16. 勇者のことと目に映る幸福
ファミリーレストランで話を始めた俺たち。
ラミィは母さんとの会話に花を咲かせ、俺と子供ら二人は状況確認を進めた。そんなとき、少年望が自らを勇者と名乗る。
勇者か。勇者と来たか。…勇者かぁ。
「勇者にしては弱いなおま…君は」
「ゆ、勇者のことを知っているんですか!?」
「あぁ、まあな」
俺が知っているのはエストリアルの人造勇者だが。
そう驚くことだろうか。魔法があるなら勇者や魔王がいてもおかしくはないだろうに。
「望が勇者であることはいい。しかし、どうして君から魔力を感じないんだ?勇者なら魔力を持っているはずだろう?」
「それは…俺が勇者の一族だからです」
勇者の一族ときたか。聞いたことないぞ。
ラミィに聞き覚えがあるかどうか尋ねようと思い隣を見る。声をかけようとしたが、お隣の美人さんは当たり前のように思念魔法で母さんと楽しくお喋りしていたので、開きかけの口を閉じる。
すっと視線を前に戻す。微妙な顔つきの望と目が合った。
「そうか。勇者の一族か」
「はい。ずっと昔、俺の先祖が戦争へ利用するための人造兵器として生み出されたらしいです。そのとき、体外魔力を取り込んで体内魔力として運用するための装置が身体全体に組み込まれたと聞きました」
「なるほど」
「その人造兵器は二種類作られたそうで、魔力の精製よりも運用効率を上げることでバランス良く戦闘を行えるタイプが一つ。魔力の精製速度を極限まで伸ばし、大規模魔法を使用すること前提としたタイプがもう一つ。これらの名称として、バランス型を勇者、一点特化型を魔王としたそうです」
「…人造勇者に人造魔王か」
どこの世界でも考えることは同じなんだな。
俺が行った異世界でも人造の勇者と魔王がいたよ。どちらも戦争に利用するために作られ、実際に戦いで活躍し、最終的に国に反旗を翻して母国を滅ぼしたが。当時、俺も国家破壊ビームに巻き込まれそうになった。事前にラミィ特製防御魔法を使っておいてもらってよかった。そうじゃなかったら全身やけどしていたかもしれない。
「わかった。そういう事情なら魔力がないのも納得だ。なら俺の見立てより君は強いと考えていいか?」
先ほどの言葉が間違っていたとしたら謝らないといけないので聞いた。
予想に反して望少年は恥ずかしそうに頬をかく。どうにも、強いわけではなさそうだ。
「い、いえ。俺はバランス型の勇者の一族ですけど、血は薄まっていますから。一応体外魔力を取り込んで魔法は使えます。でも、ほとんど役に立たないんです。魔力の精製にも時間かかりますし、使えても目くらましやちょっとした火や風を起こすくらいですよ」
「そうなのか」
「はい。俺は本当にそんな感じです。むしろ山川さんの知っている勇者について聞きたいんですけど、そもそも俺の一族以外に勇者っているんですか?」
勇者本人からしたら気になるか。しかしそう簡単には伝えられない。異世界のことは話さないつもりなのだから、上手い具合に勇者のことだけ伝えなければ。
「勇者はいるぞ。原理は望が言った通り、人造だ。詳しくは話せないが、実力は申し分ないものだった。そうだな、魔法一つで国を沈めた、と言えばわかるか?」
「く、国をですか…」
「それは、すごいです」
二人の反応が微妙に違う。望の方は若干引き気味なのに対して、ミシェルは目を見開いて驚いている。驚きの中に好奇心が混じっているのは気のせいだろうか。
見なかったことにしよう。魔法ジャンキーはエステラのやつらだけで十分だ。
「でもその…山川さんの知ってる勇者って昔の人、ですよね」
「ああ、そうだな」
「じゃあ山川さんもそんな昔から生きている、ってことですか?」
なかなか鋭いぞ望。
「いや、そうでもない。偶然知識を手に入れる機会があってな。当時の人間の記憶を持っているんだよ」
あながち間違いでもないのでこれでいい。完全な嘘よりもある程度真実を混ぜた方がいいというのは、世間一般よく言われていることである。少なくともエストリアルではそうだった。
「そういうこともあるんですね」
「やっぱりすごいです」
適当な出任せをあっさり信じるとは。まだまだだな望。あとミシェル、君は魔法ジャンキーの目をしている。その目で俺を見ないでくれ。家に帰りたくなる。
「はいはーい、おまたせしましたー。やー、ちょっとお義母様とのお話が楽しくて長引いちゃいました」
言いながら会話に入ってくるラミシィス。同時に魔力の流れも途切れ、魔法を使用している感覚もなくなった。
「それはよかった。母さんはなんだって?」
「うふふ、盛護さんをよろしくとおっしゃってましたよ。よろしくされちゃいましたねー。これは結婚秒読みです」
「そうか。了解」
「そっちはどんな感じにお話進みました?」
にこにこと大人可愛い笑みを浮かべている。事実可愛い。俺の恋人が可愛い。
「望が勇者、血は薄い。ミシェルは情報何もなし」
「ふむふむ、お料理は?」
「望、ミシェル。決めたか?」
「「決めました」」
「だ、そうだ。ラミィ、あとは俺たちだけだよ」
「そうですか。盛護さん、一緒に決めましょう?」
「おう。悪いな二人とも、少し待っていてくれ」
「はい」
「はい。あ、あの、ドリンクバーもつけていいですか?」
「ええ…。ミシェル、少し図々しくない?それ」
「え?そうかな?」
「別にいいぞ」
「わーい、ありがとうございます」
「あー、っと。ありがとうございます」
素直に喜ぶミシェルと申し訳なさそうな顔で礼を言う望に手を振って返事をする。
開いたままだったメニューを隣の恋人と一緒に眺め始めた。遠い記憶の料理とは色々と違っているように感じるが、もう正確にはわからない。なんとなく程度でしか覚えていないのだ。
「どうしましょう。どうせなら二人で違うものを頼みたいですよね」
「そうだな。ラミィが食べたいものでいいぞ。どうせ食べさせ合いするなら君の好きなものを選んでくれ」
「ふふ、わかりました。そうさせてもらいます」
柔く微笑んで幾度かページをめくる。
メニュー表に視線を奪われているラミシィスを静かに眺める。ただそんな姿を見ることだけが、どうにも楽しくて仕方がない。自然と頬が緩んでしまう。
まったく、子供みたいな表情を浮かべて。これを見るためだけに必死に頑張ってきただなんて、俺もたいがい馬鹿な男だ。
「ん、どうかしました?あ、食べたいものありましたか?」
「あぁ、いやなんでもないよ」
だが、まあ、悪くない。
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