第2話

俺の父はカメラマンだった。

幼少期から世界中を渡り歩き、

数々の作品を撮影してきた。

俺は父の事を誇りに思っていた。

家に居ることはほとんど無かったが、

寂しい思いはした事は無かった。

俺には父が撮った写真があったからだ。


父の撮った沢山の写真を眺めていると、

異国の地に居る父を身近に感じる事が出来、

父が何を思い、何を感じてその写真達を

撮影したのかを想像する事が俺の

父との触れ合い方だった。


俺にとって写真は撮影した被写体や

撮影者を通して、思いや感情を

託したり残したり出来る物であった。


俺が西園寺家に仕える事になったのも、

父が西園寺家の当主であるご主人様と

親しい関係にあり、執事としての仕事を

紹介してくれたからだ。


俺は写真に対しての未練はあったが、

当時12歳だった可愛らしいお嬢様を

見て一目で今までに感じた事の無い

切ない気持ちになった。

そして、この可愛らしいお嬢様に

仕えていきたいと決意したのであった。


まだ新米執事だった俺にお嬢様は

とても優しく接して頂いた。

俺がお嬢様の前で粗相をしても、

笑って許してくれ、俺はその笑顔に

救われていた。

しかし、お嬢様と俺の人生は

あの誘拐事件をキッカケに180度

変わってしまったのであった。


誘拐事件を機にお嬢様は

笑わなくなってしまった。

そもそも事件の原因を作ったのは

未熟だった俺のせいだったので、

お嬢様には申し訳なさと後悔で

一杯だった。

しかし、生涯の忠誠を誓うと

決めた時にいつかお嬢様の記憶と

笑顔を取り戻したいと誰よりも

心から願っていたのだ。


だが、あれから5年経ち

少しずつ笑顔を取り戻されては

来ているが、記憶は一向に

戻る気配が無い。

俺は焦っていた。

このまま記憶が戻らずに

大人になってしまったら、

お嬢様の人生はこの先

どうなるのだろうと

考えるだけで不安で仕方が無かった。


そんな矢先、俺は久々に日本に帰ってきた

父と再会していたのであった。

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