5-2★ …あ・いぃ・う

 もっともあの時は、嫌というほどさんざん弄られ可愛がられたたすくの前は、今と違い力をみなぎらせ、健気に勃ちあがってはいたが。

 この格好をとらされるのは、思えばあれ以来だった。あの折、経験の浅い者にはこの体勢がベストなのだと、もっともらしいことを叶馬とおまは言っていたが、本当かどうかは怪しいかぎりだ。

「佑…」

 また熱っぽく囁いて、叶馬は背後へ身を寄せてきた。

 彼も腰を落としたのか、佑の視界から完全に叶馬の影が消える。

(おい、ちょっとまさか、アンタ…)

 尻たぶを両手でわしづかまれて、尾骨にきつく吸いつくキスを落とされた。

(――っ)

 たったそれだけで、ずり落とされた痛みに治まりかけていた佑の情動が、ふたたび蠢きだす。

 意思を持って触れてくる叶馬の唇が、たどる先は容易に予想がつく。この道筋の目的地はひとつだ。

(ちょっと待て、それはっ)

 いくらなんでもさすがにそれはまずいだろうと、佑は慌てふためいた。むろん身体は不動の静寂を守りつづける。

 生前こそ、倦怠期へも一直線かという勢いで叶馬と濃厚な夜を過ごしたものの。死体としての佑には、なにしろこれが初体験だ。どんな不測の事態が起こるやら予想もできない。すでにこれ以上は悪化しないだろう佑はともかく、叶馬には災厄が振りかかるかもしれない。愛を交わすには、佑は今や、最高に危険な男なのだ。

 そうだ、たとえ肉体が許容したとしても、心情的に受け入れられるわけがない。この先いつ終わるともなくつづくのだろう永眠生活で、ずっと、叶馬の…その、なんだ、アレを、腹に溜めこんだまんまだなんて、佑は考えるだに――…。

(…うっわぁ、ぜってぇ無理だ、それ)

 よしんば心の葛藤のあれやこれやを愛の奇跡で乗り越えたとしても、今の佑は衛生面からいっても、相当に危険な状態のはずだった。叶馬に、そんないらぬ冒険はしてほしくない。

 ――と、まあ、考えたところで。ぐるぐるめぐるそんな気持ちを叶馬へ伝えるすべが、佑にはないのだった。

(頼むからやめてくれ、叶馬っ。俺には無理だっ)

 そこまでいたしてしまっては、あの世にいるはずの両親にも、なんだか顔むけできない気がする。

「……」

(この先も生きてくアンタのためでもあるんだし、だからやめとけって)

 叶馬の健康のためだ、心と身体の。

「……」

(だいたいありえないだろ、俺は死体なんだぞ!)

 もとより、死者とは一線を引いて付き合うものだ。萌ぇ~な抱き枕でもあるまいに、ベッドへ引きこんで撫でまわすものではない。

(あぁっ、もう、少しは気づけ、己れの所業を省みろよ)

 虚空を舞う佑の声を、叶馬は聞きとった様子もなく。佑の尻へ熱っぽい息を吹きかけてきた。

(…あ)

 つかんだ尻の肉を揉みながら、右へ左へと交互に小さなキスをいくつも落とされる。こんな時、ちゅっちゅっと叶馬が派手な音をたてるのはわざとだ。佑に聞かせて、佑の恥ずかしがるところを見たいのだ。残念ながら、聞こえているものの、今日の佑はその期待には応えられそうにない。

 だが不思議な話だ、何を思って叶馬は音たててキスをくれるのか。死者たる佑の羞恥心をあおるつもりでもあるまいに。

 叶馬の思惑はさておき、鈍感な部分へもどかしい無数のキスをくりかえされれば、快楽を知る身は、もっと明確な刺激を求めはじめる。

(いぃ…)

 思いとは裏腹に次第に佑はざわめきだし、いてもたってもいられなくなってきた。物質的な変化は兆さなくとも、早くも心はめろめろだ。動けるものなら身をよじって腰を振り、今すぐにでも叶馬を誘ってしまうだろう。そうした佑の変化を見計らって、叶馬はいつも次なる手を繰り出してくるのだ。

(う…っ)

 こんなことばかり、佑の希求を汲みとったでもあるまいが。叶馬はもう一度、尾骨へ深く吸いつくと、尻の肉を左右に割り開いた。

(…――っ)

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