5-4★ ご愁傷様です。
こんな時まで企むとは、
なのに叶馬は、佑を責める手を引こうとはしない。空気をはらんでぐちゃぐちゃと出入りする感触と音が、佑を内から外からあおりたて、先を急かす。
もうだめだった。これ以上は我慢の限界だった。
出口のないまま渦巻く欲望は、焦げつき、脳天がちりちりと焼けるような錯覚を覚える。思考も視界も白んでいくようだ。
(……)
ふわりと、佑は不意の浮遊感を覚えた。
意識が遠のくのが分かる。ここで意識を手放したなら、佑はどうなるのだろうか。
もしや消滅してしまうのでは? ここで気を失えば、次の目覚め(?)はないかもしれない。そのまま成仏なんかしてしまうのではあるまいか?
(…叶馬)
それは嫌だ。
それだけは嫌だ。
一方通行でもいい。
もっと叶馬と語らっていたい。
もっと叶馬の熱い息吹を感じたい。
もっとこのまま叶馬のそばにいたい。
もっともっと、俺と一緒にいてほしいんだ!
ずっとずっと、いつまでも抱きしめていてくれ!
叶馬、叶馬、叶馬、叶馬ぁぁぁ――!
このまま俺を放さないでくれ…!!
………………
「…………と、ま…っ
(…あれ、声?)
…も、ぅ……くれぇ……」
(出た――!?)
喉はひりつき音はしゃがれ、呂律の怪しい口ではあったが、佑はたしかに言葉を発した。
叶馬、もう(このまま俺を放さないで)くれ――…。
しかしまぁよりにもよってこのシチュエーションで、復活(?)して、最初に発した言葉がそれだなんて。
(……俺も、最悪じゃん)
叶馬は一瞬、驚いたのか動きを止めた。
なんの前置きもなく指が佑の中から引き抜かれる。
――!
がばりと身を起こしベッドへ乗り上がってきた叶馬に、佑は力任せに半身を引っくり返し戻された。遠慮なくつかまれた肩が痛い。腰がねじれる。
「……佑」
これ以上ないほど大きく眼を見開き、のぞきこんでくる叶馬に気恥ずかしさがこみあげて、佑はしぱしぱとまばたいた。視線を逸らす。
(目玉だって動くし)
「おはよう、佑」
「……」
佑の避けがたい視界の端で、叶馬の顔はくしゃりと歪み、満面の笑みを浮かべて見せた。
「おかえり、かな」
「……」
やわらかく髪へ手指を差し入れられ、撫でられる。
佑の思考は停止した。
これは、いったい、何がなにやら――。
「待ってたよ」
…と、撫でる手そのままに腕に頭を囲いこみ、叶馬は佑を抱きしめた。
(はい――?)
待っていた、だと――!?
とたんに佑の思考力は復活だ。
「…――え?」
疑問や文句を口にするより先に、佑はのしかかる男の下腹めがけ、力いっぱい目一杯、足蹴りを繰り出した。
「…むぐぁーっ!!」
(脚だって動くじゃん)
おぉ、どうやら身体も意思どおりに動くらしい。瞬発力も健在だ。
渾身の一撃は、きれいに狙った的へヒットしたようだった。
叶馬はおかしな叫びをあげるやいなや、佑の上から退く余裕もなく、その場で身をふたつに折ってうずくまった。
……ちーん、ご愁傷様です。
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