5-3★ アンタ最悪だろ

 濡れた舌が、奥まった部位へ忍びこんでくる。すぼまったそこを丸くなぞり、襞を掻き分けて潜りこもうと試みる。谷間に吸いつく唇は軟体生物のように蠢き、せっせと唾液を送りこむ。

 くぷくぷと湿った音まで聞こえだせば、たすくはひとたまりもなかった。叶馬とおまと己れを止めようと試みた自制心など、粉々になって宙へ舞う。

「ど…? くなってきたでしょ」

(……)

 充分に湿らせたそこへ、叶馬は今度は手で触れてきた。指先で円を描くようにして周囲をなぞり、解きほぐす。

「もう弛んできたよ、ほら」

(…っ!)

 くるくるとまわしながら道筋を定め、そのまま指を一本挿しこんできた。通い慣れた道だ、佑の身体はたやすく叶馬の指を迎え入れる。舌とは違うたしかな質量が、内壁をこすりつつ奥へと進む。

(ん…っ)

 佑以上に佑の体内をよく知っている、叶馬の指だ。それが、佑も知らない感覚の深遠を探りだす。ゆっくりと挿し入れては一気に引き出し、押しこんで留まり、いたずらを仕掛け、またじりじりと引き戻す。

(…っ、…っ)

 叶馬は、佑の弱みばかりを意図的に弄りはじめた。好きな位置も苦手な角度も、彼には知りつくされてしまっている。

(――…、…っ、――…)

 いいところでわざと肩すかしを食らわせては、また急激に責めたてられる。泣きどころを心得た叶馬の手管に、佑はすっかり翻弄された。

(…っ、…っ、――…っ)

 佑からは、もはやはかばかしく言葉すら出てこない――はなから喋ってはいない。

 だめだ、たりない。もう指などでは追いつかない。同じ場所にもっと別のものが欲しい。隙間がなくなるくらいに圧倒的な熱と質量で、佑は溶かされ満たされたい。

 そうした愛され方を、佑は叶馬に教えこまれてきた。

 草葉の陰から見守ってくれているだろう両親には、いっとき目をつぶってもらおう。

 人道も健康も精神衛生も、生死のボーダーラインだって、もはや遠くへうっちゃらかして。叶馬が望むならば、佑はオールOKだ。とっくに準備万端整っている。ふたりで恋人の新境地を開拓しよう。さあ来い叶馬! 

 これぞ愛の勝利というやつだ!!

(……あ…)

 だが。

(…れ――?)

 拒絶と期待を右往左往しつつ、いくら待てども、叶馬は次の手を繰り出してくる気配がなかった。

(叶馬?)

 いや、佑は待っているわけではけっしてないが。

(何もたもたしてんだよ、アンタ、怖気づいてんのか)

 だから、望んでいるわけではけっしてないのだが。

 もうとっくに弛んでいる佑のうしろを丹念にほぐすばかりで、叶馬はそれ以上は行動に移さない。

(ちょ…、何考えてんだよ)

 ――いや判っている、叶馬の考えなどお見通しだ。あだやおろそかな覚悟で恋人を務めてきたわけじゃない。この手管の目的を、佑が知らないでか!

 これはいわゆるひとつの――。

(焦らしてんじゃねぇ…っ)

 そうだ、こいつは佑からの懇願を引き出す時の、叶馬の常套手段だ。

 おまえからねだってみせてよと、この手口に今まで何度もさんざん泣かされた。

(あぁ、くそ、アンタ最悪だろぉ)

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