いや…陽乃はるの

頭良いお前ならとっくに

気づいてるんだろう?

俺が意図的にお前に逢いに来てることを。」

(!まさかとは思ったけど、本当に

偶然じゃなくて部長の意図的な

行動だっただなんて…。)


「薄々は気付いていました。

でも、何でかなとは思ってました。」

「そうか…。実は陽乃はるのに話があってな。

春の撮影会の時を覚えているか?」

今の私には過去を記憶出来る手段は

写真しかない。

急いで春の時に撮影した写真を表示した。


「私がハルジオンを撮った時ですよね?

確か初めて皆に写真を認めて貰って

嬉しかった記憶が有ります。」

「俺がその時撮影してた花は覚えているか?」

(…。正直、あまり思い出せない。

意外だったことと素敵だったことは

辛うじて覚えている。)


「確か意外な花だった記憶が有ります。」

「タンポポだ。前も話したかもしれないが、

英語名でダンデライオンと言って、

その英語名も気に入ってるし、花言葉の

真心の愛や別離と言った正反対の意味を

持つ所も気に入っている。

実はな、その時にハルジオンを被写体に

選んだ陽乃はるのに親近感を覚えたんだ。

ハルジオンもタンポポも普通の人からしたら

雑草に近い花だよな?

でも、俺も陽乃はるのも道端に生えてる

小さな命を大切にしている。

その時、あぁこの子は俺と同じ感覚を

持っていて、どんな子なんだろう。

もっと知りたいと思ったんだ。」


「そうだったんですか…。

でも、最近部長との接点は多いですよね?

何かと話すことや会うことが

多くなりましたし。」

「それも意図的にやった事だ。

…。回りくどいよな。俺はこの

夕日に照らされた海をバックに

言いたかったことがある。

陽乃はるの、お前が好きだ。

付き合ってくれないか?」

「部長!部長が私を好きってことですか?

驚きました…。」

「今まで気づいてなかったのか…。

どうだ?直ぐには考えられないなら

いつでも返事は待ってるぞ。」

「私もつい最近、復学して外界との

接触を始めたばかりなので…。

恋とかよく分からないんです。

少し考えさせて下さい。」

「分かった。ゆっくり考えてくれ。」

「分かりました。」


(まさか部長が私のことを

好きで、付き合って欲しいと

申し込まれるなんて…。

ここ最近、人生で初めての

経験ばかりだわ。

恋愛なんてどうしたらいいか

分かんないよ…。

どういう感情が好きって言うんだろう。

帰ったら暁斗に相談してみようかしら。)


そんな事を考えながら、今回の撮影旅行は

終わりを告げたのであった。

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