第11話
「ああ、すみません、忘れてました。簡単にグループの紹介をします。
私達のグループは、当初は、私と、このいい年したかつての若者二人の計三人だったんですね。いつも私の家で練習してて、そうこうしているうちに、このぼうず、はじめがいつの間にかケーナの吹き方を覚えていたんです。あ、ケーナっていうのは、この縦笛のことです。
そのうち曲も覚えてしまって、家で練習していると自然と演奏に入ってくるようになった。こちらの佐藤は、元々ケーナを吹いていたんですが、本当はバイオリンが弾きたかったんです。それで、はじめがケーナのパート、佐藤がバイオリンのパートになり、今のような編成になりました。
そしてこちらは、ご存知の方もいると思いますが、この学校の国語科の教員、成吉です。今日は成吉から、音楽室での演奏会に空き時間があるという情報を得て、演奏させてもらうことになりました。しかし、この中で一番の初心者です。一応、関係者がいないのにこの場で演奏させてもらうわけにはいきませんから、スパルタ教育して、どうにか皆様の前に出せる形になりました。
だけど、このボンボ、太鼓もただぼんぼん叩いてるだけに見えるけど、けっこう大変なんですよ。リズムが合わなかったら、みんなばらばらになりますからね。未経験者なりに、いい仕事してくれてます」
先生や生徒が中心となって、元気な拍手が贈られた。成吉先生は照れた様子で頭を下げた。
「変な親父どもと、どう見ても高校生には見えない子供が現れて、皆さんさぞかし驚かれたと思います。食事の時間帯だからお客さんも少なくて、生徒さん達が演奏したがらないから、部外者が来ても大丈夫だって言われましてね、で、ずうずうしくも来させてもらっちゃいました。でも、気づいたら満席になっていて、びっくりしました。こんな知らない輩の演奏を最後まで聴いて下さって、みなさんどうもありがとうございました」
会場内から拍手がぱらぱら聞こえると、
「まだ終わってないよ」
佐藤さんと呼ばれたおじさんが茶茶を入れ、皆の笑いを誘った。
「では、最後の曲いきます。セレステ、青い空という曲です」
とうとう、最後の曲が始まった。
バイオリン、マンドリン、ケーナの音が、空へと昇っていくようだ。狭い音楽室の中じゃなくて、もっと広いところに解放してあげたくなる。
音が生き物のようだった。楽器のせいなのか、演奏者のせいなのか、曲のせいなのか。まるで空気も一緒に踊っているようだ。観客も夢中になって手拍子をしている。
バイオリンなんて、クラッシック音楽でしか使わない楽器かと思っていたが、マンドリンの乾いた音や、ギターのお腹に響くような音とよく合っている。全然異なる楽器同士なのに、初めにこういう形態を考えた人は、どうしてこうやって一緒に演奏しようと思ったのだろう。不思議だ。
思わず一緒に踊りだしたくなるような音楽で、でもみんな立ち上がるまではいかず、席に着いたまま一生懸命手拍子をしていた。なんだか、一緒に音楽を作り上げているような気持になった。
演奏が終わり、大きな拍手が鳴り響いた。アンコール、の声がわき出てくる。
「ほら、アンコールですって」
音楽の先生が微笑む。
「いいんですか? 次のグループは?」
「次のグループの演奏は一時からなんで、あと三十分ありますよ」
「でも、先生のお昼休みは?」
「私も聴きたいですから、気にしないで下さい」
「じゃあ、すみませんねえ、ひとつやらせてもらいますよ。えっと、何がいいかな…」
はじめ君がマスターの袖をひっぱり、短く一節吹く。
「ああ、それか。わかった。ええと、プリムイ、歩こうっていう曲をやりますね」
その後もアンコールは続き、結局一時直前に、次のグループの準備が始まるまで、演奏は続いたのだった。
演奏が終わると、はじめ君の方へ女の人が駆け寄った。何か語りかけているようだ。お母さんなのだろう。はじめ君も、幾分幼い表情を見せている。
僕もみんなの輪へ入っていいものかどうか迷っていると、「何してんだ、こっち来いよ」とマスターが手招きした。
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