第1話
「お嬢様、お呼びでしょうか?」
「暁斗、私なんだかとても大切な事を
忘れている気がするんだけど
気のせいかしら?」
「お嬢様は何も忘れてはいませんよ。」
「でも、昨日の事でさえ思い出せないの。
私は過去をどうやっても決して思い出せない。
私は脳の何処かがおかしいのかしら?」
「誰でも全ての過去を覚えている人は
居ませんよ。
お嬢様が昨日の事を覚えていなくても、
私がちゃんと大切な記憶や
思い出を覚えていますから安心してください。」
「分かったわ。暁斗、ありがとう。
下がっていいわよ。」
「かしこまりました。」
俺こと菅原暁斗は5年前から西園寺家に、
執事として仕えている。
西園寺家の一人娘であり、先程
会話していたのが西園寺
彼女と俺は毎日同じようなやり取りを
繰り返ししている。
お嬢様はまだ17歳という若さであるが、
記憶障害を患っている。
詳しい病名は
作業の手順や物や人の名前、知識などは
覚えていられるが、自分に関する過去は
一切覚えていられない心の病だ。
その記憶障害の原因を作ったのは
俺自身だ。
5年前にお嬢様が悪党どもに
誘拐されてしまった。
その時、俺も一緒に居たのだが、
まだ新米執事で右も左も分からなかった
俺はお嬢様を悪党どもから守りきれず、
お嬢様は連れ去られてしまった。
幸いにも身代金と引き換えに
お嬢様は西園寺家に帰っては来られたが、
その後遺症として記憶障害を発症していた。
そのため、お嬢様自身は誘拐された時の
記憶は勿論の事、昨日自分がどこで
何をしていたのか、どんな会話をしたのか
さえ上手く思い出せない状況に陥ってしまった。
全ては俺が未熟だったせいで、お嬢様を
守りきれずに記憶障害にしてしまった。
俺の生涯の
罪の十字架である。
その経緯もあり、俺はお嬢様に
生涯の忠誠を誓っている。
お嬢様が例え、
毎日同じような質問をしてきても
お嬢様を傷つけずに
正面から向き合っている。
それが今の俺に出来るせめてもの
贖罪なのである。
しかし、俺はお嬢様が辛い事を
思い出せないのは良いとしても、
楽しかった記憶でさえ忘れてしまう事に
酷く心を痛めていた。
例え、俺が覚えていてお嬢様に
その時の事をお話ししても、お嬢様は俺と
同じように過去の記憶が蘇る訳ではない。
そのため、何とかしてお嬢様が
楽しかった記憶を何かの形で
残す事が出来ないだろうかと
模索していたのであった。
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