39. ちょっとした話し合い+なかがき

 グレーとの諍いがひと段落し、魔法少女とも別れたところでまた一悶着だ。今度は昨晩話をした少年、のぞむが現れた。

 身体は傷だらけで、血も滲んでいる。髪や服は煤けてしまいボロボロだ。必死の形相で俺たちに助けを求めてきた。


「ラミィ、望に加速魔法を頼む」

「任せてください」


 ここまで必死なのは、きっと急いでいるからだろう。緊急事態なはずだ。昨日ラミィが防御魔法をかけたので大丈夫だと思っていたが、それは間違いだった。ここはラミィにとって異世界なのだ。魔法だけじゃない、科学もある世界。安心しきっていてはいけなかった。

 ちらりと恋人の顔を見れば、いつもより硬い表情をしている。ふわふわとした余裕が薄く、責任を感じているのだろう。後で慰めてあげようと思いながら、自分自身に加速魔法をかける。身体も思考も両方だ。


「ミシェルがさらわれたんです!!お願いします!俺は、俺じゃだめだったんです!」

「わかったから落ち着け。急いでいるんだろう?」

「そうです!だからお願いします!!」

「落ち着け。俺たちを誰だと思ってる?絶対に助けてやるからゆっくり話せ」

「は、い。今朝、俺の家がグレーに襲われました」


 もし敵が日常的に加速魔法を使っているのなら、今ゆっくりと話しているのは悪手かもしれない。

 けれど、エストリアルという世界で培った魔法の力がこの世界で通用しないわけではないのだ。いくらエステラでも常に加速魔法を使っているようなやつは存在しなかった。希望的観測ではあるが、今は大丈夫だと判断しておくしかない。まずは望の話を聞いて、そこから行動を開始しよう。



 話を聞いたところ、簡単に言えばグレーに襲われ望は魔剣の力で空間を越えて来たそうだ。望の家族も善戦したらしいが、素早くミシェルだけ連れてヘリで逃げられてしまったとか。傷だらけになった理由は魔剣の副作用で、防御魔法そのものは完璧に働いていたらしい。


「空間移動ができるなら、その魔剣でミシェルの元へ行けばよかったんじゃないか?」


 話を聞き終え、最初に問いかける。望が背負った魔剣を指差して伝える。


「それが、どうしてかミシェルの元へは行けないんです」


 移動魔法は自分が行ったことのある場所と何か魔力的に目印のある場所へ飛べる。目で見えなくとも、望も魔法に触れる身。ずっと一緒にいたミシェルの魔力を感じ取ることはできるのだろう。それでも飛べないということは、つまり。


「阻害結界か」


 おそらく、移動魔法の阻害結界が張られているのだろう。


「ラミィ、行けるか?」


 普通の魔法使いにはできない。阻害結界が張られていれば魔法で飛べないのは当然だ。しかし、ラミシィスなら。ラミシィス・エステリアならできる。彼女は普通の範疇に収まらない魔法使いなのだから、できるに決まっている。

 今の問いかけだって、言ってしまえば儀式のようなものだ。ほら、ラミィの口元が自信満々に弧を描く。


「もちろんです!」


 力強く頷いてくれた。


「よし望。今回の肝は君だ。気合入れていくぞ」

「え、でも俺は…俺じゃあ相手にならなかったんです」


 顔を俯けるなんて、勇者らしくない。弱気な少年だ。あっさりとミシェルを連れ去られて自信を喪失してしまったのだろう。

 言っちゃ悪いが魔法使いにとってはあるあるである。


「なあ望。ミシェルはきっとおま…君を待ってるぞ」

「そんなのわかってますよ。…それでも、力が足りないんだからどうしようもないじゃないですか」

「"大事な女一人守れないで、それでも男か"」

「え」

「俺が昔言われたセリフさ。望。力が足りないなら、引き出せ。引き出せないなら絞り出せ。絞り出せないなら持ってこい。持ってこれないなら奪い取れ。なんでもいい。無理やりでいいから何が何でも助け出すんだよ」

「そんな無茶苦茶な」


 理不尽だとでも言いたそうな目をしている。

 そう、理不尽だ。そもそも魔法なんて理不尽の塊のようなものなのだから、理不尽を越えなくてどうする。魔法使いは魔法を使う者なのだ。理不尽の一つや二つ飛び越えらて当たり前。できなきゃそれは半人前だ。


「俺の場合色々犠牲にしなきゃならなかったが、その点望は幸運だ」


 自分自身とか犠牲にしたのをよく覚えている。そのせいでまた一歩人外に近づいたのだが、それは今はいい。

 幸運と言われ理解できていない顔で俺を見る。現在幼馴染をさらわれるといった不幸に見舞われたわけだが、それでも全然救いがある。その程度の不運なんでもない。


「俺たちがいるだろう。直接手を出したりはしない。これは望の戦いだからな。だが、手は貸せる。力が足りないなら俺たちから奪ってみせろ。望、貪欲に勇気を持って進め。それが勇者だ」

「――はい!」


 そして始まる、ミシェル救出作戦。

 向かうは敵地。残り時間2時間。12時には家に帰りたいところだ。さっさと済ませてしまおう。





※なかがき

あとがきならぬなかがきですが。

少し私の現実事情が色々あって小説の方を止めさせていただきます。

中途半端で申し訳ないのですが、生活が落ち着いたところで改めて再開したいと思います。

月曜日のお昼にこれを投稿している時点で察していただけると幸いです。来年には戻ってくると思うので、それまでお待ちをば…。

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