15. ファミレスと魔法の話

 日が沈む夕方。大人二人と子供二人の四人組はファミリーレストランへと足を踏み入れた。俺にとっては十年ぶり。ラミシィスにとっては初めてとなる。

 平日夕方だからか、人の数もそう多くはない。待たされることなく席に着けた。テーブル席だ。入口からは遠く、ドリンクバーが近くにある窓側の席。位置は俺とラミィが通路側。ソファー側に少年少女とさせてもらった。俺の正面に少年、ラミィの正面に少女といった形だ。


「じゃあ拘束外しますけど、大声あげないでくださいねー。お店の迷惑になっちゃいますから」


 お姉さんらしく言い聞かせるような口調となっている。普段のラミィより少しだけ大人っぽい。

 少年少女は小さく頷いて、それを目にした彼女がささっと手を払って魔法を解いた。認識誘導魔法は子供二人にもかけてあるので、注目を受けることはないだろう。


「――あ、こ、声が出る。ええと、ミシェルは大丈夫?」

「――うん、大丈夫みたい。のぞむ君も大丈夫?」


 期せずして二人の名前を知ることとなった。

 望少年とミシェル少女か。


「俺も大丈夫。ええと…お、俺、福谷ふくやのぞむって言います」

「わ、私はミシェルです。ミシェル・ルビハートと言います!」


 日本人の少年に、外国人の少女。魔法に対する驚きがないところを見るに、二人とも魔法のことを知っているようだ。


「ふむ、望にミシェルか。よろしく」

「ふふ、よろしくお願いしますねー」

「「よろしくお願いします!」」


 いったんの挨拶を終えたところで、店員が水を持って来てくれた。お礼を言いつつ水を飲むと…これは変わらないか。普通の水だ。

 気を取り直して話を続けようと。


「盛護さん、何食べたいですか?」


 思ったところでラミィに話しかけられた。


「そうだな。一緒に見よう」


 子供二人との会話は後回しにしよう。今はラミィと一緒にメニューを見ることを優先しなければならない。


「君たちも好きなように頼んでくれ」

「え?あ、はい」

「い、いいんですか?」

「いいぞ。俺たちだけ食べているのもおかしいだろう?金のことは気にするな」

「わかりました…。ありがとうございます」


 ぺこりと軽く頭を下げるミシェル。望が開いたメニューを二人で見始めた。それを確認し、すぐに俺も目下のメニュー表に戻る。


「……」


 今気づいた。ここで食事をするということは、夕飯がいらないということになる。家では母さんが料理をしてくれるだろうから、その旨を伝えなくてはならない。

 いや普通に今食べて一時間後だろうと問題なく食べれるだろうが、それでも夕飯まで外で食べてくることは伝えなくては。

 携帯電話には何もデータが入っていないので、ささっと思念魔法を使う。魔法を使った瞬間隣のラミィと目前のミシェルからチラ見されたが、気にせず続ける。


『母さん?俺だよ』

『ひぅ!な、なんなの?盛護?』

『そう、俺だ』

『こ、これも魔法、なの?』

『うん。魔法。思念魔法ってやつだよ。電話みたいなものだから、あまり気にしないでくれ』

『そう…。ええ、わかったわ。それでどうしたの?』


 突然の脳内コールに動揺しつつも、すぐに冷静さを取り戻してくれた。やはり魔法のことを話しておいて正解だった。話が通りやすい。


『あぁ、今ファミレスに来ているんだ。だから夕飯は明日食べるよ。食べられたら今日食べるが』

『そう。わかったわ。ラミちゃんも一緒なんでしょ?少し変わってもらえる?…変わったりできる?』

『…まあ、できないこともない。少し待っていてくれ』


 うちの母はうちのお姫様と話をしたいらしい。

 普通なら俺を起点とした思念魔法を他人起点に変えるなどできないが、そこは最高峰の魔法使いラミシィス。他人の魔法を使いこなすのも朝飯前である。


「ラミィ、母さんが変わってくれって」

「ん?はーい」


 すっと人差し指を振って魔法の制御を奪う。

 ラミィのこの魔法奪とも言える能力だが、基本は誰にでもできる。奪われる側が抵抗するかどうかと、奪う側の制御力で変わってくるものだ。そのため、下手な奴が人の魔法を奪うと、魔法が暴走して魔力が爆発する。魔法の規模にもよるが、弱いものでも手足は吹き飛ぶのでおすすめできない。

 俺の場合、暴発しようが身体が強いので耐えられる。以前にも何度か自爆特攻させてもらった。俺のような敵もいるので、魔法使いは十分注意してほしい。


「ん?ミシェル、どうかしたか?」

「あ、い、いえ。…今魔法をお使いになられていますよね?山川さんからラミシィスさんに起点がずれて…あ、でも流れは山川さんから来ているような…」


 魔力は見えているようだな。やはり魔法使いか。魔力量的にエステラレベルだと考えると、なかなかにやばい。軽く大陸沈めるくらいの魔法は使えるぞ、この子。


「君は魔力が見えるんだな?」

「は、はい」

「なるほど。だが魔法奪のことは知らないようだな」

「「まほうだつ?」」


 少年少女が声を揃えて聞いてくる。子供らしく真っ直ぐな表情に頬が緩んだ。

 エストリアル、というよりエステラのやつらはどいつもこいつも子供だろうと生粋の魔法使いだったからな。魔法に乏しい俺をアホアホと罵ることしかしなかった。改造されて魔力を得てからは魔法バトルだったよ。普通に負けたが。そしてさらに馬鹿にされた。


「ーー山川さん?」

「なんだ?」


 望に声をかけられ我に返る。

 最終的に魔法(物理)で勝利した忌まわしい記憶を思い出してしまっていた。

 なんの話だったか。そう、魔法奪の話だ、


「すまない、魔法奪のことだったな。魔法を奪うと書いて魔法奪だ。文字通り、他人ひとの魔法を奪う技術のことを言う。ミシェル、君は魔法が使えるんだろう?」

「はい、ラミシィスさんほどではありませんけど…」

「望、君は?」


 魔力を感じないから使えないとは思うが、エステラにも体外魔力を取り込んで自分の魔力として使う意味不明なやつがいたから確実なことは言えない。


「俺は…」


 どこか神妙な顔つきで声を出す望。もしかすると、これは本当にあるのかもしれない。


「俺は、勇者なんです」


 ほー。

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