第3話
「暁斗、どうだ?
陽乃ちゃんは相変わらずか?」
「ああ…。笑顔は取り戻されてはいるが、
記憶は一向に戻る気配を見せない。
正直焦っている。このままお嬢様が
大人になると思うと、考えるだけで
震えが止まらない。」
「そうか…。記憶はまだ戻ってないか。
暁斗、俺がカメラマンをやっている上で
心掛けている事がある。
写真は記憶には残らない物でも、
記録には残る。
例え忘れてしまう過去でも、写真は
思い出としてその時の思いや感情を
残す事が出来るんだ。」
俺はその言葉にハッとした。
俺が幼少期に父の写真を通して
感じていた事と同じだったからだ。
同時に父の写真に託した思いや感情は
息子である俺にきちんと伝わっていた事に
喜びを覚えた。
「親父、俺にもカメラの使い方を
教えてくれないか?勿論、西園寺家の
執事はきちんと勤め上げる。
もしかしたら、今の記憶障害に
陥っているお嬢様にとって
写真が何かの打開策になるかもしれないんだ。」
「暁斗…。お前にも父さんが見てる
世界を見せる事が出来るんだな。
教えてもいいぞ。
陽乃ちゃんの助けになれば良いな。
お前の頑張り次第だぞ。」
「親父、ありがとう。お嬢様の記憶は
俺が必ず取り戻して見せるよ。」
こうして、カメラマンである親父に
写真を教えて貰う事になった。
写真という物は奥深く、知識と
技術は勿論必要だが、撮影者の
思いや感情を乗せる事が
出来る事に俺は改めて気付かされた。
親父には「お前の撮る写真は
技術や知識的にはまだまだだが、
お前らしさは出ているし、親である
俺にもやっぱり似ているな。
それを自分の物にいかに取り入れていくかが
大切になってくる。頑張れ。」と、
とりあえずは一端のカメラマンとして、
やっていける事になった。
俺はカメラを構えてみて、改めて
何を被写体にするか悩んでいた。
記憶を取り戻す事が出来る被写体とは、
何なんだろうと考えた。
お嬢様自身を撮影する事、お嬢様と俺の
日常でも良い些細な出来事を撮影する事、
他の手段や感覚で記憶を思い出せそうな
花や動物、風景なども撮影してみようと
思った。
まだまだお嬢様の記憶に残る写真を
撮るという俺の人生を賭けての目標は
始まったばかりだ。
これからどうなるか分からないが、
将来的にお嬢様が幸せになって
下さる事を期待してこれから
歩んでいこうと思う。
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