第4話
私には過去の記憶が無い。
私がどんな人生を歩んできたのかも
分からないし、昨日の事もあやふやな事が
多々ある。
執事の暁斗にはいつも申し訳なく
思っている。
5年前から仕えてくれているらしいが、
大切な存在という事は心で感じる事が
出来るのだが、彼と過ごしてきた
5年間の日々は上手く思い出せない。
そして、その中に何か私にとって
重大な記憶を失ってしまっている
気がしてならないのだ。
だから、私はいつも暁斗に問うのだ。
「私は何か大事な事を
忘れてはいないか?」と。
暁斗はいつも私に気を遣って何も忘れてないと
言ってくれるが、私には薄々感じている。
私は日々失っていく記憶を何とかして
取り戻したいと考えている。
私が1つまた1つと忘れていく度に、
暁斗はいつも悲しげに笑うのだ。
それに、これからの私の人生が
どうなっていくかも非常に不安なのだ。
私は今、休学中である。高校には入学したが、
日々の記憶を失っていく私には
クラスメイトと馴染める気がしなくて、
段々と高校から足が遠ざかっていった。
このままではいけないと
いつも焦りを感じている。
私は幸い、勉強面での記憶は失われないので
成績自体は落ちてはいない。
むしろ、お父様に将来は立派な
大学を卒業してお父様の会社の後継者として、
跡を継ぐ事を期待されているくらいだ。
しかし、私が本当に送りたい人生は
そんな立派な人生ではなく、普通に
女性としての幸せである結婚や
子育てをしたいという願望がある。
私は将来、どうなっていくのだろう。
このまま記憶を失い続けたまま、
人生を送るのだろうか。
そんな悲観してた矢先だった。
暁斗が私の人生を一変させる物を
持ってきてくれたのは。
「お嬢様、こちらを見てください。」
「これは…。カメラよね?
それくらい分かるわよ。
それがどうかしたの?」
「カメラは写真を撮影する事が出来ます。
これを私がお嬢様とご一緒に
使ってみたいと思っております。」
「カメラを?どうして?」
「写真という物は記憶に残らない物でも、
記録に残す事が出来ます。」
私はこの言葉にハッとした。
「記憶に残らない物でも、記録に残る?」
「そうです。私の父がカメラマンを
やっているのですが、その信念を持って
撮影に励んでいます。これで少しでも
お嬢様の日々の思い出を残す事が
出来ればと思いまして。」
「暁斗…。」
暁斗のこの提案が私の記憶を取り戻す
重大な鍵となるのであった。
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